31 アフタスペース294 呉越同舟、いや、ただのごった煮です。
楽しい宇宙旅行のはじまりです。
人類は宇宙に進出して無限のフロンティアを得た。歴史的にはそう言われているけど、実際はそうではない。外宇宙を調査している一部の人間を除いて、13あるコロニーは月軌道をもとに創られたハイパーレーン内に存在し、人類の生存圏は半径70万キロメートル、全周約230万キロメートルのエリアに限られているともいえる。
それでも、見上げた星空が遠いのは旧時代や前世と変わらない。
「宇宙ってのは果てしなく広いねー。」
「ははは、我々も日々そう思っています。人類の英知の結晶と言われるこの船ですら、あまりに小さいですからな。」
「でも腕は一流なんでしょ。」
「勿論です、プロですから。他のどんな舟よりも安全で平和な旅をお約束いたします。」
ブリッジに投影されるホログラムを見て、つい目を輝かせてしまった僕に対して、艦長はゴキゲンな様子でうなづき、ブリッジクルーたちも親し気な視線を送ってきた。なんだかんだいい関係を築けてる実感がわくけど、子ども扱いなのはちょっと恥ずかしい。けれども、ここはそういう大人の場所だ。
500メートル級の戦闘艦「胡弓」。ビックツリーが所有する最大クラスの船を使って、本日は隣のコロニーまでお出かけ中のリンガット様です。戦艦の車窓から、ごきげんよう。
ことの始まりは、ヨハン博士との研究談義だ。
「素晴らしい着想ですな、メンテナンス用のブロックそのものを切り替えることで、運用効率の向上を図る。生産段階でコンテナと紐づけることでコストも抑えられますな。」
「でしょ、既存の舟の改修に向けてのデーター収集も可能だし、パッケージ化することでセールスもしやすくなる。規格化を目指しつつ、改造もしやすい。」
「たしかにコンテナ部分の改造だけなら開発が容易ですな。」
アーテムの構想は、ヨハン博士たち研究所の職員には大うけだった。既存の格納ブロックを改造する構想はコスパと拡張性に優れているのがつぼだったらしい。さらに、コンテナ部分を他のパーツに交換することで様々な戦局に対応できる多様性を発揮できることがお気に召したようだ。なんだかんだロボットだけじゃなく、ギミック系も大好きな人たちなのだ。
だが、彼らの専門はロボットだ。修理や改造はできても造船となると勝手が違ってくる。
「これだけの規模となると、「ノア」が運営しているショップに依頼すべきでしょうな。今後のことを考えるとどこかの企業との提携も視野にいれるべきかと。」
「残念なことに、そんな高級施設はないよ。」
造船といえば、コロニー「ノア」だ。コロニーの建材や大型船の造船を目的に作られたこのコロニーには、いくつもの企業が存在し、各地にショップを置いている。前世で言うところのディーラーのようなものと思ってくればいい。情報や流通技術が発達していこの世界でも、不動産や舟といった高い買い物をは、未だに直接交渉する必要がある。
しかも、俺達が作ろうとしているのは、過去に例を見ないタイプだ。オンライン注文やDIYで済ませるわけには行かない。予算の関係、何より設計の構想を正しく説明できる人材を派遣する必要がある。
「となると、ギャラクシーへ行くしかないかなー。」
「そうですな。よろしく頼みますぞ。」
「そうなるよねー。」
まあ、当然のように僕が行くしかなくないという話で落ち着いた。
そこからは大変だった。公務という扱いにして、視察から戻ってきたお爺様に相談、執務の大半を押し付け、胡弓とその人員を借り出して、人生初の宇宙旅行へ飛び出したというわけだ。子どもであってもリンガット様は次期領主、それっぽい理由をでっちあげて艦隊を動かすことなんてこともできるのだ。
けっして、趣味ではない。ビックツリーの新たな産業となりつつある、ロボット開発のために領主として交渉へ行くのだ。本気で趣味に走るなら、「ノア」に移住している。
「我々としては、コロニー間の移動の機会を頂いて助かっております。」
「一応公務だからね。それにギャラクシーは物騒だからね。頼りになる護衛が欲しかったんだ。」
「ははは、今回の護衛任務は、他の艦長たちと取り合いになりましたからね、みな張り切っております。」
まあ、初めての宇宙旅行にウキウキしているのは、目の前のゴゲン艦長にはお見通しのようなので、隠すのは諦めよう。それに、はしゃいでいるのは俺だけじゃない。
「さすがは、軍用艦だな。速度からして民間船とは違う。」
「否定。この加速はレーンの公転周期による相対的な速度であり、船の性能は誤差の範囲。」
「それも含めて、速度なんだよ。ただの数値じゃないっての。」
「やっぱり舟はデカい方がいいのう。ちょいとエンジンを見せてくれればさらにうれしいんじゃが。」
「すげえ、サンブラーなら外へ出ても平気なんだよな、ちょっといってきたらだめか。」
「NO。仕事中だぞカエデ。」
今回はこちらの要望を正確に伝えるために、アルさんとカエデのトップガン2人にアドバイザーとしてノホ爺やクォータさんの2人も同行してもらっている。あと愉快な電子精霊さんたちもミニロボを使ってしれっと参加している。カウントはともかく、メトルが当然のように会話に加わっても彼らは気にした様子がなく楽しそうに話している。
「なあなあ、リンガット様。サンブラーで散歩してきたらだめ?」
「ダメだよ。まだ、大人しくしててねー。」
「カエデ、そんなもったいないことするな、軍用艦に乗れるなんて貴重な機会をもらったんだから船乗りとして勉強しろ。」
「肯定。カエデはもっと機械や舟について勉強すべき。」
「YES。感覚で操作するのはサンブラーがかわいそうだ。」
「ええ、やだよ。めんどくさい。」
「がはは、宇宙用のブースターのテストがあるんだから慌てるな。」
てか、うるさいな君たち。ここは軍用艦で、今は、公務中なんだけど・・・。静かに控えているクォータさんやスーザンを見習ってくれない?まあ、おかげで公務なんて堅苦しい空気にならなくて助かってるけど。そろそろ怒られるぞ。
「ははは、みなさん元気があってよろしいですな。」
「ごめんね、腕はいいんだけどね。」
「民間人に礼を求めるのは違います。あれでお願いした約束は守ってくださっていますし、我々に対する敬意はあるようです。」
「うん、ありがとう。落ち着いたら、後で言い聞かせておくから。」
艦長の懐の深さに感謝だね。このゴゲン艦長は、優秀なのに子どもの僕の提案を聞いてくれる器の大きい人だ。スーペスアントを捕獲したときも他の艦長が半信半疑な反応を見せる中、安全性やコストといった実用的な質問だけで、真っ先に了解してくれた。今回だって、スラム出身者を同行させることも、理由を説明したら、二つ返事で許可をだし、ブリッジにまであげてくれた。
「同じ船乗りとして学ぶこともあると思いますからな。」
「ゴゲン艦長は話がわかるな。あんたが船長なら、問題は起こさないと約束する。」
「そこは、艦長と言っていただきたい。」
てな感じで、アルさんともすぐに仲良くなっていたよ。
流石は原作で真っ先にリンガット様を裏切って離脱しただけのことはある。身分とか立場ではなく相手を評価する人間力は原作通り高いらしい。
今更だけど、原作リンガットの敵ばかりだな。まあ、中途退場のリンガットには、ネームドの味方何て居なかったな。
まったくもって頼もしい限りだ。
なんだかんだ、趣味に走るリンガット様です。
なお、物語の都合上、言語は統一されていますが、文化が違い過ぎるので、コロニー間の旅行は、海外旅行扱いになっています。




