42 アフタスペース296 かっこいい戦闘ができました。
また少し、時が進みました。
宇宙での戦いに置いて勝敗を分けるのは、索敵とポジショニングだ。特に宇宙船同士の戦いでは、接敵したときのお互いの位置関係で勝負の八割が決まると言われている。
派手で強力なレーザーミサイルなどの兵器や高速移動できる船やロボットがあると言っても宇宙は広大だ。やみくもに飛んで、射撃しても当たるものではない。コロニー周辺やハイパーレーンの真ん中での大規模な艦隊戦でもない限りは、いかにして暗闇の中で先に敵を見つけ出し、有利な位置取りをできるかに指揮官の腕前が問われるのである。
「よし、捉えた。」
その一点に置いて、アル・リヴェルソは天才である。原作では、数多くの強敵の裏をかいて奇跡の勝利を量産し、絶対絶命のピンチでも的確な航路を示して血路を切り開いてきた。最終決戦では無茶な運用でアーテムを沈めていたけど、彼ほど戦える艦長はいないだろう。
そして、その実力は今も発揮されている。勘と経験から誰よりも早くはぐれの宙賊を見つけ出して、迎撃の指示をだす姿は頼もしい限りだ。まだ21歳、若造とも言われる年齢でありながら、その振る舞いは堂々としており、乗員たちも素直に従っている。
「シャープ1、スタンバイ。」
「逃がすなよ、カナデ、カウント。」
『任せろー。』
『Easy。手固い仕事だ。』
そんなアルさんの指示のもと、虚空に向かって向けられるカタパルト、その上には両手にでっかい刃物を持ったミキサー。コクピットに乗っている少年カナデは不敵な顔でレバーを握っている。まだ13歳の子供である彼がトップガンなことに難色を示す人間はいるが、コロニーのトップである俺ことリンガット・ビックツリーも13歳であること。なによりロボットの操縦に関しての才能が彼の立場を作り上げている。
「斜角調整完了、発進どうぞ。」
『カナデ、シャープ1、いくぜー。』
やや前屈みの姿勢でカタパルトで打ち出され飛び出していくミキサーの雄姿に、僕はしばし言葉を失う。そして、一つの疑問が浮かぶ。
「あれ、なんでブラックアウトしないんだろう?」
「俺もギリギリですわ。あいつの三半規管はおかしい。」
「だよねー。安全装置の研究もがんばってもらわないと。」
急加速して射出されるミキサーはすぐに見えなくなり、レーダー上の点となる。その先には4つほどの敵アイコン、宙賊の船があるが、まだこちらには気づいていない。それは仕方ないことだ。宇宙船のレーダーやセンサーは熱や電波を探知することは得意だが、エンジンを吹かしていない船やデブリなどを見極めることは苦手なのだ。特にミキサーは小型船よりもサイズも小さい上に、カナデ達に提供している機体には試験的にステルス塗料が塗られているため、識別信号がなければ味方のレーダーでもその軌道を追えない。
『接敵。』
『はっなんでここに。』
宙賊の2級品のセンサーなら、それこそ接触するまで気づかない。突然コクピットに覆いかぶさる影とと共に襲い掛かる暴力。4船の宙賊たちは悲鳴を上げる暇もなくばらばらに解体された。
「敵影消滅。通常航行に移行します。」
「よし、他の機体もだして、残骸を回収する。周囲の索敵も忘れるなよ。」
カメラ越しに見える凶悪で素敵な光景を前に、俺以外の人達は淡々と次の指示を出している。うん、これはもう慣れてますね。
こうして、不意な遭遇戦は被害0で終わり、俺の旅は続く。
「アーテムにもすっかり慣れたみたいだね。」
「ははは、こいつは最高の船ですぜ。リンガット様。」
ギャラクシーに注文し、色々とあった船「アーテム」。この世界で初となるロボット運用に特化した戦艦は、研究用としてヨハン博士預かりになった上で運用にはアルさんたちに託された。建造や慣熟訓練には1年以上の時間がかかったけど、結果がこの有能さなら元は取れたと思う。
「カナデは無事なの?」
『おう、リンガット様、まだまだいけるぜ。』
「そうか、すごいねー。」
「カナデ君、言葉遣い。」
ちなみに、操舵手のライスさんをはじめ、乗員には領軍からの出向組もいる。最新の戦艦に若き精鋭たちが乗り込んだ結果、アーテムはそれ単体で、宙賊狩りの遊撃船として確固たる地位を得ているわけだ。
画策した俺が言うのもあれだが、ヤバくないこの船?原作の最新ロボットがまだないのに、既に原作終盤並みの戦闘力だ。ロボットが本格的に実戦配備され始めた黎明期だというのに、この船には運用から戦略のノウハウが揃い過ぎている。
「まあ、これなら道中は安全そうだね。」
「任せてください。」
「水も揺らさぬ快適さでお届けします。」
まあ、味方になってくれるならこれほど頼もしいことはない。なにより正規の軍属ではなく、研究所所属の実験艦ということで、使い勝手がいいのが素敵だ。こうして乗艦して旅をするのは初めてだけど、ここ一年で俺だけでなく、各方面から色々と仕事を頼まれたらしい。まだ4年も余裕がありながら、経験値の蓄積は原作以上かもしれない。
発案者であり、パトロンでもある俺との関係も良好だ。少なくともいきなりクーデターされるなんてことはないだろう。
知識の中の強敵が、頼れる味方になった。原作ファンであり、破滅予定のクソボンボンとしてはこれほどありがたいこともないだろう。
6年前、リンガット・ビックツリーと僕が融合、最適化されてから必死になって蒔いてきた種がまた一つ芽吹いた。そのおかげで、俺はまた一つ安心材料を得ることができたわけだ。
もっとも、その所為で余計な不安も生まれているんだけどね・・・。
新章開始ということで、短めになってしまいました。
現実世界でも大型船の建造には1年ぐらいかかるらしいですからね。本章からは、色々あって前章から1年、アフター294年の新年ぐらいからの話になります。




