32 アフタスペース294 またしてもネームドと遭遇しました。
さっそくトラブルの予感
アポロ11号といえば、初めて月面に着陸した船として有名だ。原作ではOP前の語りの部分ででよく引用されていた。おかげで原作ファンはアポロ関係に微妙に詳しくなる。
そんなトリビア的なエピソードの一つとして、乗組員の1人であるマイケル氏の話がある。他2名のパイロットが初の月面着陸をしているとき、彼は上空の司令船から彼らの偉業を見守り、彼自身が月面を踏みしめることはなかった。どんなことにも主役を支える脇役や裏方がいるということだ。
その語りで始まった放送回は、戦艦の中での生活について掘り下げる話で、戦艦の内部構造についての考察の重要な資料となった人気回だった。
そんなことを思いだしたのは、ゴゲン艦長に胡弓の人員たちの勤務体系について教えてもらったからだ。胡弓の乗員は600人、3交代制で運用されている。動かすだけならもっと少なく人員でも可能らしいし、キャパシティーは1000人以上の乗艦が可能らしい。500メートル級のの船の中には、独立した居住ブロックがあり、乗組員たちは、ほぼすべての時間を船内で生活しているそうだ。そこには子供向けの託児所や教育設備などもあり、カップルや家族単位で生活している乗組員もいる。また、こういった船に娯楽や物資を提供する商船もあるらしく、コロニーへ行かなくてもなんだかんだ快適なんだとか。
「船というより、村?、いや集合住宅って感じなんだね。」
「そうですな、そのイメージで間違いないかと。私のような管理職はコロニーにも住居をもっていますが、親戚や知人に貸し出している者がほとんどです。」
「居住権は資産扱いだからねー。」
「そうですな、なんなら妻も子も乗員だったりします。そういった者が多いです。」
この船は彼らにとっては職場であると同時に、家や街そのものなんだろう。母船とはよく言ったものだ。そういえば、原作のアーテムには大浴場が設置してあったなー。この船にもあるんだろうか?
「だからこそ、一部の乗員には、帰属意識と言いますか愛着が強すぎるものがいまして。」
「なるほど、それでこうなっていると。」
長々とした前置きになってしまったが、ギャラクシーを目指して一週間。俺たちの前では、そんな船乗りたちの事情を象徴するようなやり取りがおこなれていた。
「だーかーら、客人は客人らしく部屋で大人しくしていてください。」
「なんでだよ。禁止エリアには出入りでしてないし、ちゃんと許可はとってるからいいじゃねえか。」
「万が一があったら困るんです。しかも今回はリンガット様の護衛も兼ねているんですよ。そのあたりをちゃんと自覚してください。」
「だあ、そんなヘマするかっての。こっちはちゃんと許可をもらってる。」
居住ブロックにある食堂。そこで口論をしているのは一組の男女。男の方は我らがアルさんだった。その特徴的な肌と赤い髪は間違いようがない。さらに制服や作業着ばかりの中で気崩したスーツなので、やたら目立つ。元船乗りな彼は、初めて乗る軍用艦に興味深々で連日あちらこちらを見学して回っていた。初日はカナデ達も一緒に回っていたらしいけど、すぐに飽き、今はサンブラーを積んである貨物室か客室でのんびりしているらしい。
という報告はスーザンからもらっていた。アルさんは筋を通す人なので、俺やゴゲン艦長から許可はとってあるのだが、熱心すぎる行動は身内や一部の乗員たちから煙たがられているとも報告されていた。
「メトル、何があったの?」
「解。調理場を覗こうとしたアルを彼女が止めた。許可のラインとしては微妙なところ。」
「なるほど、確かに調理場はまずいねー。」
しれっと僕たちに合流したメトルに事情を尋ねてみれば、納得の内容だった。閉鎖空間である船内で食料の管理はデリケートな問題だ。万が一にも食中毒が起きたら悲惨なことになるし、生活の基本となる食事を提供する場を荒らされれば、いい気分にはならないだろう。
ただ、そのあたりはアルさんも分かっていると思う。俺だってここで食事をし、調理場をのぞいてごちそう様と声をかけたりもしている。
これは女性の方も少々過剰な反応をしているのかもしれない。
「うん、とりあえず、スーザン。」
「はっ。お任せを」
今にも取っ組み合いになりそうな2人を、スーザンに頼んで止めてもらおう。と指示を出す前に彼女が動きだしていた。
「アル。」
「な、げっ。」
そんな僕の言葉を理解して素早く近づいたスーザンの一撃が、アルさんのみぞおちに入る。いやいや、もうちょっと平和的に止めてくれない?
「な、何しやがる。」
「乗員の方々に迷惑を掛けないようにリンガット様から言われたのを忘れたのですか。」
「い、いや、違うって、俺は普通に食事をしてただけだ。それであんまりに美味かったから、調理法が気になったんだよ。」
「それで、覗きをしたと。」
「してねえよ。どんな材料か質問しようとしただけだ。そこをその女が。」
「とても、そうとは思えない空気でしたが。」
うん、スーザンに任せたのは失敗だった。問答無用感がひどい。やはり僕がでるしかないか。喧嘩の仲裁なんてしたくないんだけど・・・。
「はいはい、3人とも、そのくらいにしてね。」
「「「リンガット様。」」」
「状況はなんとなく把握できたけど、食事をしている人もいるんだから、話し合いは、場所を変えてからにしようか。」
「そうですな、談話室を一つ確保しましたので、そちらにご案内しましょう。」
「「ゴゲン艦長」」
口論に夢中になっていたのか、艦長や俺のことが見えていなかった2人の反応はそっくりで、俺と艦長は苦笑するしかなかった。
「で、話を聞く限りはどちらの言い分も理解できますが、どうですかなリンガット様。」
「そうだね、周囲を騒がせたことは悪いけど、どっちもどっちじゃない?」
談話室に移動し、それぞれから事情を聴いた俺と艦長は予想通りの事情にどんな判断をするか困った。
アルさんの熱心さが少々メンドクサイのは事実だ。一方で説明されたルールは守っているし、ちゃんと許可を取ろうとしていた。そうなると女性側が性急かつ言い過ぎだったことも言える
「客人は客人らしく部屋で大人しくしていてください。と言われると、僕らは困ってしまうなー。」
「も、申し訳ございません。つい感情的になってしまいまして。」
「うんうん、気持ちは分かるよ。アルさんのテンション、ちょっとうざかったし。」
「リンガット様ー。いや、まあすいません。こんな立派な船は初めてだったもので、興奮していたようです。すみませんでした。」
「まあ、立派な船だからね、はしゃぎたくなるのは分かるよ。」
「そう言っていただけると誇らしいですな。」
正直でよろしい。まあ話せばわかる人だからね、アルさんは。女性側はどうだろうか。
「リンガット様だけでなく、アル殿たちも客人だ。その乗船を許可したのは私だ。それに対してその物言いは少々、いやかなり問題だ。それは分かっているな。ライス。」
「はっはい。わかっています。失言であったと反省しております。アルさんも申し訳ありません。」
彼女の方はコゲン艦長の言っていた帰属意識とやらによる行動だったのだろう。自分の庭を荒らされたと思えばいい気持ちはしないだろう。しかし、アルさんの行動は艦長や俺が許可をだしている。それなのに、ただの乗員でしかない彼女が、部屋から出るな的な発言をするのは、命令違反や逸脱行動と言われ、処罰されても文句が言えない失言だ。俺や艦長にそれを聞かれてしまったのもまずい。
「素直に反省し、謝ってくれたからこれで手打ちかな?」
「寛大な処置、感謝いたします。」
「いや、僕らも悪いし、今後の行動はまた一度話し合おう。」
上役である俺たちの言葉に2人はほっとした様子で息をはいた。まあ、そんなことよりもだ。
「ええっと、ライスさん?」
「あっ、すみません。私ったら名乗りもしないで。ライス・トゥンクと言います。リンガット様、そしてお連れの方々、本艦、胡弓への御乗船、心より歓迎いたします。」
「う、うん、ありがとう。そして、よろしく。」
名乗っていなかったことを思い出し慌てて船乗りの挨拶をするライスさん。その姿は堂に入ったものなのだが、先ほどまでの様子を知っているとどこか間が抜けている。俺は色んな意味で笑いをこらえるのに苦労した。いやほんと、ほほの筋肉を鍛えることに事欠かない日々だよ。
まさか、こんなタイミングで出会えるなんて。
「ライスは艦載機のパイロットでしたな。若いですが、なかなか筋がいいんですよ。」
「そうなんだ。」
「恐縮です。」
600人もいる乗組員を把握しているゴゲン艦長は素晴らしい。だが、彼女が優秀なのも事実だ。
ライス・トゥンク。彼女は原作メンバーの1人だ。物語開始のテロ事件の際、どさくさに紛れて戦艦やフォルテシリーズを持ち出そうとする主人公たちに、民間人の救助を理由に協力し、なんやかんやあって仲間になった1人だ。数々の戦線を生き残った凄腕のパイロットであり操舵手であり、その容姿から人気も高いキャラクターだった。女性という理由で冷遇されていた経験から、軍やコロニーに対する忠義は低かったけど、民間人を守るという使命感やパイロットとしてのプライドは高い真面目な軍人さんだった。
きっちりと制服を着こなしている姿が、原作の登場時とはかなり印象が違ったので、名乗られるまで気づかなかった。
「はあ、女の船乗りか。どうりで。」
「あっなんですか、今の発言。」
そして、真面目な軍人なライスと豪快なアルさんは、致命的に相性が悪い。何かあればすぐ口論になっていた。
まさか、こんなところで原作再現を見れるとは、喜ぶべきか悩むべきか。
コロニーでの居住権はタワーマンションに部屋を持っているようなステータス。船乗りはこの世界ではかなりのエリート職です。
設定話が長くなってしまったので、分割します。
説明パート アクションパートみたいにできたらいいんですけど、加減が難しい。
参考程度に
木馬は最大500人で、劇中は250人。人員が足りずに民間人が
実物の戦艦大和の乗員が3000人。
宇宙戦艦ヤマトの人員は999人で3交代だったとか。




