6 アフタースペース290 ままならない大人の事情があるようだ。
愉快な生活 (ほぼ引き篭もり)の続きです。長い設定話になってしましましたが、もう少しだけお付き合いを
事故にあい、リンガットとなって一か月。僕の中には目的は変わっていないが、それに伴う大まかな方針は決まってきた。
改めて、僕の目的は二つ。
一つは、10年後に待ち受ける破滅の運命から逃れること。
劇中のリンガットはクズオブクズだったので、自業自得だが、今の僕たちには傲慢さも欲望もない。なので、生き残るだけなら争いは起こさずに穏やかに過ごしていればいいかもしれない。ただ物語の強制力やバタフライエフェクトなどによって、ビックツリーが窮地に陥り没落する可能性はある。それが怖くて、コロニーやこの世界についての情報を集めたけど、残念なことにそういった火種は存在し、10年後の争いは避けられないと思う。
なので、生き残るためにコロニーの強化と足場固めは必須だ。
もう一つの目的は、僕の推しであるディープベースの開発、あわよくばそれを使って宇宙を飛ぶことだ。
最初の目的を考えるならば、兵器開発は避けられない。それなら作中最強の「フォルテ」シリーズを手に入れることが望ましいのかもしれないが、そこはロマンである。それに局地戦、白兵戦に特化したフォルテシリーズよりも、重装甲射撃型のディープシリーズ方が、防衛には向いていると思うし、操縦は簡単なので、量産や配備の条件も低いはずだ。
けして、私情ではなく、冷静な分析と検証の結果です。
それらを実現するための最初の方針、それは人材と資金の確保だ。いくら領主の孫といっても僕はまだ7歳であり、裁量権もなければ資金なんてものもない。なので最近は、資金が稼げそうな商材や余地はないか、資料編纂室にある情報を漁っている。
そして、人材の確保として、手っ取り早く味方に引き込めそうな、スーザンとジルオールの2人の確保にも動いている。
実はこの二人、原作のネームドキャラなのだ。
スーザンは、ビックツリー家で働いていた侍女見習いだったらしいが、理不尽な理由で解雇、追放されスラムで用心棒のような仕事をしていた。その生活の中で主人公と知り合い、テロの時は一緒にコロニーから脱出している。面倒見のいい頼れる姐さんといったキャラで、白兵戦もロボット戦もこなす優秀な戦士だ。
先日の事故のとき、僕が必死になって誤魔化したのはスーザンの確保のためでもある。あの事故の責任を押し付けられて彼女が解雇されていたら、破滅フラグまで一直線だっただろう。今後も雇用形態は日々相談して、近くにいてもらうように気をつけたい。
ジルオールは、10年後も閑職として、この資料編纂室で働いていた。日の目も浴びず腐っていたが、テロのドタバタの中で主人公たちの仲間となり、皮肉を言いながらも、非合法な流通ルートや、違法の隠し倉庫の情報を提供するなど様々な場面でまさかの活躍をする凄腕の文官だった。
しかもこれらの情報や伝手を、この情報編纂室で働いているときに収集していたらしい。ニコニコと愛想良くしながら、とんでもない男である。
「ジルオールは、僕が稼げるようになったら、雇うからやめないでね。」
「ははは、そう言ってもらえるのは初めてですなー。雇うならそれなりのポジションでお願いしますよ。」
「うん、秘書か、経理責任者か。めっちゃくちゃこき使うからよろしくね。」
今は子供の口約束と言った感じだが、お爺様に頼んで、僕専属の文官として働くように辞令をだしてもらう予定である。有能ながら、閑職に追いやられた彼のことはお爺様もご存知であり、見る目があると褒められた。
原作で、リンガットの敗北につながる怨敵のエース級の引き抜きと陣営の強化。我ながらいい手じゃないだろうか。
なんなら、主人公たちも仲間に引き入れたらいいんじゃないか?そううまく行くものじゃない。彼らの居場所はなんとなくつかんでいるけど、確実じゃない。仮に見つけたとしても、現時点では抱え込む資金もなければ任せられる仕事もない。
彼らの勧誘は、ある程度の資金と拠点となる場所を確保してからだ。
現状では、この二人の心を引き付けるだけで精いっぱいなのだ。
だからこそ、今日は一歩踏み込みたい。
「ところでさあ。2人も覚醒してるよね?」
「「あっ?」」
いつものように資料を漁り、暇そうなジルオールを相手にあれこれと雑談をしている流れの中で僕は、不意に石を投げ込む。途端に空気がピリリとするが気づかないふりをして反応を待つ。
「ど、どういう。」
「うーん、僕のESPのおかげかな。2人が覚醒していることがなんとなくわかるんだ。」
「ええっと、リンガット様のESPって。」
「解析だよ。よくよく観察すると、そういうことも分かるみたいだね。人を選ぶみたいだけど。」
さも当然といった感じに言う僕に対して、2人は目に見えて警戒した。スーザンはキョロキョロと視線を動かして周囲に監視の目がないかを確認し、ジルオールは僕の真意を見定めんと、眼鏡の奥の瞳を見開いていた。
「ああ、他言する気はないよ。ただ確認したいだけ。」
へらっと笑い、僕はそれ以上追求しない。2人の反応を見る限り、推測は間違っていないのだろう。
「恐れながら、リンガット様、他人のESPを詮索するのはマナーが悪いですよ。」
「はは、ごめん。やっぱりそうなんだね。」
「それでも知りたかったってことですか、好奇心のお化けですねー。」
「貴様、無礼だぞ。」
「スーザン落ち着いてねー。」
2人がこんな反応になるのも無理はない。コロニービックツリーにおいてESPの覚醒は、微妙な問題であり、おいそれと話題に出していいものではないのだ。
なにせ、ここ15年近く、次期領主と言われていた我がダディ様がESP関係に荒れに荒れてたからね。なんなら、ジルオールがここにいるのって、それが原因だよね。僕の覚醒を知った時のお爺様の反応からなんとなく察していたけど・・・。
「そうですよ、御父上のシンパからの嫌がらせが原因です。」
「うわ、なんかごめん。」
「いや、流石に八つ当たりになるようなことはしないですから。」
うーん、主人公たちが優秀なESPの使い手だったのに冷遇されてたのも、コロニーの風土が原因だったのか。本来ならば保護されて、手厚い教育を受けられるはずのESP保持者たちがスラムにいたのは、リンガットの統治力の無さを語る要素だったけど、ひどい冤罪である。これは近いうちに是正しないといけないなー。孫が覚醒したから、もうよくない?
「まあ、俺が冷遇されたのはそれだけじゃないですけどね。」
「どういうこと?」
「単純に役職や仕事がないんですよ。」
「ええ?」
やることなんていくらでもありそうなんだけど。技術が発展し、ほとんどがAIやオートメーション化されたシステムで管理されていると言っても、人口1億人のコロニーぞ。
「それは他のコロニーの話です。ここ、ビックツリーの一番の売りはご存知ですか?」
「木材とその加工品だよね。あとは有機農法な野菜とか?」
「そうですね。で、その生産方法ってご存知ですか。」
「他のコロニーから有機廃棄物を引き取り、土壌を作り、タネをまくだっけ?オートメーションで」
自然循環型といっても、畑仕事まで手作業というわけではない。コロニー創設当時は手作業(重機や機械などのマニュアル操作)もあったそうだけど、長年の積み重ねでほどんどオートメーション化しており、生産も安定してる。ノミや金槌でDIYなんてのは、仕事ではなく趣味の領域だ。
「それでも植物ですからねーその生還力と供給ルートは頭打ちなんですよ。」
「へえー、そうなの。」
「そうですよ、それこそ、今閲覧されている資料に詳しくありますが、ここ10年近くは生産ラインや流通を管理する系の仕事は、席が埋まってましてね。ジジババが独占しているわけです。」
「なるほどねー。」
食料品はともかく、高級家具の需要なんて限られているだろう。そうなると限られたポストや権利にしがみつく輩が生まれて、経済がさらに停滞する。それらがまわりまわって、コロニーの運営そのものも危うくなり、非合法なロボット研究の誘致へとつながり、物語のきっかけであるテロ事件へとつながるのかもしれない。
「厄介だねー。」
「ない袖は振れないからねー。」
「面白い言葉をしってますねー。確か日本の古語でしたっけ?この場合は、金と土地ですけど。」
報酬の土地と金がない。まるで鎌倉幕府の末期みたいだ。今はともかく10年後の崩壊を避けるためには、何らかの改革が必要だ。
でもそんなことはお爺様だって、他の人達だってわかっていることだ。
案外、あの秘密のスポットもリンガットなりの金策だったのかもしれない。
いや、待て?
「土地ならあるじゃないか。」
「どうしました。」
「ちょうどいいや、土地の開発記録と地図、あるだけ見せて。」
僕はとあるひらめきをもとに、更なる資料を求めてジルオールを急かすのだった。
ひらめきの瞬間、次回から本格的に動き出します。




