47 アフタスペース296 このヒロインにニーズはなさそう2
ヒロインとの対面です。
テティスの驚きと怒りの声とともに部屋の中には気まずい沈黙が流れた。何かどうしようもないすれ違いがあったのは確かなんだろうけど、俺はわりとどうでもいいことに気を取られてしまっていた。
(そういえば、リンガットとテティスが直接対面する場面は原作にはなかったなあ。)
お見合いという名目でビックツリーへと移動している間に宙賊の襲撃にあったテティスは、通信越しで縁談の破棄を伝え、その後の交渉も通信や代理人通してのものだった。その後、何度かアプローチをしていたリンガットだったけど、そのほとんどが袖にされ、最後の別れも通信越しだった。
まあ、それを言うならアルさんやカナデ達主人公チームの顔をリンガットが直接見ることはなかった。なんなら、言葉を交わしたのもリンガットが破滅した中盤の決戦が最初で最後だった。
もしも宙賊の襲撃がなく、リンガットとテティスが直接言葉を交わす機会があったら、歴史は変わってのだろうか。そんなもしもを考察する掲示板もあった気がする。まあ、仮に見合いがあったとしても、縁談は成立せず、くそボンボンであるリンガットの末路は変わらなかっただろう。
それでも、同じくコロニーを背負った立場であり、最も多く言葉を交わしたネームドであったためか、テティスとこうして向き合っている状況は、不思議な感覚を覚えてしまう。
「そんな事実はありませんよ?」
だからと言って優しくするとか、礼儀に適った言動になれないのか、ロボットには乗らない彼女に興味がないからだ。
「ど、どういうことですの?」
「言葉通りです、今回の訪問は、ビックオーシャンからの要請を受けたもので、こちらからは何一つ要求も依頼もしていません。正直言えば、突然の訪問に戸惑っています。」
あえて目的を言うならば、ミキサーの売り込みとアーテムでの旅行だ。それだって想定外、予定外の役目に無理やりこじつけただけもので、ここにいるのは不本意以外の何物でもない。当然だが、誰かに面会のアポイントメントを申し込んだ記憶も記録もない。
「で、でもドゥシュお兄様は、あなたが私にどうしても会いたいと言っていたと。」
「いやー、そんな記憶はないですよ。ねえースーザン、僕、そんなこと言ってた?」
「いえ、会話はすべて記録してありますが、そのような発言は一切されていません。」
念のためスーザンにも確認をとったが、そんなことは言っていなかった。なんなら気を利かせて彼女のことは話題にすらあげなかったと思う。
天気や家族というのは会話における鉄板カードだ。しかも彼女と俺は年が近い。話題としては使い勝手がいいものだろう。だが、テティスが、どちらの兄を支援しているかがわからない以上、俺の方から彼女を話題に出すことはなかったし、向こうにもそんな隙を与えなかった。
うちの妹よりしっかりしている。なんて会話は地雷以外の何物でもない。はじまれば最後、兄弟の中の優劣へと話題になり、それが婉曲されて、支援の言質となってしまうからだ。
「そ、そんな、まさか、だとしたら。」
こちらの態度から、本気なことが伝わったのだろう、テティスは俺や自分のお付きの人達の顔をキョロキョロと彷徨わせて狼狽した。
「事情を、伺ってもいいですか?」
「は、はい。」
ここで聞かないというのも選択だ。彼女の立場やプライドを考えれば、何もなかったことにしてお帰りいただくほうが貸しにできるかもしれない。だが、原作との関わりを考えるとここで話をつけておきたかった。テティス側としても恥を忍んで、対話をしておかないとまずいとわかっているのか、動揺しつつも、居住まいを正して会話を続行した。
「実は、今回の訪問。こちらからの要請であるはずなのに、次期領主であるリンガット卿が直々に訪れることが疑問だったんです。」
「でしょうね。」
「お互いの立場を考えれば、こちらから人を送るのが礼儀。呼び出すにしてもご多忙なリンガット卿が来るというのは外交的に不公平すぎる。そう判断したのは私だけではありません。」
テティスの言葉に控えていたお付きの人達もうなづく。たしかにまともな政治感覚を持っていれば今回の一件が歪なものであることは明らかだ。うちの子たちなんか、ずっとイライラしているもん。
「私たちは、父、フィステルにも相談をしました。ですが、先方と話は済んでいるとのことで、取り合ってはもらえませんでした。」
「なるほど。僕もお爺様、レイウッドから詳しい話は聞かされいないので、そこは疑問だったんですよね。」
「そうなんですの。」
「ええ、今回の人事についてはお領主同士の話し合いで決められたようです。」
詳しくは知らない。これは、嘘である。
お爺様からは、オーベンとドゥシュが次期領主の立場を争っていることや、その所為でビックツリーとの交渉の意思決定ができていないというビックオーシャン側の事情は知らされている。その上で、それぞれがどんな思想で、どんな対応を考えているかは事前に調査してから今回の訪問に臨んでいる。
ようは、ビックツリー側が配慮しただけの話。ビックオーシャンの不手際に付き合っているだけだ。
だが、この場でそれを教えてあげる義理はない。テティスが自領の実態を理解しているのか、理解して知らないフリをしているかまだ判断が出来ていない状況で、こちらの腹の内を教えるのは親切が過ぎる。
「そ、そうなのですね。となると・・・。」
ここでテティスは言い淀み、お茶で喉を潤した。彼女なり考えをまとめる、いや覚悟を決めるのに時間が必要だったのだろう。
「父からそのことを告げられた時、オーベンは効率の問題だと判断しました。ビックオーシャンの特殊な環境でロボットが運用できるのか、その実地調査をするならば、リンガット卿が直接出向いたほうが効率がいいだろうと。」
ミキサーな。たしかにあの堅物なオーベンならそういう判断をしそうな気がする。実際、サンブラーやミキサーの開発と販売の総責任者は俺である。礼儀とか忙しさを無視すれば、水場という特殊な環境に即応するために俺が出向くこと自体は効率がいい。水中で活動するミキサーなんてイベントなら、俺は喜んで参加していたと思う。ただし、領主の仕事が忙しくない場合に限ってだけど。
「ドゥシュのほうは・・・あれです。縁談ではないかと判断したようでして。」
「はあ?」
「あ、ああ。すいません。」
「続けてください。」
予想外の言葉に驚いてしまった。落ち着け、まずは話を聞かなくては。
「ドゥシュは、私とリンガット卿の縁談なのではないかと推測していたようです。間違ってましたけど。」
「仮にそうだとしたら、事前に話があると思いますよ。」
「え、ええ。だから今回は顔見せで、相性次第で話を進める。そういったものなのだと、判断してました。」
「なるほど。そういう事情でしたか。」
これまた、ありそうな話というのがひどい。
文化のこそ違いはあれど、人の上に立つ立場への理解があり、そのために教育がなされている領主一家は結婚相手として優良物件だ。コロニー間の関係強化などのメリットも含めて、年の近い俺とテティスにそういった縁談があると、邪推するもありえなくはない。
もっとも当人同士の気持ちが優先されるので、親が勝手にということはありえない。精々が交流の機会を作ってそういう流れを作るぐらいだ。
しかし、今回はその可能性すらない。くそダディの一件もあるので、お爺様は俺の縁談についてはめっちゃ厳しいし、隠し事はしない。俺にその気がまだないという理由で、数多ある縁談をシャットアウトする防壁となってくれている。そんなお爺様が俺に一言もなく縁談の場を作るなんてありえない。そして、お爺様のESPを躱して、彼女の父親がその流れを作るのは不可能だろう。
少なくともお互いの保護者は、俺達をくっつける意図はない。冷静に考えればわかりそうなことである。
「正直ナンセンスだと思います。ですが、ドゥシュからはリンガット卿が話に前向きで、すぐにでも私と会いたい様子だったと言われてました。それで、今なら時間があるから会いたいと彼が言っていたと。」
「実際にそう言われたんですか。」
「いえ、そういうニュアンスでした。」
「心中お察しします。」
テティスは羞恥と怒りで拳をふるわせていた。無理もない。
彼女の怒りも気合の入り過ぎた格好も納得できてしまった。気持ちはどうあれ、生涯の伴侶となるかもしれない相手からの呼び出し、断るにしろ受け入れるにしろ下手な恰好はできない。きっと入念に準備し、気合いを入れてここに来たのだろう。
それがまさか、こうなるとは。
なまじ見た目もいいし有能な彼女だからこそ、予想できなかったのだろう。今更になって空回りしていた自分に気づいたのが悔しい。そしてそれを仕掛けた相手に怒りを覚えている。必死に取り繕っているけど、そんな感情が漏れ出ている。
「面倒ですねー。」
「まったくですわ。」
厄介なのは仕掛け人と思われる人間の手口だ。
先も言ったが、俺がテティスに会いたいと言った言質はない。だが、こうして着飾った要人が訪ねてくれば無碍にはできない。それなりの対応はしていただろう。そうなれば、テティスは俺が彼女に好意を持っているというデマを信じて対応するだろうから、対応が柔らかくなる。少なくともこの対談は無難な形で終わっていたはずだ。
そうなれば、あとはどうにでもなる。お二人はいい雰囲気でしたとか、あの態度なら間違いないです。などと焚きつけて縁談がうまく進めば思惑通り、あとになって自分たちのおかげだと恩着せがましく言えばいい。仮に話がこじれても、傷つくのはテティスはの評価だけ。焚きつけた周囲は、お似合いに見えただの、テティスが張り切っていたので止められなかったと逃げ道がたくさんあるという周到さだ。
「揶揄われたのでは?」
「なっ、くっ。」
事実が把握できても時すでに遅い。テティスとリンガットが対談をした、その事実が相手の利益になってしまったのだ。
「ご迷惑をおかけしました。いや、します。」
「別にいいですよ。こうしてテティス様とお話できたわけですし。」
疲れていたとはいえ、我ながら迂闊な行動だった。相手がテティスと分かった時点で冷静に判断して対談を断れば、俺が巻き込まれることはなかったのに・・・。
唯一の救いは、今後2人の間に今後、恋愛感情が生まれる可能性が皆無になったことだろう。
塩対応なリンガット様でした。




