63 アフタスペース296 各方面の評価はそこそこなようです。
他の人の評価ターンなお話
(ハウンド1 フィグール視点)
傭兵家業なんてのは、宙賊と紙一重だ。雇い主こそ、軍や商人などまっとうな相手を選んでいるけど、他に食い扶持を稼ぐ方法が思いつかず荒事をしている時点で野蛮な人間と思われる。稼ぐためならなんでもするし、雇う側も使い捨て、信用なんてされない。
だが、坊ちゃん、リンガット様は違った。わざわざ俺たちのねぐらに足を運び、俺らですら忘れていた過去の実績を褒め、相応の報酬を約束してくれた。自分でも言うのもなんだが、俺たちは界隈でそこそこ知られた傭兵だ、だが所詮は傭兵でしかない。コロニーの次期領主のようなお偉いさんがそんな俺たちの実績を細かく知っていることは驚いたが、悪い気はしなかった。
「お兄さんたちには新型機のテストパイロットをお願いしたいんだ?」
「テストパイロット?」
「気に入ると思うよ。」
自信満々に紹介されたミキサーは確かに面白かった。小型船よりも小さいのに、航続距離も速度も段違い、操縦に癖はあったが、まるで手足の延長上のように扱える機体は俺たちのやり方と合っていた。
坊ちゃんは俺たちを活かす戦場を用意してくれた。いけ好かない宙賊どもを攪乱し、打ちのめすのはやりがいがあった。それでいて危なげな戦場で深入りせずに引いても怒られない。失敗とも取れる結果になっても理由を聞いて、次の作戦行動に活かそうとしてくれる。むずがゆいが悪い気はしない、
まあ、自ら戦場に乗り込もうとされたときは驚いたけどな。
「リーダーの指示には従う。現場には近づかない。この二つは守ってくださいよ。」
「分かってるって、頼まれても近づかないから。」
入念な打ち合わせの上で、安全圏からの援護射撃のみ。それだけだからと坊ちゃんは言っていたが、あれは援護射撃なんて可愛い物じゃなかった。
最新だが試作だか知らないが、俺がポイントを指定した次の瞬間には、その場所が破壊されている。まるで魔法、予め新型の性能を説明されていた俺たちですら信じがたいものだった。正直、内通者による破壊工作って言われたほうが信じられる。宙賊たちにはまさに悪夢だっただろう。
新型の性能と坊ちゃんの実力は本物だった。
『次は。』
「では、ここと、そこを。」
『はいはい。』
最初は躊躇いがちだったが、徐々にレスポンスが早くなり、気づけば俺が指示に対してノータイムで狙撃が行われていた。おそらく俺の考えを理解し、必要な場所に予め銃口を向けていたのだろう。
これには背筋が寒くなったね。
どんな凄腕やベテランでも命が関わる行動にはわずかな躊躇いが起きるものだ。傭兵や軍人なんかは訓練や経験でそれを最小限にする。戦場に出たばかりの新米には、命がかかわらない仕事から徐々に慣れさせるのだが、坊ちゃんは最初から命を奪うことに躊躇いがなかった。バリアー装置やレーダーを破壊するのはいい、自動制御のソレらを破壊するのは作業だ。だが、網やデコイに阻まれて動きが鈍くなっていた宙賊の船を指定したと思ったらノータイムでコクピットを撃ち抜いたときは、おかしいと思った。
『よし、動く的も当たるな。』
あれだけ賢い人だ。自分の一撃が命を奪ったことに気づいていないわけがない。だというのに撃つ瞬間も、そのあともなまるで掃除でもするかのように淡々と仕事をしているんだ。ショックを受けて止まったり、やけになって乱射する姿を想像していた俺たちの方が動きが止まり、逆に怒られるほどだった。
まあ、俺たちだってプロだ。すぐに坊ちゃんを戦略に組み込んで対応したわけだが。
「あれ、俺たちが狙われたら防げないよなー。」
後になってフィガロのやつがそんな冗談を言っていたが、笑えない。
「すぐに対応されるよ。」
坊ちゃんはそう言って苦笑していた。たしかにこの作戦は初見殺しなところが多い。こういう手段があると知っていれば対応策はいくつか思いつく。それこそ、機体に対ビームコーティングをすれば防げる。
だが、俺たちが思いつくようなことを、あの坊ちゃんが思いつかないはずがない。そして、もっと悪辣で独創的なことを考え付くに違いない。
「末恐ろしいねー。」
雇い主としては理想的だ。だが、いつか切り捨てられるじゃないんだろうか、そんな不安を感じつつ、それを含めて、今の仕事はとても楽しく充実している。
(ホープ ゼーレ視点)
「これは本当かい。」
「ええ、事実です。」
部下からの報告を受けたとき、ゼーレは珍しく動揺していた。緊急で入った秘匿通信、報告する部下も動揺しているらしく
(さすがに想定外だな。)
あのビックツリーの次代がビックオーシャンへ訪問するのは、コロニー間の伝統であり、リンガットの性格や能力を知る、ゼーレは次代同士の交流は無難に事なく終わると思っていた。
ゼーレがこの一件について注目していたのは、ハイフィッシュという宙賊がビックオーシャン近くに逃げ込んだという情報を掴んでいたからだ。ハイフィッシュを含め宙賊の動向はコロニー関係者ならば注目し、出来ることならば追い詰めて殲滅したい。だが、ホワイトランスを筆頭に、ホープの戦力は目立つ。
軌道周回はもちろんのこと不用意に動かせば逃げられてしまう。となると、ビックオーシャンやリンガットの手勢を支援して、あわよくばとチャンスを狙っていた。
またビックオーシャンの次男はなかなか癖の強い男だった。計画の駒として利用できるかどうか、見極める意味でもビックオーシャンの御家騒動は注目されていた。
「これは想定外、いや想定内なのかな?」
「は、はあ。」
「いや、何でもないよ。引き続き監視を続けてくれ。」
性格的にリンガットとビックオーシャンの次男の相性が悪い事は分かっていた。過去の例を鑑みても、訪問は難航するだろう。そうなれば、目ざといハイフィッシュが黙っているわけもなく、コロニーが荒れるのは必至だ。そこを手助けして恩を売れればよし、あわよくば次期領主の人選に口を出せるようになればなおよし。最悪、ビックツリーとビックオーシャンの関係にヒビをいれられれば、ゼーレ的には御の字だった。
そう言った思惑から、ハイフィッシュを誘導し小惑星群に潜んでいる情報をそれとなく流した。ついでにリンガットの人となりについて、それとなく、次男にも伝えておいた。
ビックオーシャンの対応は予定通りだった。現領主と奥方は、伝統を重視してコロニーの混乱を見逃し、その隙にハイフィッシュの殲滅を画策した。自分に都合のいい情報を信じた次男は、外交としてはNGな企画を嬉々として考え出した。この時点でゼーレの計画は半ば成功してた。
しかし、結果は想定外であり、想定内であった。
ハイフィッシュはリンガットの手勢によってあっさりと殲滅され、ビックオーシャン側の損害はほぼ0。ビックオーシャンの次男は大量に暴露されたスキャンダルによって失脚、堅実な長男が次期領主として正式に決定した。
この一連の騒動で、ハイフィッシュという悪名名高い宙賊は消滅し、ビックオーシャンは混乱したことで、力と信用を落とすことになった。
ハイフィッシュの排除とビックオーシャンの力を削ぐという最大の目的は達成できた。だが、これらを為したのがリンガット・ビックツリーというのが悩ましかった。
「やはり、優秀だな、リンガット君。」
結果論であるが、ゼーレが手を出す必要はなかった。いや、余計なお世話だった。唆すことがなくとも、リンガットと次男は衝突していただろう。だが、唆されたことで次男は暴走し衝突は謀略となり、謀略はリンガットが圧勝した。ハイフィッシュに関しても、戦闘データを見る限り、力の差は明らかで遠からず排除されていただろう。むしろホープが追い込んだことで、早いタイミングで排除されてしまった。
「ままならないものだねー。」
計画全体で見れば問題はない。順番が変わるだけだ。だが、数年前にゼーレが描いた絵地図はだいぶ描き換わった。そのことごとくが、リンガットの手腕によるものだ。
「いっそ放置したほうがいいかもしれない。いや、彼が育つと厄介か?」
どちらにしろ無視はできない。何よりゼーレ自身が予想を超えてくるリンガットの今後に興味を持たずにはいられなかった。
「本当に優秀だ。」
今後も成長していくであろう若者の未来を想像しながら、ゼーレは己の中に渦巻く感情の正体に思いをはせるのであった。その様子は、楽し気で合理主義な彼にしては珍しいもの。部下たちはその姿にただただ、混乱するしかなかった。
リンガット「ここぞとばかりに趣味に走っていただけだが?」
趣味に走っているだけなのに、周囲からの評価は上がっていく、これがリンガットクオリティー。




