66 アフタースペース297 望んだわけでも、狙ったわけでもないけども
意外と家庭的な理由でした。
手直しがあったので連日投稿ならずで申し訳ございません。
頼れる側近であるジルオールとスーザンは、現在ビックツリーにはいない。と言っても事故とか不祥事ではなく休暇中なだけなので安心して欲しい。間違いなく慶事だ。
事の始まりは、昨年のビックオーシャンの訪問でのドーリス夫人とのやりとりだった。
「リンガット卿。余計なお世話かもしれないけど、もう少し人手を増やしたほうがいいわよ。特に、護衛関係は手薄すぎるわ。」
「うーん、うちはどうにも人材不足でしてね。」
「いないなら育てなさい。頼れるパイロットのように。」
ハイフィッシュの討伐報告のためのわずかな対談。他にも話すことがあると言うのに、ドーリス夫人は真剣な顔で俺にそう忠告してきた。
「近年、いや史上稀にみるくらいあなたは優秀よ。イレギュラーと言ってもいいぐらい。あなたの存在で、人類は1つか、2つステップを駆けあがるでしょう。歴史にも名前が残ると思うわ。」
「過分な評価。ありがとうございます。」
「それでもあなたはまだ13歳よね。それだけで、うちのバカ息子のように侮る人もいれば理不尽に恨みをもつ人もでてくるわ。」
「ですかねー。」
「自覚があるのに、すっとぼけないの。」
「す、すいません。」
ぴしゃりと言い切るドーリス夫人に俺は慌てて居住まいを正し、へらへらした態度を改めた。あれだ、真剣に諭そうする相手、それも俺のことを真摯に思ってくれているのが伝わってきたので自然とね。
「信用できる人間を近くに置きたいというのはわかるわ。あなたの個人的な事情を鑑みれば、周囲の人間を増やしたくないのもわかる。それでも次期領主のあなたの周りには人が少なすぎると思うの。」
「まあ、当たらずとも遠かずかと。」
ドーリス夫人の言う個人的な事情というのは 幼くして両親に置き去りにされたことだろう。それゆえに、リンガット少年は人を信頼していない。そんな噂があったりなかったりする。人を信用していないのは、原作知識によるものが大きいけど。いい感じに勘違いしてくれているようなのであえて訂正はしなかった。
「それとも、いざというときは、そちらの彼女が守ってくれるとも?」
「僕も男です。もしもの時は、彼女には最優先で逃げて助けを呼ぶように伝えています。」
「そうよね、彼女に無理はさせられないわよね。ほら、アナタもこちらのソファーにどうぞ。ホットレモンでも用意させるわ。」
「ありがとうございます。ほら、スーザンも。」
「お気遣い感謝いたします。」
それでいてスーザンを気遣ってくれたのは同じ女性だからだろうか?いやまて、なぜホットレモン?
「もしかして気付いてないの。彼女、妊娠してるわよ。」
「えっ?」「はっ?」
夫人の気遣いに首をかしげていたら、あっさりと爆弾が投げ込まれた。俺はともかくスーザンまで驚いたのは意外だった。
「恐らく2か月は経ってないわね。お相手は、」
「違いますよ、彼女は既婚者です。」
「あらそうなの?」
確かにスーザンは美人で優秀だ。そんな彼女を引き連れているのでそういう邪推をされることはたびたびある。だが、干支が一回り年上の彼女とどうこうしたいとは思ってないし、恋愛なんてしてる暇があったら、ロボット開発に使いたいのが本音だ。何より、彼女にはちゃんとお相手がいる。
「実は、僕の秘書であるジルオールと先日結婚したばかりなんです、彼女。今回の件が終わったら休暇をとって、新婚旅行でもしてもらおうと思っていたんです。」
「そうなの、それはおめでとう。」
「あ、ありがとうございます。」
ジルオールとスーザンは先日めでたくゴールインした。俺の側近ということで接点も多かった2人なので、自然な流れ。出会ってからもう7年、33歳と25歳と二人ともいい年なので、そうなっても不思議ではないけれど。お互いの決め手になったのが、ビックツリーもとい俺のために多忙であることに理解のある相手だったといのは、社畜すぎない?とは思った。
それはともかくとして、妊娠までしていたとは驚きだ。健康診断とかは定期的にしているけど、この驚きようを見る限り、スーザンも自覚してなかったのだろう。本人すら気づかない兆候を見抜いたドーリス夫人の洞察力には脱帽である。
「今はいいかもしれないけど、初産ならすぐに検査をして、生活スタイルを変えたほうがいいわね。まずは、服装なんだけど。」
そのままあれこれと話しだすのは、結婚したばかりの親戚の子供にあれこれと世話をやくおばちゃんのそれであった。その勢いに圧倒されながらもスーザンはも熱心に耳を傾け、メモまでとっているのだから、しばらく俺は放置されてしまった。
「も、申し訳ありません。私。」
「いや、そんな生々しい報告されてもいやだし。」
珍しく顔を赤くして俺に弁明するスーザンに、こっちまで恥ずかしくなる。あれだ、姉の結婚とか妊娠を知らされた弟ってこんな気持ちなんだろうか。
「あらあら、ごめんなさいね。急な事と思ったけど、あなたって気づかないでギリギリまで働いてそうだったから、ついおせっかいをね。」
「いえ、夫人、ありがとうございます。まったくもってその通りですから。」
「リンガット様?」
正直なところ、ドーリス夫人のおせっかいは非常にありがたかった。
スーザンも俺も、あとジールオールもだが、まともな家族はいない。それぞれが幼くして両親とは別離し、なんやかんやあって今がある。俺にとってのお爺様のように大切にしてくれる人はいたが、ドーリス夫人のように人生経験豊富な大人の女性というのと出会ったのは初めてだった。俺はともかく、スーザンとしては、結婚や妊娠なんて話を相談できる相手がいるのは良いことだろう。
「この訪問が終わったら、新婚旅行をプレゼントするつもりだったけど、そのまま産休と育休も必要だね。」
「し、しかし。」
「あら、素晴らしいわ。確かにこれから忙しくなるリンガット卿に仕えるならここでしっかり家庭を作っておく必要があると思うわ。」
「うーん、これは確かに人をもっと雇わないとな。」
身近な世話や護衛のみならば今の規模でいいが、今回のようなことがあったときに連携が難しい。余裕がなかった昔ならともかく、稼げているならもっと人を増やすべきだ。
「今後も色々と相談させてください。ドーリス夫人。」
「ふふふ、他ならぬリンガット卿の頼みならやぶさかではないわ。」
母性に飢えているわけではない。だが、母性というのは時に必要なのだと実感した対談だった。
そんなわけで、スーザンとジルオールは現在ビックオーシャンで休暇中だ。滞在費は俺持ちで、身元の保証はドーリス夫人にお願いした。本人も気づいていなかった妊娠に気づいたうえ、仕事熱心なスーザンを大人しくさせられる夫人になら安心して任せられる。ビックオーシャン、もといドーリス夫人に借りを作ることにはなるが、部下の安寧と今後の付き合いを考えれば安いものだ。
先日、生まれたての赤ん坊を抱えた写真が送られたが、3人とも元気そうだった。このまま引退はちょっと困るが、産休育休はしっかりとってもらおうと思っている。
そんなわけで、スーザンとジルオールが不在のフォローのために最近がんばってもらっているのが、コルテオ君やハーメルなどの秘書、フラウトさんを筆頭に再編した侍女さんたちである。他にも屋敷の管理や俺の仕事関連の人員は徐々に増やしていく予定だ。
「それならばハーメルを残しておこう。癖はあるが役に立つ男だ。何かあれば頼れ。」
なお、お爺様はジルオール達の結婚と新婚旅行の話をしたら、そう言い残して他のコロニーへ視察へ行ってしまった。まるで俺が決断するのを待っていたような反応であったけど、視察は元々予定にあったので、おかしなことではない。
「これで、お前も立派な為政者だな。」
ただまあ、人間を増やすことを相談したとき、そんなことも言って、どこか安心した様子ではあった。あれかな、少数精鋭でしょい込みすぎってことか?
「人材育成については、判断がいささか遅かったようですな。」
なお、人事関係に関しては、ベテランのハーメルさんからは辛口の評価をいただいている。そんなことは分かっている。俺やジルオールのESPだよりの少数精鋭は良くなかったと思う。
「しかし、リンガット様はまだお若い。これからですし、支えていくのが我々の役割です。」
「だったら、もう少し手加減してくれない?」
「それとこれとは話が別です。私はお館様の意志を鑑みております。」
とか言いながらまるで荷物のように抱えていた小太りなおっさんを地面に投げ捨てるハーメルさん。恐怖からからか床に蹲っているが、顔を見ずとも、その男がインフラ整備の書類でやらかした責任者なんだろう。
「出頭命令じゃだめだったの?」
「忙しいだの、こんな格好では失礼にあたるだのと、のらりくらりでしたので、部下の方々に確認して直接ご案内させていただきました。」
「そっか、御苦労様。」
「いえいえ、役目ですので。」
色々とごねて時間を稼ごうとしたから力づくで連れてきました、と。年の割にアグレッシブな人である。まあ、ハーメルさんのおかげで2人の不在がフォローできているとも言える。お爺様の紹介とはいえ、もともと税務官、ただの役人だったはずなのだが・・・。
1時間以内という指定をしたのは、部長にヘタな言い訳をさせないためだった。ただ突き返しただけなら、適当にスケープゴートな部下が用意され何食わぬ顔で修正版の報告書がだされる。それをさせないための拙速な対応を俺は求めた。
そして、その意図をハーメルはしっかりと理解し、役割をこなしてくれた。お爺様が推薦するだけあって、恐ろしく優秀な人間だ。その上で、どこか楽し気な様子で俺の沙汰を見守っている。数少ない彼の欠点は、この場すらも俺の成長を促すための試練と思っていることだろう。
まあ、それはともかくとして、レッツ断罪タイムだ。
「で、部長。寝てないで説明してもらえるかな?」
「ひ、ひい。」
「返事もできないほどお疲れなら、休暇をあげましょうか?」
「め、めっそうもありません。こ、このみはビックツリーとリンガット様のために粉骨砕身、勤め上げる覚悟です。」
文字通り、砕いてやろうか? 休暇と言ったとたんに飛び上がってペコペコと頭を下げる部長の態度は、思うぐらいイライラする態度だった。
「そういうのいいから、説明。」
「え、ええっと、先の計画については部下が。」
「報告書の製作者は君の名前になってるけど?ご丁寧に検閲済みの署名も君だ。」
「ええっと、それは体裁といいますか。」
「責任者としての自覚はないの?」
14歳の少年に、積められ説教される中年の部長。それなりにキャリアもあり優秀である。そう思っていたんだけど、とんでもない愚物だった
「す、すみません。今回の報告書なんですが、現地での事前調査については、部下に任せており、私に上がる直前で修正があったようで。」
「それで、あんなクズみたいな報告書を?下手したら該当区画が閉鎖されかねないものを提出したと。」
怯えているわりには、ペラペラと口が動く。まあ、言いたいことは部下がやったこと、部下のミスです、自分は知りませんでした。という定番の責任逃れなので、聞く気はない。
「い、いえ。ですが、その、何と言いますか。インフラ関連は生活に根深く関わっているため、現場とのずれが起こることがしばしばでして、その、なんといいますか。今回の件も説明を準備するためのお時間をいただきたく。」
ここに手ぶらで来た時点で詰んでいるというのに、見苦しい。
「調査を部下に任せるのはいいよ。だったらなんで、その人間の名前が資料にない?そこはきちんとしようって何度も忠告したよね?」
「ひ、ひい、そ、それは急ぎで作ったため。」
「時間は充分にあげたよね。なんなら提出遅れについても2度許したよね。」
組織的な動きをするときに、こういったクズは一定数現れる。人の仕事の美味しいところだけをもらい、ミスしたときは他人に擦り付ける。そうやって能力以上の成果をでっちあげる。やっていることは、夏休みの読書感想文をAIや代行に書かせている小学生となんら変わらないというのに。
「し、しかしですね、インフラ設備は、文字通りコロニーの血管、生命維持の基本であります。調査も準備も時間が。」
「そうだね、だったらなおのこと、コスト重視とかいって素材を誤魔化す輩も、それをスルーする管理職にも任せられないよね。だって命に係わる仕事だもんねー。」
「うぐ。」
横領や賄賂はまだいい。横流しもコロニー内の流通に問題がない範囲なら許せる。しかし、この部長のように安全や命に係わる部分での悪事を許すわけにはいかない。
「し、しかし。」
「仮に、わずかな性能差であり整備をマメにすれば事故は起きない程度の改悪だとしても。1%を限りなく0%にするための対応をケチる。というか、設置コストをけちって、ランニングコストを別部署に投げてるだけだろ。」
素材はコストを下げるためのもので、安全性には問題ありません。その後の維持管理は別部署の管轄です。部長が言いそうな言い訳は先回りでつぶしてあげる。そのうえで、彼にも見えるように空中にとある資料を投影する。
「今回の件も含めて、もう37件。スラム地区を中心にインフラの劣化によるコロニー全体のダメージがわずかながらに確認されている。これもう、テロだよね?」
「こ、こんなに。」
分かりやすいように色分けしたコロニーの立体映像。クズでも部長を務めているだけあってその意味は理解できたようだ。
「今回の件も含めて、過去のやらかしについては関係者も含めて徹底的に精査して洗い出すからね。」
「わ、わかりました。」
ここまでされて、部長は観念したらしく、膝から崩れ落ちた。
「いや、疲れてないで情報提供してくれないかな。膿をだしきらないとコロニーが大変だよ。」
「は、はい。」
「では、こちらに、お話は私がうかがっておきます。」
「あとで報告をよろしくね。」
そんな彼の腕を持ち上げて支えるハーメルさん。あとは彼がいい感じに聞き出してくれるだろう。部屋からでていく彼らを見送ることなく、俺は次の報告書へと目を通す。あとはハーメルさんがいい感じに聞き出して、人員を配置してくれるだろう。
『失礼します、コルテオです。リンガット様、農産部が通信でお話したいと。』
「コルテオさん、お疲れ。つないでもらえる。」
そして、次々と仕事が舞い込んでくる。まったく気の休まる暇どころか研究所に顔を出す暇もないよ。
まあ、これも書面でのやり取りばかりだった今までの俺のツケでしかない。より使える人材を確保するためには、いろんな人と言葉を交わして、その人となりを俺自身で見極めるしかない。
今更ながら、お爺様やジルオールのESPが超欲しい。あれがあればどれほど短縮できただろう。
嘘や感情が見抜けるって、為政者としては最高のチートだよねー。
スーザン 「彼から情熱的に告白されました。」
ジルオール「チャンスを逃してはいけないと思って勇気を振り絞りました。」
リンガット「祝福するし、お休みもとるから、ちゃんと休んでね。」
なんだかんだ、2人のことが好きなので、純粋に嬉しいが、それはそれとして対策不足で忙しくなっていることを後悔しているリンガット様なのでした。




