45 アフタスペース296 子どもにもわかる、揉め具合でした。
新キャラ登場です。
内側から眺めると、改めて、ビックオーシャンは変わった場所だと思う。
まず目につくのは、見渡す限りの水面だ。紺色の水は視界一杯に広がり、各地に設置された照明によってキラキラと輝き揺らめている。それが遠心力と疑似重力によって外壁に生み出されているため、数キロ先にある天井も同じように揺らめている。揺蕩う天井は、落ちてくるんじゃないという不安すら覚える光景だ。それでも、巨大な水のリングの内側にいる感覚は言葉には表しがたい面白さがある。そもそも、宇宙で水と言えば、漏れを防ぐために頑丈な容器で保管されていることが多い。そのため、他のコロニーはプールはおろか、浴槽もほとんどない。大量の水に囲まれるというのは、ここでしか得られない体験だろう。
また、各地に点在する島は金属ではなく岩石で作られている。建物やインフラ関係の設備は最新のものであり、島の上の光景は他のコロニーと対して変わらないが、土台となっている岩盤は小惑星を改造したものが使われており、旧時代の島を思わせる光景がそこには存在した。自然とは植物が豊富なだけではないということだ。むき出しの岸壁とその上に生えている植物や建物はどこぞのリゾート地のようだ。
「観光やリゾート向けに作られているってこともあるんだろうけど、すごいねー。」
「なるほど、それで救助が遅れたんですね。」
「スーザン、思っても、そういうことを口には出さないでね。」
「申し訳ありません。ですが、認識を持っておかないと万が一のときに判断が遅れる可能性があるので。あえて口にして、共有させていただきました。」
そんなことを話し合っている間に事故の処理が終わったらしく。上陸が許可が下りた。
迎賓館も兼ねた発着場ある島は石灰とレンガで作られた港町で、シチリア島のような光景が広がっている。建材の一部は移植当時に地球から運び出されたものらしい。生き物や文化の保全のためと言われているが、他にも持ち出すべきものがあったのではないだろうか。まあ、大量の苗木や土を持ち出したビックツリーにも同じことが言えるので、どっちもどっちだ。やはり、それぞれのコロニーに優劣はない。
「ようこそいらっしゃいました。次代のビックツリー。」
「我々はあなたを歓迎します。」
「これはこれは、領主一家直々の歓迎、感謝いたします。」
小型船を降りた俺たちを出迎えたのは、ビックオーシャンの一族だった。このあたりはゼーレがうちを訪問した時と変わらない。領主、あるいはその関係者が訪問したなら、出迎えに同レベルの人間が来るのはマナーだ。これで、ただの外交職員なんかが来ていたら、それを理由にトンボ返りなんてこともできたのだが。
よりにもよって一番面倒なメンツが来てしまった。
「あらためて、ビックオーシャンの領主の長男、オーベン・ビックオーシャンだ。この度は急な要請にも関わらず、リンガット卿が来てくれたこと感謝する。」
1人目は、長男であるオーベン・ビックオーシャン。言葉どおりオーシャン家の長男で頼りがいのある男だった。黒髪のオールバックで背も高い。筋肉質で黒いスーツが似合っているが、似合い過ぎて圧迫感がある。黒色の中で唯一金色の瞳なのも妙に迫力がある。暗闇で瞳だけ浮かびあがっていそうだ。
「俺はドゥシュ・ビックオーシャン。兄さんともどもよろしく頼むよ。」
二人目は、次男であるドゥシュ・ビックオーシャン。こちらは兄であるオーベンと比べると少し背が低く、全体的に細身でなよなよした男だった。後ろで縛ってある長髪とゆとりを持ったスーツのせいか、なんかチャラい。兄と同じ金色の瞳なのに、こちらはネコのような気だるさを感じる。あえて次男と名乗らなかったり、フレンドリーな口調だったりして、親しみは持てるが信用はできない。ホラー映画とかだと真っ先に逃げ出しそうな感じがする。
まあ、厄介さではどっちもどっちだろう。なにせ挨拶をしながら2人同時に握手を求めてくるという暴挙を、初手でかましてきたんだから。
「これは、これはご丁寧に。リンガット・ビックツリーです。領主であるレイウッド・ビックツリーの名代として、このたびは訪問させていただきました。若輩者ですが、よろしくお願いいたします。」
丁寧な言葉で返しながら、2人の手を取って無邪気に上下させる。こういう場では一人ずつ両手で握手をし、なんならハグぐらいすべきなのだが、そんな面倒な事をする気はない。先に握手したほうに肩入れするという言質を与えることになりかねないからだ。
「ははは、リンガット卿はなかなか気さくな人のようだ。」
「そうだな、まあコロニーの次代を担う同士だ。これくらいフレンドリーな方が助かるよ。」
こちらの返しに若干の不満を感じつつも2人は、にこやかに手を握り返し、すぐに離してくれた。
なんだ、このメンドクサイ状況。
長男であるオーベン・ビックオーシャンと次男であるドゥシュ・ビックオーシャン。次期領主の候補者である2人が揃って出迎えてくれている。これ自体はビックオーシャンがビックツリーを尊重し歓迎していることの証明だ。外交マナーとしては間違っていない。
だが、2人同時に挨拶をしてきた時点で、俺を利用しようとしているの思惑を隠しきれていない。あわよくば、自分の方がうまく外交をできたとアピールする気満々じゃないか。2人の後ろに控えているお付きの人達も何とも言えない顔をしている。
「では、立ち話もあれだが、応接室に軽食を用意してあるから、そこでゆっくりと話そう。」
「いやいや、兄さん。リンガット卿はお疲れなんだよ、まずは客室に案内しないと。」
いや、挨拶もそうそうに揉めるなよ。ここは、俺が希望を出すのを待つターンでしょうに。
リンガット「なんだ、こいつらめんどくせー。」
いよいよ、ビックオーシャンのお偉いさんと対面。できる限りメンドクサイ会話になるように苦心しました。
ヒロイン登場まで入れると長くなるので次回へ持ち越しです。
7月9日(木)追記
次回の内容に納得がいかず書き直しとなりまして、、次回更新は7月10日(金)になります。




