40 アフタスペース294 勝手に評価が上がっていることを俺はまだ知らない。
再びの別人視点。時間は結構進みます。
(とあるニュースサイトより抜粋)
【最新技術流出か、それとも技術革新か?】
アフタスペース294年年末。とある事件が宇宙を騒がせた。
コロニービックツリーより運搬中だった大量の貨物が宙賊に襲われ強奪されたのだ。それにより既に人気商品となっていたサンブラーに続く新型ロボット「ミキサー」は、ほぼすべてが行方不明となり、公式販売は数か月遅れてしまうことになった。
ビックツリーは、すぐに調査を実施し、襲撃による人的被害はなかったと発表した。また、貨物は既にシップメーカーであるゲザウザに売却してたもので、コロニー側に金銭的な被害はなかったとのことだ。驚くべきことにこれは事実である。
貨物はコロニーの次期領主であるリンガット・ビックツリーが主導して開発されていた今注目の新型のロボット重機ミキサーとそれを運用するためのコンテナだった。当局の調べではこのコンテナには最新のジョイントシステムが搭載されており、襲われた輸送船は貨物を素早くパージして難を逃れたとのことだ。
「貨物の損害はありましたが、人命には変えれませんから。」
リンガット氏はそう発言し、ゲザウザをはじめとした宙賊被害を受けた関係者への補償を宣言した。
(中略)
運搬船が宙賊に襲われること自体は珍しい事ではない。しかし、人的な被害が0で事件が収束した事例は数が少ない。この画期的なシステムが今後の運搬船の安全につながることを祈るばかりである。
(グラーヴマン)
俺は自分が善人だとは思っていない。この地位を手に入れるまでは金儲けのために人様を不幸にするような汚い仕事もしたし、商売敵を蹴落とすために賄賂や工作だってしてきた。きれいごとだけでは世の中は回っていかない。ギャラクシーに生きる人間なら子供だって知っていることだ。
それに世の中には俺なんかとは比べ物にならないくらい悪いやつがいる。
最近だとビックツリーの次代様たちがそうだろう。なにせ、初めて会った俺相手に、宙賊の濡れ衣を着せようとしてきたのだ。それでいて、詰めれないと分かった途端に、素知らぬ顔で頭をさげ、商品を売り込んできた。
どんな思惑があったか知らないが、直前までこちらを恐喝する気満々だったのに、あっさりと手の平を返しやがった。あの面の皮の厚さには感心したもんだ。
その時は子ども特有の無謀さみたいなもんかと思っていたが、あれが演技だってことは数か月もしないうちにわかった。
うちやゲザウザに納品予定だったミキサーが宙賊に襲われたのだ。しかも輸送班は最新鋭のジョイントパーツを使って貨物を捨てて逃げ出したというのだ。
当然のことだが、報せを受け取った俺やゲザウザの関係者の怒りはすさまじかった。宙賊への報復の準備をし、ビックツリーには警備の甘さを抗議した。既に権利はこちら側に移り、運ぶだけだったとはいえ、コロニー周辺の安全管理はビックツリーの管轄だった。まあ、距離的にはギャラクシー寄りだったので、難癖というか、八つ当たりのようなものだ。
『はっ、知るかよ。』
その時のやりとりで、俺は次代様の本性を見た気がした。すでに宙賊の追撃をはじめていた次代様は、通信越しに俺の抗議を聞いた上で、そう吐き捨てた、
『そんなことよりも座標を送るから、適当に掃除してよ。そっちの方が早い。』
自分よりも怒っている人間を見ると、冷静になるもんだと初めて知った。次代様は通信越しでもわかるレベルでブチ切れていた。不覚にも対応が遅れた俺は、そのまま次代様に指定された座標に手勢を送り込み、気づいたときにはドンパチをはじめていた。
「うちに卸される予定の物に手を出されたら動かずにはいられないよな。」
口ではそう言っていたが、次代様の態度と的確すぎる指示に関しては冷や汗を覚えたよ。なんというか、あれだ、道に落ちているゴミを拾うかのように淡々と宙賊の拠点が潰されていったんだ。
結果として報復は満足のいく結果になった。ギャラクシー周辺の主だった宙賊は討伐され、廃品や戦利品はかなりの儲けになった。なにより、明らかに宙賊と分かる拠点を次々と潰すのは爽快感があった。
戦闘のどさくさに紛れてミキサーの大半と貴重なデーターが流出してしまったらしいが、俺たちには損はなかった。終わった後で次代様がニコニコと笑いながら新しいミキサーの提供を約束してくれたからな。実際、新しいミキサーとコンテナはすぐに届けられたよ。あれは予め量産してたな。
『無くなったものはしょうがないよね。まあ、大事にしてよ。』
「ああ、そうさせてもらう。」
再納品の確認のために通信の際に見たあの顔。あれを見たときに俺は確信した。
次代様は、ミキサーを宇宙中にばらまいて宣伝するつもりだったんだってな。
ミキサーのほとんどは消息不明になったと発表されているが、裏の取引では、今回の一件の鹵獲品という商品名で、明らかに新品のミキサーの噂が出回っている。アレの供給元がまだビックツリーだけしかないはずなのにだ。
思えばあの交渉だって怪しい。公開テストが宙賊の襲撃にあったのは、どこかのバカが仕掛けた博打のような嫌がらせが原因だ。ちょっと調べれば、分からずとも予想がつく流れだった。だというのに、あの中途半端な交渉だ。あの時は、世間知らずな子どもの早とちりだと思っていたが、こっちに濡れ衣を着せて、詫びとという名目で、ミキサーをばら撒くつもりだったと考えれば納得がいく。
なんでそんなことをするか?簡単だ。自分の所の商品に自信があるからだ。
実際に使ってみてわかったことだが、アレの汎用性はやばい。操縦に癖があるので慣熟訓練は必要だが、既存の工作機械を加工してパーツとして転用できる上に可動域が広い。おかげで従来の作業機械の何倍も効率よく作業が進む。また制御システムの学習機能も優秀で、使えば使うほどパイロットや現場環境に適応して、動きが効率化していく。
おまけに兵器としても優秀だ。兵器としての運用は考えていないと、次代様は武装の販売をしていないが、そのあたりも工夫次第でどうにでもなる。
するとどうなるか。予想がつく連中はもう対策に動いている。どっちにしろミキサーの需要は伸びていくだろうな。
「怖えな。金儲けのために化物をばらまくか。」
分かっててやっているなら、あの坊ちゃんは、希代の悪人だ。アフタスペース始まって以来で最も野蛮な武器をばらまく武器商人だ。
(ゼーレ)
「これは、してやられたね。」
儲けが大きすぎる戦果報告を目にしたゼーレは、珍しく、その笑みを硬くしていた。
「どういうことでしょうか。期せずしての結果ではありますが、我々は、ビックツリーのため込んでいた二足歩行ロボットのノウハウを入手できました。これだけのデーターがあれば、自国内での生産も可能だと技術部からも。」
「そうだね。だけど。」
分かり切ったことを並べる部下の言葉をゼーレは遮った。優秀で努力家の弟なら、言葉にせずとも彼の不機嫌さに気づけただろう。部下の迂闊さを嘆くべきか、それとも状況の巧みさを賞賛すか。
コロニービックツリーで開発された二足歩行ロボットは、今、この宇宙で最も注目されている技術の一つだ。二足歩行という珍妙さが当初は嘲笑されていたが、その汎用性の高さと拡張性はすぐに周知され、気づけばゼーレですらそう簡単には入手できなくなっていた。
ないなら作ればいい。売れるならうちでもやろう。そう考えるのは当然の流れだ。
商品の模倣と並行し、外交や通商、時にはヘッドハンティングや間諜など様々な手段を用いて、その技術を入手しようした。だが、制御プログラムは複雑すぎて解読はおろか再現することも困難なことがすぐにわかった。研究関連のセキュリティーにも隙がなく、大した情報はつかめずに時間だけが過ぎた。
そして、時間が経過すればするほど、ロボットの有用性が気づかれライバルが増える。そんな状況とゼーレの機嫌に部下たちも焦りだしていた。
そのタイミングで起きたのが宙賊による強奪事件である。
強奪された貨物の本来の出荷先はギャラクシーにある提携企業で、技術や情報に関しても今後10年はそれらで独占される契約であった。
それが宙賊によって盗まれたのだ。ギャラクシー付近に潜伏してたゼーレの手勢は嬉々して宙賊を襲撃し、盗まれた新型ロボットと研究データーの一部を入手した。彼らが関与した証拠は、その後に行われた怒涛の報復攻撃によって消え去ったため、ビックツリーから抗議があっても知らぬ存ぜぬを通せばいい。
運が良かったのか、部下が優秀だったのか、入手したデーターは大量であり、これらをもとに研究すれば数か月で最新型のロボットに負けないものが生産可能と技術部大喜びだった。
部下が嬉々して報告してきたことも当然と言える。
宙賊に襲われたビックツリーには気の毒だが、迂闊な行動をしたほうが悪いのが開発競争というものだ。そう、部下は思っていた。それがゼーレは情けなかった。
「君はジャガイモが世の中に広まった経緯を知っているかね?」
「旧時代の話ですか?」
「そうだ。」
旧時代でジャガイモは毒のある作物として敬遠されていた。それを普及させるために各地の為政者は様々な政策をおこなった。
その中の一つに、わざと盗ませるという政策があったそうだ。
ジャガイモ畑や倉庫を厳重に警備し、大事な物であるように喧伝し、夜間などに警備の穴を作る。それを見た民衆は貴重品に違いないと思ってイモを盗み出した。という話だ。
結果として、ジャガイモはヨーロッパで広がり、麦などに並ぶ食料源となったそうだ。
「今回の一件はそういうことじゃないのかな?」
「まさか、ビックツリーが意図的に情報を流出させたと?なぜ?」
「さあ、どうしてだろうね?」
驚く部下にゼーレは首をかしげてすっとぼけた。少しは自分で考えろと部下を呆れつつ、ゼーレ自身も一連の流れに確信が持てていなかったからだ。
「ま、まさか宣伝することが目的だったと?確かに今回の一件でロボット技術への注目度は更に高まりましたが、模造されてしまえば、ビックツリーそのもの収益は確実に下がりますよ。」
「あとは、今回の一件の品と見せかけて、非合法な流通経路が作られたとも言えるね。」
「な、なるほど。」
宙賊に襲われて失った品というのは商品の横流しでよく使われる建前だ。今回の強奪事件、散逸した新型ロボットの総数は発表されていない。となれば表はともかく、裏の取引は活発になるだろう。
「なるほど、転んでもただでは起きない。侮れませんな。」
「そうだね。」
あの聡明な少年がどれほど絵地図を描いていたかはわからない。だが、少なくとも宙賊に貨物が強奪されてから報復まで流れには、今言ったような意図を感じる。
部下のプライドと名誉のために指摘はしないが、彼らは猟犬として利用されたのだ。
「つくづく優秀だな、彼は。」
「はあ。」
うまいこと自分たちが転がされたことが腹立たしい。いや、優秀な領主がその力量を見せてくれたことが誇らしいのか。
状況を分析していくうちに、深まる笑みの理由はゼーレ自身にもわからなかった。
リンガット「知らない、なにそれ、怖い。」
本人の預かり知らぬところで評価が上がりまくっているリンガット様。
次回は事件に関するリンガット様の視点です。




