52 アフタースペース296 やらかしの裏には、事情はありました。後編
前回の続き、ドゥシュ君の秘密に関わる話です。
俺が新たに出したカード、それは俺自身のESPの秘密だ。
「君のESPは、ほかの能力を見抜くものという噂は本当だったのか。」
「当たらずとも遠からずというやつです。僕のESPは「解析」です。人よりも少しばかし分析が得意なだけですよ。」
「だとしてもだ。その顔を見る限り確信できるだけの何かがあるんだろ?」
こちらの質問を一時的に棚上げしてフェイステル様は俺に探りをいれてきた。質問に質問を返すのがマナー違反なのは、彼も承知だろう。それでも確認せずにはいられないほど、このカードの意味は大きい。
Extra Sensory Perception 超感覚的知覚、通称ESPと呼ばれる特殊能力。宇宙に進出したことで人類が獲得したこの能力には様々なものが存在する。鳥のように周囲を俯瞰して把握したり、物事の真偽や人の心情を読み取ったりする目をもつ者がいれば、潜水艦のソナーよりも優れた聴覚の耳やグラム単位で重さを図れる手を持つ者もいる。
だが、これらの多くは自己申告によるものが多い。本人に能力の自覚がなかったり、意図的に隠していたりする場合、周りは気づけないのだ。それにそもそもとしてESP能力者は希少だ。
だというのに、護衛として連れているスーザンを筆頭に俺の周りにはESP能力者がやたらと多い。スラムでスカウトしたアルさんやカナデ、軍や船乗りから引き抜いたミキサーのパイロットたち、事務関連の文官にも何人もいる。公表こそしていないが、隠していない。それなりの調査力がある人間なら、俺にそんな夢のような能力があると想像していてもおかしなことではない。
だが、今、言及すべきことはそこではない。
「正直な話、ドゥシュに何かしらのESPがあるのではないかと私は予想している。だがそれが何かまではつかめていない。本人も無自覚かもしれん。」
「なるほど、だから話題にあげられなかったと。」
フィステル様もそこは理解されているようで、いろんな疑問をぐっと飲み込んで話題をドゥシュに戻した。ここに至ってもまだ、曖昧な言い方であったが、俺も追及しない。俺だって本当に確信があるわけじゃない。
「で、ドゥシュの能力というのは?」
「「愛執染着」かと。」
「・・・やはりか。」
ESP「愛執染着」。原作ファンの間で、「愛されガール」と言われていたとあるキャラクターが持っていた厄介な能力だ。
カメレオンの体色変化やタンチョウヅルの鳴き声やダンスなど、多くの動物は己の魅力をアピールするために行動を本能的に扱っている。それは人間にも同じことが言える。アイドルや俳優のさりげない仕草や話し方などを魅力的に感じたり、一流の企業の社長や政治家のプロモーションに説得力を感じたりしたりするあの感覚だ。
そういった仕草や言動の多くは、意図的、技術的のものだが、それを自然と出来てしまう人間もいる。「天然」とか「あざとい」などと言われる類の人間だ。
愛執染着は、これの進化系である。意図せず発動するこの能力は、能力者の言動を魅力的に感じさせ、言葉以上の説得力を持たせるのだ。正確にはそういう風に評価される言動を自然と出来るだけで、ESPとしては「解析」以上に外れな能力でもある。
だが、どんな能力も使いようである。原作に登場した愛されガールはこのESPを駆使して、絶大な人気を誇るアイドルとして活動していた。というかキャラクターの魅力に対して異常すぎる人気の後付けとして愛執染着というESPが生み出されたのではないか、というのがファンの間では噂されていたっけ?
「なるほど、それでか。」
「でしょうね、身内には特に効果的らしいですから。」
自覚があるのかないのかは別として、ドゥシュの言動は中身以上の説得力をもっていた、いや改変というレベルでおかしかった。俺が彼のESPを疑ったのは、その異常に気づいたからだ。
方針の定まらない二人体制によるあべこべな接待やオーベンとの会話に平然と割り込んでくるあの態度。本来ならば常識外れの愚行であり、提案段階で止められるべきことだった。だというのに、それに一番振り回されていた俺ですら、テティスとの件があるまでは、気さくな人の空回りだと好意的に受け止めていたのだ。何の疑問も持たずに・・・。
改めて初日の会話を文章で振り返ったときは、己の迂闊さに笑ってしまった。それこそ、なぜ俺があんなに我慢していたのか、客観的に見ていた部下たちのその判断の方が冷静だったのだ。
初対面の俺ですらそうだったのだ。普段から付き合いもあり、彼から直接その説明を聞いた人間には、愚行も、斬新なもの、革新的なものと思えてしまったのだろう。
「実のところ、ドゥシュは君がなぜ怒っていたのかわかっていなかった。」
「でしょうねー。」
これの質が悪いところは、ドゥシュ本人に悪意がなかったことだろう。彼自身は、本気で俺を喜ばせようとしてあんな行動をとっていたと思われる。その中身が拙すぎて目も当てられないものだと気づかずに。
おそらくだが、彼は自分の言葉が否定されたことがあまりないのだろう。能力を自覚しているのかどうかは別として、自分の言動が相手に受け入れられるのは当たり前。家で甘やかされて育った子供が、小学校で、先生にめっちゃ怒られるみたいなものだ。あるいは社会に出てから現実を知るみたいな?
そんな人生を送っている人間の思慮などたかがしれている。
まさにクソボンボン。原作リンガットもドゥシュのような生き方をしていたのかもしれない。そう思うと彼に少しだけ同情してしまう。
「客観的な意見というのはありがたいな。改めてドゥシュには良く聞かせておく。」
「そうですね、本人が自覚し、研鑽を積めば、人柄の良さ、人徳ともなるESPですから。」
願わくば、俺に起こった奇跡のように、今回の一件が彼の今後の人生の転機になって欲しい。それが叶わないなら、今後は大人しく生きて、俺やビックツリーに関わらなければ御の字だ。
まあ、きっとそうはならないだろう。
「加えて申し分けない。あの愚息にはシンパが多い。此度の一件で君に逆恨みをするものがでてくるかもしれない。こちらでも充分に手配するが、明日以降も身辺には気を付けてくれ。」
彼はアラサーである。矯正するにはもう遅いかもしれない。父親であるフェイステル様がそう思っているのが、明らかだったからだ。
リンガット「トラブルの予感しかない。」
フィステル「うちの子そんなにやばかったの!」
異常な行動、優秀すぎる行動はESPが疑われるのがこの世界です。
次回更新は20日(月)の予定です。
補足①
リンガットがドゥシュやほかの人のESPに気づいた理由。
原作知識のおかげで、様々なESPについての知識があり、それを基に疑いを持って相手の行動を分析しているから。通常は能力を判定するための試験や自己申告で発覚することを解析で見抜けているだけであり、実はドゥシュについて、推測の域を出ていない。
補足②
「愛執染着」
人に好まれる言動を自然とできる才能。能力者は意図せず、己の行動の説得力や魅力を増大させることができる。会食の場で泣き崩れたドゥシュに対して、呆れよりも同情に近い感情を周囲の人間が持ったのはそのため。




