43 アフタスペース296 目的地につく前からトラブルの予感しかなかった。
旅の事情を語りましょう。
期せず発生した宙賊狩りという、イベントに俺個人としては満足だけど、実はこれ、ちょっといただけない状況だったりする。
「まさか、コロニー間の航路に堂々と宙賊がいるとは。」
「しかも、こちらの航路を待ち伏せしてましたね。これって。」
「ライスさん、めったなことは口にしないでくださいね。航路の管理体制の不備が問題なだけですから。」
なんともきな臭いアルさん達の会話には気づかないフリをしながら、僕は艦橋からラウンジまで移動して、乗員たちを労うことにした。被害は0とはいえ、俺というVIPが乗っている状態で戦闘態勢になったのだ、乗員たちも緊張しているだろう。ここは、トップとしてフォローをする必要がある。
「先ほどの対応は素晴らしかった。まさしく水も揺らさぬ対応だったよ。」
「「「ありがとうございます。」」」
拍手と共に乗員たちに言葉を投げると、その場にいた人達からびしっと挨拶を返された。うん、やっぱり固くなってるな。通信で艦全体に挨拶をしているけど、どこも似たような状況だ。なんというかぴりぴりしている。それすなわち、乗員のほとんどが宙賊の存在の意味を正しく理解しているということ。それでいて、空気が読める優秀な人達なので言葉にしないだけだ。
ただ、1人を覗いて。
「なあ、リンガット様。なんでみんなぴりぴりしているんだ。宙賊は追っ払ったし、被害はなかったんだろう。」
「うん、カナデ。君の素直さには救われるよ。」
最年少にしてトップガンな彼は、パイロットとして優秀なだけでなく、周囲の空気の変化感じ取る繊細さも持ち合わせている。ただ、思ったこと黙ってはいられない口の軽さは問題だ。
「でも、時と場所は気をつけようね。今は艦全体に通信中だし、何より僕が話しているときに割り込むのはダメだよ。」
「あっ、そうだった、ごめんなさい。」
「そうだよ、順番や序列を大事にしないと、いざという時に対応が遅れることがある。今回、君が活躍できたのも。」
「わかってるよ。ルートを計算してくれた人やバックアップをしてくれる人がいる。だから俺は目の前の宙賊に集中できた。仕事は一人じゃできない、ですよね?」
「分かっているならいい。」
こうして窘めることも大事だ。ちょっとしたことだけど、俺がカナデの行動をスルーすると他の人間の印象が悪くなる。実力主義な船乗りであっても、そこはちゃんとしないとならない。
「ともあれ、カナデの疑問ももっともだ。よく聞いてくれた。」
「うう、ごめんなさい。また空気読めてなかった。」
「僕は気にしてないよ。疑問を口にすることは悪い事じゃないからね。」
そして、彼の疑問に答えることも忘れない。あえて俺が説明するということがこの場では大事だ。
「まず、今回の遠征はビックオーシャンへの親善訪問が目的なのは分かってるね。」
「おう。だから、ギャラクシーとは逆方向なんだろ。」
「そうだね。」
言葉遣い、と誰かがつぶやいたが、そこはあとで注意しよう。今は説明が先だ。
「詳しい内容や目的は機密扱いだから詳しくは言えないんだけど。ビックオーシャンの領主様が依頼をだして、それにうちが答えた。だからこうしてアーテムで旅をしているわけだ。ここがポイントだ。」
「ふむふむ。」
あえて通信を切り忘れた会話に、周囲は耳を傾ける気配を感じつつ、俺たちは会話をやめない。
「ちなみに、僕が他のコロニーに出かけたと言えば2年目にギャラクシーへ行ったときのことを覚えてるかい?」
「おう、あの時は色々と派手なことになりましたから。宇宙は物騒だと思いましたぜ。」
「そうそう、宇宙は物騒だからね。俺みたいな人間が移動するときは、頼れる護衛を伴うのが基本なんだ。だからこそ乗員さんたちもピリピリしているわけだ。」
「そうか、みんな、真面目なんだな。俺もがんばらないと。」
「おかげで僕は快適だけどね。」
素直なカナデの反応と俺の言葉に、周囲の空気が少し柔らかくなる。子どもの素直な賞賛ってうれしいもんだよね。ゴゲン艦長は、護衛任務のときはいつもより緊張するって笑いながら言ってたっけ?
しかし、ここで終わらないのがカナデである。
「でもさあ、わざわざこっちが、出向く必要があるのか?用があるのはビックオーシャンの方なんだろ、それなら向こうが来るのが筋なんじゃないのか?ほら、前にギャラクシーへ行ったときやそれこそホープのゼーレ様達が来たときみたいに」
「おお、さすがカナデ。いい着眼点だね。」
さすがは原作主人公、フラグを立てるのがうまい。
「用があるほうが出向く、というのがこの宇宙の慣例だよね。」
うんうんと周囲が頷く。実のところ、乗員さんたちがぴりぴりしているのはこれが理由だ。
本来コロニー間の立場は平等である。お互いがお互いの必要なもの足りないものを助け合う。そう言った政治背景から、この世界においては、用事がある方、言い出しっぺが出向くというのが一般的だ。
ジルオールをスカウトした時やスラムを支援をしたときもそうだった。基本的にはオンラインのやり取りで済ませられることはオンラインで済ませ、直接会って交渉するときは、次期領主であっても相手を訪ねる。権力や立場に胡坐をかいて相手を呼び出すというのは、印象が良くない。
なんで、呼び出されたうちが出向かないとならないのか?
そんな不満を抱えていても仕事は仕事、そう思っていたのに、出港早々に宙賊騒ぎである。
以前、ゼーレ達が親善訪問をした際、ビックツリー領軍は航路の安全確保に苦心した。あれはあっちが勝手に来たとも言えるけど、招きいれる以上、その安全のために万難を排す覚悟で準備するのはある種のマナーであり、義務だ。
だというのに、平然と宙賊がいた。これはビックオーシャン側の怠慢、あるいは無礼を疑いたくなるものだ。あまりにピンポイントすぎる場所だったので、情報漏洩や工作の可能性だってある。
もしかして、うちのこと舐めてる?
他ならぬ俺だってそう思うわけだ。事情を知らない乗員さん達が不信感を持つのは仕方ないことだ。
「でもまあ、今回は向こうに事情があるんだよ。詳しくは言えないけど、そうせざるを得ないぐらい追い込まれるみたいだよ。」
「ああ?」
首をかしげるカナデ達の気持ちがすごくよくわかる。俺も話を聞いたときはこんな顔をしてたと思う。
事の始まりのは1週間ほど前のことだ。すっかり見慣れた仕事の山を切り崩していた俺は、お爺様であるレイウッド・ビックツリー様に呼び出された。
「リンガット、お前にまた見合いの話がきている。」
「はいはい、お断りです。」
「そうか。今回は、分家からの紹介であったが、仕方ないな。」
私室に入るなり告げられる言葉をばっさりと断る。何度もしてきたやりとりなので、お爺様も気にした様子はなかった。2年前の宙賊討伐とゲザウザとの提携以来、この手の話は腐るほどあるのだ。クソダディーの一件もあるので、縁談や色恋に関しては、お爺様が色々と気を回してくれているが、顔を合わせるたびに新しい話が来るので対応もおざなりになってしまう。
「ビックオーシャンから、依頼が届いた。」
「そうですか。」
内容も予想の範囲内だった。なにかと忙しい身分となってしまった俺とアポを取るために、企業やほかのコロニーの関係者がお爺様を頼ることはよくある。そうでなくても、お爺様のESP「真贋判定」を個人的に頼っているお偉いさんも結構な数がいるらしく、その人脈から思いがけない情報や依頼が入ってくることも多い。
「先方は現地での直接対応を希望されている。」
「まあ、あそこならそうでしょうねー。適当な人間を選出しますよ。」
ビックオーシャンはうちのお隣さんで、水資源の生産をメインとする自然特化型のコロニーだ。地球の環境を再現している点では、うちと同じだ。
だが、同じと言うと、先方は不機嫌となる。
水は人が生きていくために絶対必要な物資だ。それを生産販売している彼らは、少々というか、かなりプライドが高い。うちが水を作ってやってるから、お前らは商売できてるんだろってスタンスを移住時代から300年近く続けているらしい。
用があるから、こっちこいやぐらいの要求は平気でしてくる。それでも値段を吹っかけたりとか売り渋りなんてことはしない、交渉などの場面で少々態度があれなだけだ。そのあたりはお爺様が何度も話してくれた、お隣との過ごし方にあったことだし、オンラインでのやり取りで体験済みだ。むしろ出迎える方が手間かもしれない。揉めるぐらいなら要求を呑んだ方が楽なんだろう。
それはともかくとして、コロニー間の交渉となれば、それなりの人間を送り込む必要がある。その選出を任せるということだろうか?
「あちらの性格の悪さは今更だ。だが、うちの商売を考えれば仲良くするしかない。阿漕なことをしているわけでもないなら、向こうの願いを聞くべきだ。それはわかるな。」
「もちろんです。ただ珍しいですよね。それなら僕になり外務になりへ直接連絡で済みますよね。なぜお爺様経由で?」
「それだ、そこが問題なんだ。現状、コロニー運営の大半はお前に任せているが、領主はまだ儂じゃ。」
「そ、そうですね。」
嫌な予感がする。お爺様が領主として対応したそれすなわち。
「領主として依頼をされた。つまりこれはコロニー間の公式な外交業務となる。そして、その使者として、先方はリンガット、お前を指名してきた。」
「頭湧いてますね。」
色々すっ飛んだ内容に言葉を飾ることができなかった。
「ビックオーシャンはそこまで愚かなんですか?」
「う、ううむ。話が来たときはワシもそう思った。」
外交や交渉で相手を指名するということはある。文化や風土に理解のある人間や面識のある人間を窓口にすることで、スムーズな交渉や有利な条件を引き出すことができるからだ。買い物をするときに、対応する店員を指名する感覚に近い。
だが、領主一族を指名するとなると話が変わってくる。領主というのは基本的に多忙だ。それこそ分刻みでスケジュールが詰まっている。そこにコロニー間の移動も伴う膨大な時間を割けというのだ。どれだけ無茶な事を言っているかわかるだろう。
例えるならば、交通の不便な離島で通販サイトで利用している客が、メーカーの社長に届けろと要求しているようなものだ。
「なんだってそんなことに。」
思考を放棄して、間抜けに質問しまったのも仕方ないと思う。普段なら、自分でも考えなさいと怒るお爺様も素直に答えてくれた。
「それはな、先方も意見が割れているようなんだが。」
「はあ?」
その後、聞いた話はなんともお粗末な話だった。
「ビックオーシャンは、次期領主を誰にするかで揉めているそうだ。」
「それはなんとなく耳に入ってます。」
ビックオーシャン現領主フィステル・ビックオーシャンには、3人の子供がおり、それぞれが得意分野を生かして、コロニーの運営を支えている。
それは建前で、伝統派で現状維持を掲げる長男と革新派で近代化を進めるべきだと主張する次男の間で権力争いが起きているというのは周知の事実だ。
勝手にやってくれ。
事情を知っている俺や周囲のコロニーたちはそう思っていた。うちもそうだったけど、表向きの取引で損がなければ隣人の家庭事情など興味がないのだ。ましてビックオーシャンは水という商材のおかげで殿様商売。よくも悪くも変わらないのだ。
それをお爺様がわざわざ口にしたということは・・・。
「もしかしてですけど、誰を使者にするか決められなかったってことですか?」
「その通りだ。そこまで分かれば事情は察せるな。」
「フィステルさまって、お爺様よりもお若かったですよね?」
「あれも人の親だからのう。自分では決められなかったようだ。」
領主失格じゃない、それ?
ビックオーシャンがどんな目的でうちと取引をしたいのかは察しがつく。ここ数年でますます好評なミキサーの注文かオーダーメイドだろう。原作でもビックオーシャン専用で運用する水中特化型の機体があった。伝統だ、近代化だと言いながらもあの汎用性と利便性は無視できない魅力がある。
そして、使者というのはコロニーの代表でありそれなりの責任と権威が伴う役目だ。今回は特に大きな案件だ。その使者を務めたなら、今後の権力争いで有利な展開となるだろう。
普通なら現領主はそのあたりを考慮し、政治的なパワーバランスや相手との相性を考えて使者を指名するものだ。
それを決められなかった。これは、よほどの事情があるか、親馬鹿のどちらかだろう。
「決められなかったから、お前が指名されたわけだ。」
「無茶ぶりが過ぎる。」
それがわからない。使者を決められないから相手を呼び出す。これはまだ分かる。だが、慣習や流儀を飛び越えて、俺を指名するのはやりすぎじゃないだろうか?
「リンガット、お前はもう少し自分の価値を知れ。次期領主であり、数々の利権を持っているお前と直接会って、言葉を交わす。その実績はお前が思っている以上に大きい。」
「そんなですか?」
「それこそ、個人的なパイプが作れたなら次期領主が確定するレベルだ。」
「ええー。さすがにそれはないでしょ。というか、長男と次男の両方を使者にすればよかったのでは?」
「うーむ、わしもそう言ったのだがな。」
意外な名案と思ったけど、お爺様の顔は曇っていた。
「次代争いは、それこそ目を覆いたくなるほど醜悪らしい。平等という理由で、2人を使者にした場合、被害が想像できないらしい。」
「なるほど、だからお爺様に直接に依頼が来たと。」
どうやらビックオーシャンの次代様は、相当あれな存在らしい。
ここに至って面倒ごとは避けれない。そう思った俺は、これ以上の対話は諦めた。
「では、お爺様。この度のビックオーシャンの使者の役目、謹んでお受けいたします。」
「うむ、宜しく頼む。」
格式ばったやり取り。お互いの顔は少しも笑っていなかった。
リンガット「面倒ごとの予感しかしない。」
設定や裏事情を書きだすとどうしても長くなってしまう。わかりにくかったらすいません。
次回、ヒロイン登場予定です。
他作品との兼ね合いもあって。
更新予定は7月6日(月)です。




