53 アフタースペース296 一方そのころ①
久しぶりに別視点です。
気をつけろ。フェイステル様はそう言っていた。だが、あの男が一晩も我慢できるわけがない。そう思っていからか、帰り道での知らせには驚かなかった。
「リンガット様、チームから連絡がありました。」
「ああ、やっぱり接触があった感じ?」
「はい、想定ラインAだったと。」
「まじか、それなら、アーテムから増員を呼んで、小型船周りの警備を強化させてね。」
「・・・了解しました。」
しばしの沈黙は、警備体制練り直すためだろう。余計なことは聞かず、スーザンは通信端末で、やりとりを始めた。まったく有能な侍女様である。
それにしても真っ先に想定し、部下から一番駄目だしされた予想が当たるとはアレだなー。
「まあ、お手並み拝見かな。」
客観的に見れば、俺たちが負けることは万が一にもありえない。問題は勝ち方だ。売られたからには徹底的に買い叩こう。
(1時間前 カナデ視点)
土鍋と呼ばれる独特な形をした鍋でグツグツと煮られているのは、魚の切り身や貝、なんか赤くて細長いのはカニの足らしい。切り身はや貝はいい。変わった色の肉って感じだ。だが、カニの足とは一体?虫の足のようにも見える見た目だけど、これは食べ物なのか?
あと、お湯に浮かぶ殻が、昼間の体験を思い出して俺は手を出せずにいた。
水に潜る体験、あれは、めっちゃ怖かった。宇宙と変わらないよってリンガット様は軽く言ってたけど、あの圧迫感と重さは別物だ。ミキサーの外殻と気密性を信用していたし、シミュレーターで事前に慣熟訓練もしていたから操作にも自信はあった。
「どうしたのカナデ君ー。元気ないね。魚嫌いー?」
「ドルチェさん、ちょっとさっきの水中でのことを思い出していて。魚は美味いっすけど。」
「はは、意外なところでエース様の弱点発覚、と言いたいところだが、正直、同情する。俺もアレは無理だ。」
並べられた魚料理を前に昼間の恐怖を思い出していたら、ドルチェ姐さんとカルマートさんにも心配され、つい本音がもれてしまった。俺と同じミキサーのパイロットである二人には、通じるものがあったらしく、二人も神妙な顔でうなづいた。
「あれはないわねー。」
「あれはないな。」
「ですよね、やっぱり。」
リンガット様は大丈夫って自信満々だったけど、ビックツリー出身の俺たちからすれば、あんな大量の水を見たのは初めてだった。おまけに水質汚染の可能性があるからエンジンの出力は制限されていたし、墜落したら大変なことになると事前説明もあった。
水面の上を飛ぶ。それだけでも俺達は緊張していたのだ。命令されたときは、頭オカシイって思った。
「まあ、あのタイミングで迷わず命令できちゃうのが、リンガット様って感じだよねー。」
「そうだな、ああいう事故は数秒の遅れが致命的な結果を生むことがある。」
と思っているのは俺だけで、2人の顔にはリンガット様への理解と敬意があった。それもそのはず、彼らは俺と違って歴っとした軍人なのだ。こうして食堂で食事をしている間も、軍服にはしみ一つなく、背筋をピンと伸ばして椅子に座る姿は凛々しい。聞けば実家は結構な名家でエリートらしい。
そんな彼らがスラム出身の俺をチームメイトとして尊重してくれるのは、2人もまた船乗りだからだろう。なお、姉弟のようにどっちも整った顔をしていて見た目はそっくりだが、それを指摘するとドルチェ姐さんがマジギレするので、それだけは注意だ。
「お前ら、無駄口を開く前に、まずは食え。料理が冷める。」
「なんですか、隊長を待ってたんですよー。」
「そうっすよ。定時連絡だって、料理が来る直前で離席したんじゃないですか。」
「ぬかせ、そういうのは、ジョッキを新しくしてから言うんだな。」
そんなことを思っていたら、チームリーダーであるプレスト隊長も戻ってきて席に着いた。ぎしり、彼の体重に椅子が嫌な音を立てた気がするが、そう感じるのは彼が大男だからだ。筋肉で膨らんだ身体が大きすぎて、軍服のサイズがあっていないので、軍服の前は留まっていないし、袖が足りておらずまくられている。彼もまた胡弓出身の軍人さんだけど、ドルチェ姐さんとカルマートさんがきれいな軍人だとしたら、こっちは叩き上げって感じだ。けど、彼もまた名家出身のエリートらしい。
「カナデももっと食え、身体づくりの基本は飯だぞ。」
「いやいや、多いっすよ、流石に。」
まあ、中身は気のいいおっちゃんである。仕事熱心で厳しいところもあるけど、俺や部下への気遣いは人一倍だ。今だって席に着くなり土鍋から色々と見繕っては俺の皿によそっていく。いや、カニは遠慮しておき、えっ一番高いのがこれ、わかりました、いただきます。
食事のメンバーはこの4人。場所はビックオーシャンの大衆食堂だ。俺達以外にも観光客や地元民らしき客でわりとにぎわっていた。夕飯時なのもあってほぼ満席、酒が入って顔が赤い客も多い。
そんなわけで、軍服な俺達の存在はそこそこ目立つが、店の賑やかな雰囲気に溶け込めていた。不本意だが、俺という子供を連れていることにどこか親しみを感じている店員やお客もいたようだ。
「なあ、あんたら、その軍服、ビックツリーさんからのお客さんかい?」
「ああ、そうだ。しばらく世話になる。よろしく。」
見知らぬおっさんが俺たちに話しかけてきたのも、そんな親しみやすさからだろう。地元の人なのか、ジーンズにタンクトップとラフな格好していたが、見える筋肉は引き締まっている。恐らくは船乗りなんだろう、ごっつい身体のわりに、表情は人懐っこい。
「そうなのか、じゃあ一杯驕らせてくれ。今日アンタらが助けてくれた船には、従妹がのってたんだよ。事故の知らせはびびったが、あんたらのおかげで無事だった。」
「そうか、それは何よりだ。だが、今日はまだ仕事が残っていてな、ノンアルなら有難い。」
「真面目な軍人さんだな。じゃあ、ビックオーシャン名物のフレッシュジュースを奢らせてくれ。」
生真面目そうに答えるブレスト隊長だったが、その口元はニンマリと笑っている。謙遜していたが、当時者である俺達はこの賞賛に鼻高々だ。
「ちっ、よそもんが出しゃばっただけだろ。海を汚してたらどうなっていたか。」
「おい、失礼だぞ。ビックツリーのロボットが対応してなかったら救援が遅れて死人がでてたかもしれないって話だ。そうでなくもて事故のときは助けあいだろ。」
「はっ、そんなのマスコミが勝手に言ってる憶測だろ。本当にそうなら、領主様が発表してるっての。」
一方で、そんな様子が気に入らない客もいたようだ。ジュースのグラスを運ぶ途中、おっちゃんはダル絡み酔っ払いが口論になっていた。聞き耳を立てていたわけじゃないが、声が大きいので俺達に対する評価も色々と聞こえてきた。
「すまないな。どうにもよそ者が活躍したってのは気に入らない連中がいてな。」
「気にしない、俺達だって、森に入られればナーバスになるさ。」
「なるほどな。まあ、俺が聞いた限りじゃ問題にはなってないから気にすんな。少なくとも、乗組員や知り合い関係者は感謝してるからな。」
そんな言葉とジュースを置いておっちゃんは席へと戻っていた。歓迎の気持ちはあれど、空気的にやりづらいといったところだろう。これはまた貴重な情報だ。
「どうやら、救助の一件はまだ情報が広まっていないらしいな。」
「リンガット様の予想通りだねー。」
こそこそと話すブレスト隊長とドルチェ姐さんに俺は黙ってうなづいた。この場で、自分たちが救助の立役者だったと喧伝するつもりはないし、批判に付き合う気もない。
来訪直後に遭遇した海難事故と救助活動。これはリンガット様の善意と決断による命令で、俺達は従っただけだ。見返りや賞賛を求めるものではない。ボーナスならリンガット様が確約してくれているしな。
ただ、この救助は、ちょっと複雑な問題らしい。
「普通はさあ、他所のコロニーにで好き勝手に舟や機械を動かすなんてしないんだよ。今回だって、事前に届け出をだして、航路も厳密に指定された。」
「そうですよね、航路遵守はミーティングで何度も言われましたし。」
「そうそう、下手に事故なんて起こせばテロ行為扱いになるからな。まあ緊急事態だったから、そこはいいんだよ。あとは、水場にミキサーを沈めたのも気に入らないんだろうな。事前に洗浄と消毒はしてあったとはいえ、他所のコロニーの人間が水に飛び込んだら、どんな影響があるかわかったもんじゃない。」
「そんなにだめなんですか。」
「まあ、ここでの水は、俺らにとっての森林と同じだからな。」
「なるほど。」
カルマートさんの説明は分かりやすかった。スラム出身で、直接林業に関わりのない俺ですら、見慣れたビックツリーの木々には少なからず愛着がある。そこに土足で踏み込まれたらいい気分はしない。
俺がしたことってそういうことになるのか。
「俺がミキサーって潜ったことって秘密したほうがいいですね。」
「そういうことだ。だから、俺達が一緒に居る。まあ、それがチームってもんだ。」
状況を理解した俺の頭をバシバシと叩きながらカルマートさんは笑った。色々と気にするなってことなんだろう。実際、俺も気にしていない。人助けしておいて文句も言われてもねーって感じだ。
「と、カナデも事情を理解したところで、お前たちも気を引き締めろ。批判にしろ賞賛にしろ、相手は今回の一件を手札に、俺達に近づいてくる可能性が高い。というのがリンガット様の判断だ。まずは目の前のメシを食って英気を養え。乾杯。」
そうブレスト隊長が締めたところで、俺たちはフレッシュジュースで乾杯をした。
状況が状況なので、俺達はアーテムに戻って大人しくしているべきなのかもしれない。だが、リンガット様はそれを却下し、お小遣いをくれてこうして送り出してくれた。今晩、リンガット様本人は、領主同士の会食へ赴き、一部の部下たちは、交流会に参加しているらしい。
『下手に引き込んだらメンバーを特定されちゃうでしょ。それにこういった交流も外交の一環、経費で落とすから楽しんできなよ。ああ、お土産とかも沢山買っていいからね。』
アーテムでの待機を進言した俺たちにリンガット様はそう言ってくれた。それが、建前なのは明らかだ。別のコロニーを楽しむという、一生に一度あるかないかもわからないを機会を部下たちから取り上げるのが忍びなかったのだろう。というがブレスト隊長の見解だ。
「リンガット様の思いを無駄にしてはいけないよねー。」
「まったくだ。あの方と出会えたのは、我々にとっては最大の幸運だ。」
「ほんと、船乗りの扱いがうまい人だ。」
そうやって先輩たちからの評価が高い今回の判断だが、なぜだろうか、俺は少し疑ってしまう。
『まあ、多少のトラブルなんて、どうにでもできるだろうし。』
先ほどの言葉のあとに、こそっと付け足されたこの言葉には主語がなかった。
そうやってリンガット様がとぼけるときは、たいていろくでもないことが起こる。本人は偶然だ冤罪だと否定するだろうけど、あの人は星の巡りがオカシイ。
「おやおや、ビックツリーの軍人さまですか。楽しんでおられますかな?」
そして、そのトラブルからは逃げられない。招かれざる客の登場は俺がそんなことを思ったタイミングだった。
カナデ「蟹って見た目虫じゃない?」
ドルチェ姐さん「やっと名前がついたー。」
カルマ―ト「キャラ登場で一話もらえたのに、内容がうすい。」
ブレスト隊長「我々の詳細については、また別の機会に」
新キャラ登場で、話が進まない・・・。次回もカナデ視点であれこれあります。




