51 アフタースペース296 やらかしの裏には、事情はありました。前編
ネタ晴らしなお話。
振り返ることなく部屋を出る。そのまま、まっすぐ外を目指す。刺身やエビなど、食べたいものは食べおいたので、心残りはない。
「みんなは、もう食べたかな?」
「入港組は、街の食堂へ行ったようですが、呼び戻しますか。」
「そこまではいいよ。念のために予定が繰り上がったことだけ連絡しておいて。」
「了解です。」
付き従うのはスーザンのみ、やや離れた場所に護衛は控えさせているけど、公的な場面で俺が連れ歩くのは彼女だけだ。そのため先ほどのような誤解が生まれることもあるけど、それを邪推した人間の顛末は語るまい。
「お食事の方はどうされますか?」
「お腹は一杯。でも戻ったらお茶が飲みたいかな。」
「そうですか、では、移動ユニットを呼びます。」
彼女1人だけ連れ歩いているのは、スーザンがそれだけ優秀だからだ。こういった突発的な事態にも対応できるし、余計な事を言わない寡黙さと度胸を持ち合わせている。並みの侍女や部下なら、俺の行動に顔を青ざめて、大丈夫ですかと、何度も訪ねてきたことだろう。
実際、会食の場での俺の振る舞いは、グレーゾーンだ。先方のマナー違反もグダグダな対応も事実であるが、あの程度で離席したとなれば、狭量な男と思われる振る舞いでもある。見方によっては理不尽に怒って、領主関係者を泣かせた、そう批判されてもおかしくない。そのリスクを覚悟であんな態度をとった。まあ、大事にはならないと思えるだけの材料もあるしね。
「さすがに疲れた。」
戻ったらお茶を飲んですぐ休もう。そう思っていたが、俺の進路はあっさりと塞がれた。
「お待ちを。」
「これはこれは、フィステル様。お疲れ様です」
会食の場で息子たちを説教していたはずの現領主は、汗を流しながら回り込み、俺を呼びとめた。
「本当に申し訳ないが、別室にてお話をさせていただきたい。」
「・・・今回だけですよ。」
「助かる。この詫びと礼は必ず。」
下手にでているが、問答無用な圧力を発揮するフェイステル様。どうやら、休むのはもう少し後になりそうだ。
「改めて、この度は愚息の不手際で不快な思いをさせてしまい、申し訳ない。」
「何度も頭を下げることないでしょうに。」
そんなわけで、別室に案内された俺は、フィステル様と向かい合う形でソファーに腰かけた。そして、前置きもなく、真っ先になされたのは謝罪だった。
まさかと思うが、そんなことのために俺を呼んだわけじゃないよな?
「疲れているとは思ったが、ここで事情を話すことが誠意と思ってな。しばし付き合ってくれ。」
会食での出来事は想定外だったようだけど、部屋の様子を見る限り、この密談は、はじめからするつもりだったのだろう。そんな前置きとともに語られたのは、今回の訪問の裏話だった。
「まず、言い訳に聞こえてしまうかもしれないが、愚息どもの事情がリンガット卿に伝わっていなかったのは、レイウッド、ビックツリー現領主の指示でもある。」
「ああ、やっぱり。」
「気づいていたのか。」
「まあ、お爺様のことですから、何かあるとは思っていました。」
お爺様は孫である俺には甘いが、領主としての厳格さは失われていない。今回の訪問にも次期領主として、俺を鍛えるための課題が隠されているとは、予想はしていた。
「我々の時もそうだったが、次期領主、あるいは候補となる人間同士が初めて交流するときは相手の人となりについて詳細には説明しないのが代々の伝統なのだ。それだけ、ビックツリーとビックオーシャンの関係は複雑で綿密なものだ。」
「なるほど。」
「一度はぶつかることも想定内。私とレイウッドも、馬が合わずによく口論となってしまった。まあ年も近いこともあり、今では最も信頼できる人間となっている。」
「お爺様もフィステル様は信頼できる人だとおっしゃっていました。」
「そうか、それは嬉しいな。」
本音でぶつかるというのは大事だ。俺とカナデ達がいい例だろう。原作では命のやり取りをするような間柄な俺たちも、立場を超えて直接話をしたことで、仲良くなれた。そして、仲良くなるまでは色々あった。
そして、おそらくだが、爺様達の狙いは、俺たちの人の目を鍛えることにあったのだろう。
13あるコロニーは300年の歴史の中で、独自の進化を遂げ、それぞれが独立した国家のようなものとなっている。たとえ、領主関係者であっても、他のコロニーで生活する人間の人となりを知ることはまず不可能だ。すべてのコロニーを訪問して回るゼーレーや、最近目立ちまくりな俺は例外かもしれないが、それだって、調べて分かるのは功績と姿ぐらい、その性格や実力を図るには直接会って、言葉を交わすしかない。
「今回は、それが良くない方向へいってしまったようだ。テティスはともかくとして、オーベンとドゥシュは、君の見た目と年齢で判断し、丸め込めると思ってしまった。そして、傲慢にもビックオーシャンの利を追求してしまった。これは私の教育不足だ。本当に申し訳なかった。」
今日の様々なグダグダには、こういう裏があったわけか。まあ、舐められてたのはわかってたけど。
「で、僕は、どうでした。」
「君の話を聞いたとき、レイウッドが孫馬鹿になっていたと思っていた。だがそれは、間違いだった。その年齢で、この落ち着きよう。君が次代のビックツリーであることが頼もしくも恐ろしいよ。」
「多分な評価、ありがとうございます。今後も研鑽に務めます。」
なんとも迷惑な話だ。だが、そういうことができるぐらいお爺様とフェイステル様は信頼関係が築けているということだろう。そして、次代である俺たちに期待したと。
「でも、テティス様の件は止めるべきだったのでは?」
突発的な男女の対談と縁談の匂わせ、これをお爺様が許すとは思えない。他のやらかしが謝罪で許されるレベルだとして、これだけが異常だった。
「その件か・・・それについても本当に申しわけない。あの対談は、ドゥシュの暴走だ。兄妹とのプライベートな会話の中で、テティスを唆したらしい。だが、ビックオーシャンとして、2人の縁談を進める気は今のところはない。私だって娘はかわいい。君たちの意志に反するような縁談を進める気はないと断言させてもらう。」
「それは何よりです。」
現領主から言質。これがもらえただけでも今日の面倒ごとを許してもいいかもしれない。これで、この縁談を邪推する人間に対応しても、文句は言われなくなった。
「ドゥシュのあの思い付きで動く性格には私も手を焼いていてな。今回の訪問も長子相続の慣例でオーベンが主となって対応する予定だったのだが、何かと口を挟んで、あのようになってしまった。」
「止める人はいなかったんですか?」
「そこがアイツの厄介なところでな。次男として甘やかされて育ったせいか、あのような軽薄な立ち振る舞いになってしまったのだが、それを物腰の柔らかさや優しさと捉えて愛でている人間が多く、妻やオーベンなどはその典型でな、家族として溺愛している。そうでなくも、オーベンは身内に甘い、だから善意を建前とするドゥシュのわがまま《提案》を無碍には、できなかったそうだ。」
「うーん。」
「だからこそ、あの場でオーベンも叱った。今後、ビックオーシャンを引っ張る男になるにはまだまだ課題が多い男だが、仕事はできるので、まだ見守ってほしい。」
名言をさけているが、彼の中で次期領主は内定しているらしい。
それはともかく、ドゥシュって典型的なボンボンキャラだったんだな。
原作で、オーベンとドゥシュの名前は出てこない。帰国したテティスによる改革は、彼女の語りの中でのみ描写され、そのときに一言。
『父や兄には、隠居していただきました。』
フィステル様も含めてビックオーシャンの領主一家が出てくるのは、そこだけである。外伝とかサイドストーリーにも登場していない。
だからこそ、俺も彼らを見誤っていた。彼らが登場しなかったのは、キャラが薄いのではなく、濃すぎてめんどくさかったからだ。それこそ、この人間ドラマでワンシーズンいけちゃうんじゃないかな?
「改めて、息子たちも君の実力がわかっただろう。それを踏まえて明日以降、見定めて欲しい。」
矛を収めてほしいと言わないあたり、フィステル様も状況の危うさを理解しているのだろう。そして、息子たちへの期待もまだあるらしい。事情を話しつつも、これ以上、口を挟む気はないらしい。
でも、それだと困るんだよね。明日以降のことを考えると、もう少しだけ言質をもらっておきたい。
「そんなに隠しておきたいんですか?彼のESPを。」
「っ・・・気づかれていたか?」
「今までは推測でしたが、フィステル様の対応で確信しました。」
「あまりいじめないでくれるとありがたい。」
一通りフィステル様の話を聞いたあと、俺は容赦なく追加のカードを切ることにした。
リンガット「まだまだ秘密があるぞー。」
フィステル「手札は隠しておきたいけど、無理ゲーだ、これ。」
ドゥシュの秘密まで書きたかったのですが長くなったので一区切り。
ビックオーシャン編は予想以上に情報量が多くなってしまい、まだ続きます。




