62 アフタスペース296 引き金の重さは意外と軽かった。2
引き続き戦闘パートです。
ビックツリーには、いくつもミキサーチームが存在する。基本的には軍に所属しコロニー周辺の治安維持や、宙賊狩りや輸送船の護衛など担っているが、大本は研究所に所属し、俺の管理下にある。色々と試験段階であるが、どのチームも実力は確かなものだ。
その中でも、ハウンドチームはトップクラスに有能だ。個々の技量はともかく、チームとしての完成度は、カナデたちシャープチームよりはるかに高い。
彼らの主な任務は偵察と攪乱。今回のように宙賊の潜むポイントへ潜入して味方に情報を提供し、荒事がはじまれば、宙賊たちを逃がさないように攪乱する。その性質上、もっとも危険なその役割を任せられるのは彼らだけだ。
そんな彼らのミキサーは隠密性を高めるために黒く塗装され、特殊な装備も与えられている。
「ストライク。逃がさねえよ。」
ハウンド3が投げた手投げ弾は、爆発とともに特殊なワイヤーがクモの巣のように広がり船の出入り口をふさいでいく。本来は機雷のように設置して使うものだが、スローイングという人類独自の動きを再現できるミキサーならば、より効果的な場所に網を張ることが可能だ。基地内にあった宙賊の船は次々と閉じ込められてしまう。
「出し惜しみはなしだ。一気に行くぜー。」
宙賊の周囲を飛び回りながら、ハウンド4がばらまくデコイは瞬時に膨らみ無数の船となる。見た目のだけのハリボテだが、レーダーが破壊された宙賊たちには区別がつかず、突然大量の敵が現れたと思うだろう。これだけ大量のデコイをばら撒くと味方の動きも阻害しかねないが、ミキサーの機動性を持ってすれば問題はない。3機のミキサーはデコイの間を縫うように動いて敵を翻弄する。
「坊ちゃん、次は、そこと、そこをお願いします。」
司令塔であるハウンド1には、高性能のガンカメラと専用の暗号通信機が装備されており、デコイの隙間を飛びまわりながら戦場の情報を的確に集めている。また、戦術的視野に優れた彼の指示するポイントは的確で、狙撃するたびに、宙賊の機能が麻痺していくのが良く分かる。
「はいーどーん。」
仕上げとばかりに俺ことハウンド4が狙撃する。美味しいところをもらっているようだが、乱戦の最中で効果的な狙撃ができるのは現状俺だけなので仕方ない。なお、俺がいない場合は偵察と攪乱のみで、攻撃は他のチーム任せになる。
「お見事。」
「ははは、慣れたもんでさあ。今日は、坊ちゃんが一緒なので楽なもんです。」
まともな武器もなく敵に潜入する度胸と丁寧な仕事を賞賛すると、豪快な笑い声が変えてくる。命がけの状況でこの胆力は見習いたい。そして、言葉通り、その動きには明らかな慣れがあった。
それもそのはず、彼らは荒事専門に働く傭兵だ。小型船に乗り今のような仕事や戦闘を行う命知らずの仕事をしてきたベテランである。報酬次第では宙賊にだって味方するアウトローであるが、多額の報酬とミキサーという便利な道具で懐柔したおかげで、すっかりと仲良しだ。
ハウンド1のフィグール、ハウンド2のフィグーラ、ハウンド3のフィガロ。名前や顔が似ていることがきっかけで一緒に仕事をするようになったらしいが、お互いの癖や性格を知り尽くした3人の連携は原作でも主人公たちを苦しめていた。そう彼らも原作のネームドである。終盤でホープ側の傭兵として登場する彼らの機体は、主人公機にも負けないぐらい人気だったりする。そっちもいずれ再現したいところだ。
「おっと、流石に限界だね。アーテムに応援を呼ぶけど。」
「「「必要ないでさ。」」」
そんな彼らでもこれだけ騒げば隠れてはいられない。宙賊たちもやられっぱなしではなく、デコイの中で動き回るハウンドチームを見つけ出して、襲い掛かる小型船やサンブラーやミキサーなども現れ始める。奇襲は成功したといっても、ここは宙賊の拠点、その数は10や20ではきかないだろう。
『なめんな、ぶっ殺してやる。』
『囲め、数は少ないぞ。』
船は破れかぶれに砲撃してデコイを減らし、ロボットたちは武器を手にハウンドチームへと肉薄する。その手に持っているのは工業用の工作機械や船の残骸で、それらをブンブンと振り回す姿は棍棒を持った原始人のようだ。しかしながら、その一撃は船の装甲を叩き割る破壊力を秘めているので、ただの船には充分すぎる脅威だ。ミキサーはともかく、作業用のサンブラーを改造しただけの出来損ないロボットであってもそのコスパの良さは絶大で、最近ではよく見かけるようになったらしい。
「おせーえよ。」
「バレバレだっての。」
しかし、そのことごとくが3機のミキサーによって蹂躙されていく。速度が違うから背中を追っても追いつけず、コースを塞ぐように回り込んでも、攻撃がすかされてからコクピットを潰される。まるでカンフー映画のチンピラと達人の戦いである。いや、子どもと大人の戦いだな、これは。
ロボット同士の白兵戦では、数よりも機体性能やパイロットの技量が勝敗を分ける。宙賊側は、作業用のサンブラーやミキサーを改造して無理やり戦闘用に仕立てたもので、パイロットもまともな訓練をしているわけがない。対して、こちらは荒事専用にカスタマイズした最新機な上にパイロットの訓練も充分、その上で、俺がチマチマと援護射撃をしているのだ。この倍以上の戦力差でも負ける気がしない。
『に、逃げろ。』
『どこにだよ。』
奇襲によってレーダーやバリアーがなくなり、デコイも多数。この時点でこの戦場はハウンドチームの独壇場だ。宙賊がこの状況をひっくり返すには、攻撃範囲の広い戦術兵器を持ち出すしかないが、そんなものをもっているはずがない。おまけにアーテムやビックオーシャンの艦隊も動き出した。
「やっぱり絵地図を描くツールが揃っているのは強みだよねー。」
「疑問。絵地図とは?」
「作戦勝ちってこと。」
最悪取り逃してもいいと思って考えた作戦であったが予想以上の効果だった。俺の狙撃を含めたチームメイトのミスのない働きと、宇宙船の常識に囚われて宙賊たちの反応が鈍かったこと、この二つが面白いように噛み合った。これは原作知識をもとに、様々な運用方法を妄想していた前世の知識によるところが大きい。正直、初見殺しな戦法であるので今後対策されてしまえば効果は薄くなるだろう。例えば、今回なら、バリアーやレーダーを連携させて、どれか一つが破壊された時点で対策するようにシステムを組む、あるいは、ビーム対策の塗料を塗っておくだけで、奇襲は防げていただろう。
「まあ、反省会は仕事を終えてからかな。」
色々と思いをはせながら俺は淡々と引き金を引き続けた。ハウンドチームの奮闘のおかげで、敵が近づいてくる様子もないので安心だ。ハウンド1の指定も徐々にシビアなものとなり、気づけば引き金を引くたびに宙賊たちの命が散っていくのものになっても、なんの感慨もわかなかった。
「坊ちゃん、援軍が来ましたよ。」
「お疲れ、後始末は任せて僕らは下がるよ。ビックオーシャンに手の内を見せるのはもったいない。」
「「「了解。」」」
移動を含めて半日、戦闘時間は30分もかからず趨勢は決した。悪名名高き宙賊ハイフィッシュ様は、その引き際を間違えたことで、その実力を発揮することはおろか逃亡すら叶わずに蹂躙されていった。
二足歩行ロボットの有用さを改めて知らしめることができ、俺は満足である
リンガット「俺つえーとは思わないよ。でもやっぱりロボットはすげえー。」
前世日本人にありがちな命を奪うことにまったく躊躇いのないリンガット様なのでした。




