表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「ハーモーニーサウンド」 中盤脱落のクソボンボンだけど ロボットには乗りたいので知識チートします。  作者: sirosugi
アフタスペース296 リンガット13歳

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
62/71

57  アフタスペース296  合法的に相手を追い込んでみました。

 最初だけ、3人称視点。後半は悪だくみなお話です。

(夜明け前、領主邸 私室 ドゥシュ視点)


「なんで・・・なんで連絡してこないんだ。」


 ビックオーシャン家が次男、ドゥシュ・ビックオーシャンは珍しく荒れていた。お行儀が悪いとは思いながらも足首を忙しなく動かし、つま先で床をコンコンと叩き、目をぎょろつかせながら、端末を食い入るように睨むのが辞められない。それもそのはず、即決の判断が求められる場面なので、徹夜も覚悟で、彼は端末を握り締めながら連絡や報告を待っていた。だが、


「なんで謝罪に来ない。頭を下げに来ないんだ。」


 もうすぐ日が昇るというのに、求めている連絡はおろか吉報の1つもこない。楽観主義な彼のメンタルを持ってしても不安とイライラを隠しきれなくなっていた。


「お、落ち着いてください。ドゥシュ様。」

「ああ、ごめん。ついカッとなった。」

「い、いえ。そろそろ夜が明けますし、お休みになられたほうが・・・。」

「ありがとう、そうやって気を使ってもらえてうれしいよ。」


 そんな様子を見かねて部屋付きの侍女が声をかけると、慌てて居住まいを正して朗らかな笑顔を向ける。その様子は雨に濡れた子犬が健気に尻尾を振っているように見え、侍女は頬を赤らめてそれ以上は言えなかった。本来ならば彼の言動を監視し、何かあれば領主に報告をする役目を担っているはずの彼女ですらこれなので、この場でドゥシュを止められる人間はいない。


「まったくみんな素直じゃないなー。」

「大丈夫です、ドゥシュ様の優しさは必ず伝わりますよ。」

「そうだよね。」


 肯定的な言葉に少しだけ気分を落ち着けられたドゥシュは、ゆっくりと指の力を抜いて、端末をテーブルに置いた。


(いつだってそうだ。今回も上手くいく。)

 

 自分の考えが突飛なことは彼も理解している。だから彼の言葉の多くが、最初は相手に否定されるのも慣れっこだ。しかし、粘り強く話して相手に気持ちが伝われば、相手は自分の考えの正しさを理解してくれる。そういった成功体験に裏打ちされた自信が、彼の行動を後押ししていた。

 今回の訪問だって、堅苦しいことばかりで退屈なスケジュールを、相手に合わせてマイルドにしただけだ。相手が13歳の子供であることを理由にしたら、兄であるオーベンも納得してくれた。


 堅苦しい空気をいつだって、自分の提案が柔らかくしてきたのだ。


 だというのに、今回はすごく怒られた。それをドゥシュは納得できていなかった。

 相手であるリンガットの態度は少しだけ分かる。子ども扱いされたことが気にいらなかったのだろう。あのくらいの年齢なら背伸びもしたい年頃だから仕方ない。しかし、フォローしてくれるはずのオーベンや父は、彼でなく浅慮だったとドゥシュを責めた。賛成していたはずの提案を場違いといい、ドゥシュに頭を下げろと恫喝した。それだけならともかく、今後、訪問に関わることまで禁止したのだ。これを理不尽と言わずになんというべきか。ドゥシュや彼を慕う人間達はそう憤っていた。


「まあ、時間が解決してくれるよね。」


 いつだって少し時間が経てば、相手の方から頭を下げてくる。言い過ぎた、自分の考えが甘かった。そう言った言葉とともに謝罪し、折衷案を提案してくる。それがいつものパターンだ。

 

(父さんも兄さんも分かっているはずだ。僕はリンガット君と仲良くしてあげようと思っただけ。確かに彼は優秀だ。ただそれだけで、まだ13歳の子どもじゃないか。それを領主として扱うなんてひどいじゃないか。ここは大人である僕たちがフォローすべきだし、それに感謝すべきなのに。)

 

 だというのに、この扱い。何より年下であるリンガットのあの態度に、自尊心をひどく傷つけられた男は、その歪んだ性格ゆえに、反省するという発想がなかった。


(ここは、僕が何とかしてあげる必要があるね。オーベンや父さんにも気づかせてあげられるし、身の程を教えてあげれば、リンガット君も態度を改めるだろう。)


 実のところ、会食が始まってすぐドゥシュは行動を起こしていた。最初のリンガットの意外な反応を前にしたとき、驚きつつも決断しこっそりと部下にGOサインを出していた。

 それは、リンガットの部下とアーテムの関係者の引き抜き工作。これは今回の訪問に際して、取り巻きの1人がが考えていた手段の一つだ。

 上手くいけば、ビックオーシャンは新しい技術と優れた人材を手に入れられる。リンガットは、管理すべき人間が減るので、その責任を軽くできる。なんならミキサーという大規模なプロジェクトを、ビックオーシャンが引き受けてもいい。そういう提案だった。


(人の好意を無碍にするな子には、身の程を教えてあげる必要があるよね。それに、あんなわがままな子の部下をしている人達も気の毒だ。うん、みんなのためになるいい作戦だ。)


 本来の意図に「年上を尊重できない子供にお灸をすえる」という目的が加わったことに、部下たちは気づいていない。子どもの負担を減らしつつ、ビックオーシャンへ利益をもたらす。そんな表向きの善意を信じて、彼のために粉骨砕身、役目を果たそうとしている。

 だが、そんな彼らからの吉報はない。あらゆる手段でアーテムの乗員に接触した部下たちからは、体よく躱された、あるいは相手にしてもらえなかったという残念な報告しかこず。状況に慌てて謝罪に来ると思っていたリンガットや父からの連絡はまったくない。


 そして、気づけば夜が明けようとしている。彼の破滅がはじまったのは、そんな時だった。

 

「大変です。」

「えっどうしたの、まさかリンガット君が怒って帰ったとか?」


 乱暴にドアを開けて飛び込んできた部下。端末に転送する時間すら惜しんでもたらされた一方に、ドゥシュは楽観的な希望を持っていたが、現実はそんなものではなかった。


「バルト少将が、横領と人事配置に置ける収賄疑惑で緊急逮捕されました。」

「はああああ?」


 バルト少将と言えば、彼の人脈の中でも結構な力を持っている人だ。それこそ、アーテムの乗員の引き抜きを提案した中心人物の1人だ。


「なな、なにが。」

「軍の上層部やマスコミ、憲兵宛てに匿名で過去の事件の証拠が送られたそうです。本来なら裏取りなどの捜査が行われるはずなのですが、件数と証拠が多すぎて、緊急逮捕となったそうで。」

「す、すぐに連絡を。事情を聴かないと。」

「無理です。すでに身柄が拘束されているので、連絡がとれません。」

「そ、そんな。」


 寝耳に水、いや徹夜明けに熱湯といったところだろうか。信頼できる部下の突然のスキャンダルにドゥシュはかなり動揺した。それでもまだ為政者としての仮面は被れていたのは、信頼関係故だろう。バルト少将とドゥシュの付き合いは長い。そんな彼の口から、今回の一件や過去の色々なお節介が漏れることはないだろう。なんなら秘密を墓まで抱えていくようなタイプだ。人手が減るのは残念だが、ダメージは少ないはずだ。


「し、失礼します。大変です。」

「あ、ああ。バルト少将のことなら、今報告があったよ。」

「え、バルト少将?どういうことですか?」


 走り込んできた別の部下に冷静な自分を見せようと、あえてバルト少将の名前をだした。状況を把握している、大丈夫だ。そういう姿を見せることで部下たちを安心させようと考えたのだ。だが、部下の反応は彼の期待したものではなかった。


「財務省のチャフト様が、違法薬物の取引と収賄の疑いで緊急逮捕されました。」

「はあああああ。なんで?」


 ドゥシュはまだ知らない。彼が喧嘩を売った相手は、彼の手足を容易く奪う力を持ち、それを振るう事に一切躊躇しない、自称クソボンボンであることを。



(リンガット視点)


 匿名で送り出した情報。それが効果を発揮するまで、そう時間はかからないだろう。いつの時代もネット民というのは優秀だ。頼まなくても情報の真偽などすぐに確認してくれるだろう。そうなれば、司法関係者は動かざるを得なくなる。それが骨肉相食むことになっても、役目を全うしないと民意が納得しない。

 というわけで、各種報道や司法関係者、おまけにSNSに色々な情報をリークしまくって、テンション高めなリンガット様です。すごいぞ、偉いぞ、敬いやがってください。

 いやー。人様の粗探しは楽しいなー。隠す気0の傲慢を指摘され、過去のやらかしを晒された相手の顔が見えないのが残念で仕方ない。


「まだーまだーやるぞー。」

「思案。リンガットは何が楽しいんだ?」

「YES。あれは深夜テンションってやつだな。」


 ドゥシュによる不遜な態度や、承諾のない部下たちへの引き抜き行為。その他諸々、溜まった鬱憤に対する報復として俺がとった行動は、ハッキングによる情報収集と関係者のスキャンダルの暴露だった。


「わあ、過去の帳簿や記録が丸裸、すごいねー。」

「YES、我々にとっては朝飯前。」

「肯定、否定。このコロニーの情報セキュリティーは我々にとっては無意味。だが、その例えは不適格、我々は食事を必要としない。」


 我が家の愉快な電子精霊さん達にお願いした結果、ビックオーシャンの色んな資料がわんさか手に入りました。断っておくが違法なものではない。企業や役所というのは、公明正大な仕事をしている証明として過去の活動や人事、帳簿などを記録、保管しているものだ。しかるべき立場の人間が、しかるべき手順を踏めば、それらを閲覧することは可能だ。

 まあ、外部の人間である俺が見るのはちょっと法に触れるかもだけど、今回は善意の外部監査ってことで許してもらおう。

 

「はい、これは水増し請求。これは計算ミスの帳尻合わせ。こっちはダブルブッキングかな?」


 帳簿を眺めては気づいたところに付箋をつけ、記録に関しては前後の記録からの矛盾点に赤字で修正をいれてあげる。そして次々に出てくる不正の数々、それらをまとめて、然るべき場所へ匿名で通報する。うん、俺ってばいい子だね。


「驚愕、疑問。なぜこんなにも的確に見つけられる?」

「それは、僕の性格が悪いからだよ。」

「OH、リンガットの実力ということか。」

 

 性格の悪さも実力ということだろうか。もっともカウントのいう、俺の実力というのは正解だ。

 俺のESP「解析」は最も凡庸な能力と言われている。

 データや周辺情報を自動で統合最適化し、望む答えを出す。要は優れたAIみたいなもので、例えるならばエクセルのマクロみたいなものだ。数列を見れば計算結果が瞬時にわかるし、武器のカタログスペックから弾道計算をして視覚的に表現することもできる。だが、これらはある程度スペックの高い携帯端末でも再現可能なもので、お爺様の持つ真贋判定などのような特別感がない。

 で、それを一番活かせるのは、間違い探しだ。あと人探し系の絵本とかアハな体験とか超得意です。

 

「人間は記録をつけるのは好きだけど、確認するのは好きじゃないんだよ。だから、問題が起きない限りは細かい確認なんてしない。最終的な収支が合っていれば深くは調べないし、自分が損をしたと分からなければ、過去にさかのぼってまで調べることもないんだよ。」


 暴論なのは自覚している。世の中の大半の役人は真面目に帳簿をつけて公明正大に働いている。いざ、脱税の疑いが生まれれば、ペンの一本まで値段を調べて調査するのが人間だ。それでも人間ある以上、ちょっとしたミスや感情的な判断というのはどこかにあるものだ。

 ビックオーシャンは商材が優秀すぎるので、常に儲かっている。自分の懐にダメージが出たなら必死にもなるだろうが、本来手に入る儲けがわずかに減っただけなら、本腰をいれて調べる人間はいないだろう。むしろお互い様とか、暗黙の了解みたいなことを言って横行しているんだと思う。だってビックツリーもそうだし、次期領主の俺なんかその筆頭だしね。

 だからこそ、そういうものがあるという前提を持って探せば、違和感や不自然な点はすぐに見つかった。そして一つ見つければ、その特徴を「解析」して類似する案件も芋づる式に見つけることができる。さらに、メトルとカウントにお願いすれば、音声データや画像などの証拠だって付いてくる。

 あとは引き抜き活動の実行犯を中心に、主だった連中のスキャンダルをばら撒けばいい。その数は数十人にも及ぶが、あとは揚げ足取りが好きな連中が勝手に騒いでくれるだろう。

 ここぞとばかりにその地位から引きずり降ろされる人間に、信用を失う人間。リークした相手が分からずに疑心暗鬼に陥る人間や、ルールに則って取り締まりを強化する人間。その反応は様々だろう。


 だが、共通することとして、情報をリークした俺を探すことは困難だ。


 まず、手際が鮮やかすぎて証拠がない。手段はどうあれ、時間をかければ誰でも入手できる情報をベースに作られたリーク情報は、誰にでも用意できるものだ。暴露された人間を分類すれば、俺やビックツリーの関係者を疑うことができても、うちの優秀な電子精霊さん達を介したやり取りのおかげで、決定打となる証拠は残していない。

 次に、報復への恐怖だ。短時間で集められた情報は、とても多く、精度の高いものだ。その質の良さは、その気になれば、誰の情報だって抜き取れるという底知れぬ恐怖を相手に与えることだろう。下手に犯人捜しをすれば、今度は自分が標的となる。ちょっと知恵が回り、後ろ暗いことを抱えている人間なら、俺だと分かったとしても喧嘩を売るようなことはしないだろう。

 

「いやはや、今日ほど君たちと仲良くしていてよかったと思う日はないと思うよ。」

「賛同。今回は貴重な経験だった。我々としてもリンガットとの時間は有意義。」

「YES。刺激的で楽しかった。またいつでも誘ってくれ。」


 もともとも俺は原作ファンな一般人で、リンガットも13歳の子供だ。傲慢な大人の振る舞いや次期領主として振る舞うことに、少なからずストレスを感じていたんだと思う。

 こうして、己の能力をフル活用して、相手の粗探しをするのが楽しくてしょうがなかった。結果として今日からビックオーシャンは荒れに荒れるだろう。だが、知ったこっちゃない。


「そろそろ休もうかな。2時間ぐらいは寝れるだろうし。」

「是。成長期の夜更かしはよくない。健やかな日々のために休むことは大事。」

「GoodNight。俺もカナデのとこに戻るぜ。」

 

 一仕事を終えた俺は、時計を確認して休むことにした。スーザンたち警備の人間には悪いが、さすがにちょっと疲れた。まあ、彼らも優秀だし、時間になれば起こしてくれるだろう。

 端末をおき、ベットに倒れ込んだ俺は、そのまま睡魔に身を任せた。そのときの睡眠は久しぶりに夢見がめちゃくちゃよかった。

ドゥシュ「何も悪い事してないよ。僕はみんなの事を思ってやっているんだ。」

リンガット「何も悪い事はしていません。悪い人の秘密をばらしただけです。」


 どっちもどっちだけど、比較されることで、リンガットのえげつなさがおかしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
電子媒体なんかに遺したのが悪い。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ