60 アフタスペース296 悪ノリするなら、ロボットの方がいい。
久しぶりにロボットに乗る話
人類が宇宙に進出して約300年。循環システムや人工重力の技術が発展しているおかげで、日常生活そのものは地球時代のそれとほとんど変わらない。だが、それはコロニーに限った話で、分厚い鉄の壁から一歩外にでれば、空気も重力もない真っ黒な世界が広がっている。その広大さに比べると人類の生存領域は豆粒程度である。
「この広さを前にすると、自分たちがいかに小さい存在であるか、嫌でもわからされるね。」
「肯定。宇宙空間は我々にとっても脅威。無秩序に広がる認識下では自我の維持が困難。」
「なるほど、電子精霊でもそう思うんだ。」
というわけで、宇宙遊泳を満喫中ですと、リンガット・ビックツリーです。今日は愉快な宙賊狩りの様子をお届けします。なんて原作アニメの冒頭のようなセリフを言いたくなるぐらい、数日ぶりの宇宙は広大だった。背後にはビックオーシャンと青い地球。ハイパーレーンと呼ばれる人類の生存圏の外側は、相変わらずの星の海だ。
『リンガット様。』
「今はハウンド4だよ。」
『失礼しました。ハウンド4。間もなくレーンの外側へでます。此方との位置関係には常に注意を。』
「了解。まあ、すぐに帰るから。」
『お帰りをお待ちしております。』
目的地はハイパーレーンの外側に無数に存在する小惑星群の一つ。宇宙開発の過程で幾つも採取された遊星のなれの果てが集まるポイントだ。資源が掘り尽くされ、今では誰も見向きもしない場所。俺たちはそこを目指して、ゆったりとミキサーを加速させる。
ことのはじまりは、ドーリス夫人からの依頼だ。
「宙賊の討伐ですか?」
「ええ、ビックオーシャンの近くに堂々と居座ってる連中がいて困っているのよ。」
「なるほど。」
晴れて、諸々の問題に決着がつき、帰ろうかと思ったタイミングで、ドーリス夫人はこれが本命とばかりに説明を始めた。
「ハイフィッシュという宙賊はご存じ?」
「ええ、有名ですよね。」
宙賊はそれこそ星の数ほど存在するが、そのほとんどが食い詰めの船乗りの末路か、どこかの組織の子飼いだ。宙賊として独立独歩で活動し、名が知られているのはほんのわずか。その中でも「ハイフィッシュ」はかなり有名な宙賊だ。無論、悪名でだが。
ハイフィッシュ。サメの名前を冠するだけあって、この宙賊の船はともかく速い、レーダーの探知範囲外から突撃し、食い破るように貨物船や客船に突撃し、略奪を行う。そして、通報を受けたコロニー軍や傭兵などが現場に着く前に逃げ出してしまう。そんなお手本のような宙賊ムーブをしているのだが、その手際の良さと、嗅覚の鋭さで10年近くものさばっている。
そんな宙賊がコロニーの近くに居座っていると情報が入れば、どうにかしたいだろう。
「私としては、この機会を逃したくなかったの。だからこそ、宙賊狩りで評判のアーテムの力を借りたかったのよ。協力して包囲網を作り、殲滅って感じだったの。」
「なるほど。納得です。」
息子達に訪問を任せたのも、このための夫人の策だったのだろう。厄介な宙賊を確実に仕留めるために最近話題のアーテムとミキサーの力を借りたかった。だが、堂々とそれを打診すればハイフィッシュは警戒して逃げ出していたかもしれない。訪問にかこつけたのか、訪問が建前だったかは分からない。あるいは、俺たちの訪問に注目が集まっている間に、宙賊を追い詰めるつもりだったのかもしれない。
「協力要請が依頼になってしまったのは心苦しいんだけど。」
「まあ、しょうがないですよ。」
「ほんと、ここまでひどいことになるとは思わなったわ。」
誤算があるとすればオーベンとドゥシュが予想以上にやらかしてしまったことと、俺の報復がえげつなかったことだろう。内憂外患で混乱する状況で、宙賊を狩るだけの戦力を動かすことは難しい。外患である俺が言うのもあれだが、割とピンチでもある。
「危険は承知しているわ。この際だからハイフィッシュを追い払ってくれるだけでもかまわない。」
「たしかに静観するには惜しい状況ですからね。もちろんお引き受けしますよ。」
そんなこんなで、俺は宙賊狩りの依頼を受けた。そして今、ミキサーに乗って宙賊の潜伏先を目指しているわけだ。
単機で。
「さてさて、準備はどんな感じかな。ハウンドチーム報告を。」
正確にはチームで動いているけど、視界内に味方はいない。これも作戦の内だ。
宙賊の厄介なところは、その逃げ足の速さだ。名高いといっても所詮は一組織にすぎない彼らが、コロニーの戦力に真正面からかなうはずもない。ゆえに彼らはコロニーにスパイを潜ませるなどして、警戒し、少しでも危ないと思ったら逃げ出してしまう。耳の良さと臆病さ、生き残っている宙賊はこれが面倒なのだ。
だから俺はアーテムを出撃させなかった。宙賊狩りとして名高い船であるアーテムの動向は常に注目されている。おそらくだが、移動の準備をするだけでも奴らは尻尾を巻いて逃げ出すだろう。今も潜伏しているのは、あくまで外交目的の訪問であり、彼らのいる場所がビックツリー側ではないからだ。リスクはあるが、ビックオーシャンが荒れている今、アーテムがいなければ、彼らにとっては絶好の狩場ともなる。そんな場所から離れがたいのだろう。
とはいえ、相手は結構な規模の宙賊だ。小型船やただのミキサーだけを送り込んでも返り討ちにあうだろう。それが分かっているからドーリス夫人も宙賊の殲滅ではなく追い払うことを依頼された。最悪でもビックオーシャンでの宙賊被害を防げればそれでいい。そう思っているのだろう。
正直、舐め過ぎだ。ロボット大好きな俺は、こんなこともあろうかと準備はしっかりしてある。
『ハウンド1、敵の位置を捕捉しました。座標を送ります。』
『ハウンド2、指定ポイントに到着、網の準備をはじめます。』
『ハウンド3、デコイの準備できてます。』
先行するチームメンバーから送られる情報を集約するのは黒いミキサー。通常の機体よりも一回り大きい手足と、右腕と一体になった大型ライフルから伸びるノズルが背中で輪っかのようにまとめられている。明るい場所でみたらカタツムリのようなシルエットで、見た目通り運動性も低く、従来ミキサーよりもかなり遅い。チームメンバーが先行しているのはこれも理由だ。
この機体の名前は「ヴォーチェスピント」
戦艦や船の装備を改造流用した今までの武器ではなく、ミキサーや二足歩行ロボット専用の銃火器開発を目的に造られた試作機にして、俺の専用機だ。
いや、性能が極端なせいで、まともに使えるのが「解析」持ちな上にメトルと協力できる俺だけってだけなんだけどね。
「ハウンド4、制圧射撃を開始する。」
まあ、その性能のお披露目と行こうじゃないか。
リンガット「専用機使えたやったー。」
ヨハン 「こんなこともあろうかと、準備しておきました。」
新型機の特徴は、でっかい銃に背中の輪っか。星座の名前を冠したあのMSがモデルです。




