67 アフタースペース297 知らないところで怨みを買っていたようです。
「 64 アフタースペース297 会議の空気は読むものではなく、作るもの。」で登場した憲兵長、イムール視点でのリンガット様の評価な話です。
「なるほど、特に不正はなかったか。」
「はい、一部記載にミスがあったようですが、リンガット様がお気づきなられて修正されたようです。」
「そうか、御苦労。引き続き警戒を怠らないように。」
「了解であります。」
部下の報告を確認し、新たな役割とともに退室していくのを見守りながら、悔しさに歯を食いしばった。部下には見せられない余裕のない表情になっているのが嫌でもわかる。
「なにが、不正はないだ。ペテン師め。」
自分、イムール・アンツィフはコロニー黎明期からビックツリー家に協力しているアンツィフ家の末裔の1人だ。といってもこの時代で血筋の維持をしているのは、領主一族ぐらいで自分以外にもアンツィフという家名を持っている人間は多い。私個人も初代のアンツィフの直系というわけではなく、苗字だけを引き継いでいる傍流の1つでしかない。
「イムール、君は頼りになるな、まるで初代アンツィフみたいじゃないか。」
「はあ、そういうものか?」
それでも、それを誇らしいと思えるのはかつての友とのやり取りがあったからだろう。
「そうだろ、能力試験の成績はトップクラス。研修先での評価も上々、なにより先回りして気配りができる、これは一緒に働かせてもらった私が一番よく分かっているよ。」
「いえ、それだけです。自分はつまらない男なので。」
役場の警備員として働く自分に声をかけ、友は自分の事をそう賞賛した。口先だけのものだろうと最初は思った。客観的に見て自分は優秀だ。昔から物覚えは良かったし、他人の何倍も努力していた。だが、既存のシステムや役職が凝り固まった当時のビックツリーでは重要なポストや役職は満席で、縁やコネのない自分の出世は絶望的だった。
「その洞察力と行動力。私がコロニーを引き継いだときにそれを貸して欲しい。私はこのコロニーを改革し、誰もが平等で輝ける場所にしたいんだ。」
「ははは、いいですよ。」
冗談だと思っていた友の言葉に嘘はなかった。ただの警備員だった自分は、領主邸と友の身辺警護を担当となり、それをきっかけに法務の実行部隊、憲兵と出世できた。それだけの舞台を与えられば、輝くのみ、気づけば自分は10年と掛からず憲兵のトップにまで駆け上がっていた。
「約束を果たすぞ。友よ。」
苦難は多かった。出世するたびに、見えてくる既得権益と慣習という名で誤魔化された汚職や不正の数々と教育や指導という言葉で行われる嫌がらせ。それらと向き合いながら真摯に役割に務めた。
すべては、友との約束を果たさんがためだった。
だが、自分が約束を果たそうとしたとき、友はコロニーからいなくなっていた・・・。
「あなたがイム―ルさんか。これから忙しくなると思うけどよろしくね。」
「はっ、お任せを。」
友が座っているべき椅子にいたのは、彼とは似ても似つかない子どもだった。内縁の庶子の分際で、コロニー内の施政に口をだし、勝手な政策を次々とする悪童だった。それらは、友と自分たちが為すはずのこと、偉業として称えられるべきものなのに。
それが、友の言葉のように「誰もが平等で輝ける場所」を目指した不正を暴くものであれば、自分も納得できただろう。だが子どものしたことは今までのものと変わらなかった。
開発や施政の役割分担での慣習に子どもは口を出さず、各地での人事については能力ではなく血筋と縁故が重視され続け、過去の自分のように有能な人間は閑職で燻ぶったままだ。それでいて本人は人気取りのためにどこぞの半端役人やスラム出身者を重用して平等さをアピールしている。
スラムへの支援や違法行為への取り締まりも嘘っぱちだ。たしかに、違法薬物や人身売買といった犯罪は激減しコロニーの治安そのものは良くなった。一方で密造や商品の横流しなどは横行し、市場には非正規品が溢れて、転売や売り渋りによって一部の人間が私腹を肥やしているのが現状だ。そもそもとして、これらの取り締まり対象は子どもの就任を快く思っていなかった人間ばかりだ。取り締まりや改革という建前で政敵を追い出すための策略であることは明らかだった。
極めつけは新事業として子どもが立ちあげたロボット開発と販売だ。革新的な作業用機械という名目で売り出しているが、作られたものは兵器転用可能な危険なロボット。国際法の整備が間に合っていないため通常商売という扱いになっているが、やっていることは武器商売である。技術発展のためと謡いながらコロニーどこから宇宙中に不穏の種をばら撒いて金儲けをしているのだ。歴史書にある悪人と何が違うというのだろう。
かつて友と語り合い、夢に見た「誰もが平等で輝ける場所」は見る影もない。
「どうして、こうなった。」
自分だってこの流れを静観していたわけではない。憲兵長として、子どもの周囲を徹底して調査し、その活動や政策に付け入る隙はないか探り続けた。しかし、子どもや側近には横領や収賄などの疵はなく、行っている政策も表向きは合法だった。唯一責めれたのはロボットの兵器転用の可能性であったが、現状では難癖レベルのものでしかない。子どももそれを分かっているのだろう、会議の場で追及してものらりくらりと躱されてしまった。
結果として自分や同士達では子どもの専横を止められず、多くの同志が志半ばで失脚し、引退に追い込まれた。自分が無事なのは役職ゆえに手出しができないからなだけで、今後は分からない。
「運がよかっただけのクソボンボンが。」
幸運にも、解決法を発見し、サイト40の再開発に成功した。
幸運にも、スペースアントの巣という鉱脈を発見できた。
幸運にも、思い付きの商品が売れた。
幸運にも、ESPに覚醒した。
いやそもそも、友の息子として生まれたことだって幸運だ。
子どもの成功は運が良かっただけであり、友はそれを得られなかっただけのこと、もし一つでも友が得ていたなら、ビックツリーはこんな人の汚さと屈辱に塗れてはおらず、もっと過ごしやすく平和な場所になっていただろう。
なにより、正当な後継者であるあの友を差し置いて次期領主として振る舞っている雑種は許しがたい。
「このままでは済まさない。絶対にだ。」
幸いにも、子どもの運は尽きようとしている。
彼を庇護している現当主や側近たちは様々な事情でコロニーにはいない。それによる人手不足に不安を覚えたのか、愚かにも打ち出した政策の多くは引き継ぎが行われ、子どもの手から徐々に離れている。庇護者たちの存在を警戒していた者や子どものESPや人脈がなければ立場が危うくなると思っていた者たちも、自分や仲間の言葉に耳を傾けるようになった。
「所詮は金と権威に執着するクズどもだ。どうにでもなる。」
正直に言えばそういった人間達こそ友や自分の敵である。だが、大敵であり怨敵である子どもに対抗するために一時的に手を組むのも仕方ない。
いずれ、いやもうすぐ戻ってくる友のために、子どもを分不相応な立場から引きずり下ろす。そのためだったら、この手を汚すこともいとわない。そのあとは友やほかの同志が自分たちの夢を引き継いでくれるだろう。
「もうすぐ、もうすぐだ。」
本音を言えば、今すぐにでもあの小生意気な顔を殴って泣かせてやりたい。だが、千載一遇のチャンスだ。ことは慎重に進めなければならない。
「10年だ、10年待ったんだぞ、友よ。」
もうすぐ積年の思いが報われる。
イムール・アンツィフはそれを信じて疑わなかった。いや信じることで目をそらしていた。
友と呼んだ男が10年前に自分の立場を投げ出して逃げ出したことを。
そして、恨みや嫉妬を向けている相手が、その友の息子であり、更に悪辣な本性を隠していることを。
リンガット「・・・心当たりしかないなー。」
本当はもう一人の視点もいれようと思っていたのですが、イムールだけでなんかこってり味なってしまいました。
補足
そもそもクソダディーにはリンガットしか息子はいないし書類上は独身です。「内縁の庶子」というのはイムールのネガティブな感情から生まれた造語です。




