33 アフタスペース294 同じ穴の貉であることに気づかせました。
アクションパートになるか?
船乗りと言えば男の仕事。というのは旧時代、海で魚を取っていた時代すら古臭い考えだ。技術の発達とともに筋力や耐久力といった男のアドバンテージはなくなり、むしろ女性的な繊細さの方が貴重とまで言われている。
だが、操舵手やパイロットとなると話が違う。操舵は船の命綱であり、万が一の時は最後まで船に残り、他の人員が退避する時間を命懸けで稼がなければならないからだ。パイロットも同様だ、事故や故障によっては他への被害を避けるために自爆することも覚悟しなければならない。そのため、ゴゲン艦長など管理職には操舵技術が必須となり、そんな役目を女性が担うのが憚られるという理由で女性の総舵手やパイロットは敬遠される。
という事情は俺も知っている。だけど。
「パイロットのくせに、度量も胸も小さい姉ちゃんだな。」
「はっ、見た目チンピラなアナタに言われたくないんですけど、船乗りを名乗るなら身だしなみぐらい気を使ったらどうですか、サイズぐらい合わせなさいよ。」
なんか口論の内容がずれてない君たち?
当初、ライスさんが女性でパイロットなことに嫌味を言ったアルさんだけど、口論がエスカレートしていくと、女性だからというよりは、パイロットでありながら迂闊に自分に文句を言ってきたことに対して文句を言っているような言動が多くなっていた。男女差別ではなく、見た目を指摘する当たりは、さすがは原作のチームリーダーであるアルさんといったところだ。
「一部の心無い者は女性であるというだけで舐めてかかりますが、アル殿はパイロットでありながら艦の名誉を貶めかねなかったライスの迂闊さに苛立っておられるようですな。」
「その反発で、雇い主の名誉が傷つく可能性も考えてくれると更によかったんだけどねー。」
「ははは、そこは若さというやつでしょうな。だからこそお互い譲れないのでしょう。こういうのは正面からぶつかった方がすっきりするものです。」
再び始まった口論に対して、俺とコゲン艦長はスーザンに淹れてもらったお茶を飲みながら、そう分析し、生温かく見守っていた。
「古臭い考えです。一番強い者が殿を務める。それでいいでしょうに。」
「うん、まあスーザンならそう言うよね。でも無茶はやめてね。」
「お心遣い感謝いたします。」
シゴデキなスーザンとのやりとりに、にゴゲン艦長が無言でうんうんとうなづいている。あれだな、穏やかな人っぽいけどなんだかんだゴゲン艦長も軍属だな。問答無用で怒鳴りつけないだけで実力主義っぽい。
「しかし、いささか長くなりそうですな。」
「そうだね。単純に2人の相性が悪いけど。これはもっと別の方法が必要だね。」
気のすむまで口論と思ったけど、思った以上に終わりが見えない。艦長だって俺だって仕事があるのでいつまでも付き合ってはいられない。あと単純に飽きた。まだまだキッズなリンガット様は男女の口論を楽しめるほど精神が成熟してないのだよ。
「これはもう、直接対決させちゃう?」
「いいですな。そうしましょう。」
そして、うっかり口にした思い付きが通ってしまう。次期領主の権限はそれなりに強いのだ。
疑似重力発生装置。この世界において、俺が戸惑った不思議な技術の一つだ。コロニーなどの巨大施設は回転することで発生する遠心力で疑似的な重力を生み出している。一方で戦艦や宇宙船などでは、この不思議な装置によってブロックごとに地上と同じような環境を作り出す。食堂や談話室でお茶をのんびり飲めるのはこれのおかげだったりする。
それを含めた様々な技術の応用によって、ただのシミュレーターでも実際に船に乗っているような加速感や衝撃を体験できる。それはパイロット達の訓練だけでなく、艦内での数少ない娯楽にもなっているらしく、準備はすぐだった。
「ははは、今回も俺の勝ちだ。」
「くっなんだあの意味不明な軌道は、普通ならデブリに当たってクラッシュしてるだろ。」
「ははは、甘ちゃんだな。」
「舐めるなー。」
隕石で埋め尽くされた宇宙空間をスルスルと通り抜けていく赤と青の光の軌跡。識別のために色分けされたそれらは、ぶつかったり離れたり交差したりをしながらまるで印象派の絵画のような軌道を描いていく。目まぐるしく変わる光の絵画はでたらめなようで、そこに様々な計算や意志を感じられるらしく、ギャラリーたちはそれらを指さして口々に意見をだしていた。
「あの軌道、馬鹿じゃないか?」
「クラッシュ云々の前に横Gでブラックアウトするだろ、三半規管が人間じゃねー。」
「ははは、馬鹿だ、馬鹿がいるそ。」
その軌跡を生み出した、2人のパイロットは、嬉々としてシミュレーターで対戦をしていた。口論は相変わらず止まらないが、飽きずに何度も対戦をしている。お互いの腕前が拮抗しているのか、徐々にステージの難易度も上がっていき、観戦しているギャラリーも盛り上がっている。
「お互いに船乗りですし、お互いの実力を知っておいた方が今後のためになるかと。」
ゴゲン艦長の提案もあり、アルさんとライスさんには交流の一環という名目でフライトシミュレーターによる操舵で競ってもらうことにした。お互いの技量が分かれば仲良くなることは難しくても、折り合いはつけられるのではないかということだ。
そういって艦長は仕事に戻り、2人の対決の見届け役は俺とスーザン、メトルに任された。一応、シミュレーターの監理や審判役として、ライスさんの同僚と思われる乗員の人が数人ついている。急に仕事を増やして申し訳ないが、彼らは彼らでどっちが勝つかで盛り上がっていたのでよしとしておこう。なんなら非番の乗員たちがカナデと一緒に野次馬になっている。うん、みんな暇・・・もとい刺激に飢えていたな。
「ねえねえ、実際2人の腕前ってどんな感じなの。」
「そ、そうですね、どちらもかなりのレベルです。あんな性格ですが、ライスはシミュレーターの成績はトップクラスです。アルさんは、経験でそれを手玉に取ってる感じです。」
「じゃあ、アルさんの方がすごいの。」
「いえ、技量としてはライスの方が数段上ですね。ただレースとなると技量だけで決まりませんので。」
近くにいた乗員さんに訪ねると曖昧な答えが返ってきた。
素人である俺から見ても、ライスさんの腕前は確かだった。上級者向けのフライトプログラムを難なくこなし、準備運動も兼ねたタイムアタックでは、高いスコアを次々と出して実力を示した。船を操作するという一点に置いてはかなりのものと数字が証明している。
対してアルさんはフライトプログラムは初見だったらしく、タイムアタックはそこそこだが、ライスさんに及ばない。最初のレースもライスさんに負けていた。しかし、2回ほど直接対決をした後は、アルさんが圧勝している。なんというかライスさんの思い通りに操作させていない上手さがある感じ?
「見た限り、ライスさんの操縦の方がきれいなの、どうして?」
「こればかりは経験の差でしょうな。アル殿の操縦に関しては以前一度見た限りですが、若いのに思い切りがいい。ライスのコース取りは最適ですが、アル殿はそれを読み切って的確に妨害しています。」
「なるほど。」
とか言っている間に、歓声が上がる。どうやらレースが終わったらしい。たしか今回は隕石群を駆け抜けるレースだったか?いくつかあるチェックポイントを通り、先にゴールしたほうが勝ちだというルールらしいけど。
「ははは、今回も俺の勝ちだ。」
「ふざけるな、船体をそんなにボコボコにしておいて何が勝ちだ。機体ダメージがレッドアラートじゃないか。こんなの無効だ。」
「そんなのルールにありません。」
シミュレーターから降りて勝ち誇るアルさんに、ライスさんが食ってかかる。もうこれも何度目?
「ええっと、レースとしてはアル殿が僅差で勝利したんですけど、隕石との接触で機体へのダメージがギリギリでした。となると勝負的にはアル殿の勝ちなのですが、実際の運用となるとほぼ無傷で同様のタイムをだしていたライスの方が優秀ではないかということですね。」
「うん、解説ありがとう。」
乗員さんの補足を聞いて僕は苦笑するしかなかった。
なるほど、勝負としてはアルさんの勝ちだ。だけど実際に宇宙を飛ぶときは、ライスさんの操縦の方が正しいということなんだろう。これは納得できない。
「もう一回、もう一回だ。」
「おう、何度だって負かしてやる。」
「ふざけるな、お前ばっか勝ってるみたいにいうな。」
そして、再びシミュレーターへと入っていく2人。これもう仲良しじゃない?
「二人ともタフですねー。」
「そうなの。」
「はい、今のコースなんて完走するだけでしばらく動けないレベルに疲れるんです。そのレベルの対決をもう何本もやってます。鍛えてどうにかなるレベルじゃないです、正直言ってあれは馬鹿です。」
くれぐれも同類と思わないでください。言外に告げられた乗員さんの言葉に俺はそっとうなづいておいた。カナデも大概だったけど、やっぱり原作メンバーは色々おかしいなー。
「うん、後は好きにさせよう。」
「賛同。それぞれの技量は証明された、これ以上の観察は不毛。」
「馬鹿は馬鹿同士で交流していただきましょう。」
結果はあとでログで確認しよう。そう思って俺たちはそっとその場を離れた。
その後、数時間に渡って2人は対戦を続け、疲労で気絶したところを回収されたらしい。最終的な勝敗についてはお互いの名誉のために語らずおこう。
パイロット同士の諍いは、シミュレーターで決める。これってSFっぽいですよねー。
次回から新たなる舞台コロニーギャラクシー上陸となりますが。プロトの確認のために一日いただきたい。
次回は6月18日12時に更新予定です。




