30 アフタスペース294 それでも趣味はやめられない。
新章改めて、ここからがクソボンボンのデバフに苦しめられます。
少年老いやすく学なり難し。男子三日合わざれば刮目せよ。そんな言葉があるけれど、子どもの成長はともかく早いものだ。それが、子どもであることを自覚した元大人ともなると体感時間は更に加速するらしい。ゼーレたちの訪問と次期領主襲撃という一大事件から、瞬く間に月日が経ち、気づけば俺は11歳となっていた。前世の日本なら、中学生、電車も大人料金になるが、法律はぎりぎり適応されないし、映画とかはまだ学割が有効なまだまだお子様なお年頃。ロボット遊びが好きなクソガキ、リンガット様です。
「もうやだー、お外行きたい―」
「そんなことを言いながら手は止まらないのがリンガット様のいいところです。あっ、次はこれにサインをお願いします。」
「ジルオールのおにーー。」
だというのに、最近の僕は仕事に忙殺されている。執務室は整っているのに、端末にはひっきりなしに決裁待ちの報告が届けられ、オンライン会議が連日開催されて外出もままならない。
「リンガット様、こちらの書類の確認をお願いします。」
「あと、10分でオンライン会議が始まります。準備の方をお願いします。」
「だあああ、なんでさあ。」
人手は増やした。ジルオールとスーザンの他にも何人もの職員が出入りし、次々と案件を持ち込んでくれる。おかげ執務室にいるだけで仕事ができるので、タイパもコスパもいい。だというのに、片付けても片付けても仕事が終わらない。
「むしろ増えてるよね、これ。」
「仕方ないじゃないですか、領主様は現在視察のためにビックオーシャンへ行かれているのでご不在なんですから。」
「あのくそじじい。視察と見せかけて遊びに行っったな。」
こうなったのは、お爺様が本格的に引退を決意したからだ。先日の親善訪問を無難にやり終えたこととその後の大掃除の成果を見たお爺様は、若いながらも僕が領主としてやっていけると判断し、老害が足を引っ張ってはいけないと、仕事をどんどん任せてくれるようになった。
リンガットとしては、頼られて嬉しい。だから期待に応えるために色々頑張った、頑張った結果がこの状況である。
「ギャラクシーからの追加注文に、フリードからの観光客受け入れのための滞在施設のリフォームへ提案・・・またか。」
「どうやらゼーレ様達が手広く宣伝してくださっているようです。そこに生まれた利権を奪い合って会議が増えてますけど。」
「くそが、勝手にやってくれよ。」
「それをしたら、転売と収賄が横行して信用が失墜しますよ。手綱はこちらが握っておかないと」
「ですよねー。ああ、この物量でスルーさせる気満々の提案がうぜー。」
本来領主の仕事はここまで忙しくない。忙しいのには二つの理由がある。
一つは、ゼーレやホープ関係者の親善訪問によって発生した特需だ。ゼーレやホワイトランスの関係者が絶賛したことで、木工製品や生鮮食品の売り上げが倍層、さらには例の展望台などを訪れる観光客が急増した。収益の増加はありがたいが、輸出入に関しては管理に気をつけないと品不足になるし、観光客が増えたことで細々したトラブルが増えた。日本でいうところのインバウンドの反動ってやつだ。よく知らんけど人や物の出入りが増えればトラブルも増えるということなんだろう。増えた利権を奪い合う馬鹿が多いのも地味に困る。
もう一つは、急成長している俺ことリンガットへの嫉妬と妬みをもつ人達の妨害だ。未だにクソダディーの心棒者は残っているし、人の出入りが増えたせいでスラムにも変な人が増えた。前者の中には、重要なポストについている人間もいるので非常に厄介だ。俺が気に入らないなら、いっそ仕事を丸投げしたいけど、クソダディーが帰ってくるまでは現状維持でいいとか考えている老害なので、任せたら、コロニーの進化が止まってしまう。
あとは、若い世代の中には、ゼーレのキラキラをみて、ホープに憧れた原作リンガットみたいなムーブをする連中もいる。そいつらがビックツリーの強みやスラムを古臭いと判断して性急な行動を起こそうとするからその辺の調整も必要になってくる。現状への不満と揚げ足取りばかりで、夢見がちなプランしかないお花畑たちに任せたら、破滅待ったなしだ。
ここ数か月はそれらの対処で大忙しだった。もうね、叩いても叩いても次々と嫌がらせが起こるんだよ、もぐら叩きかよってレベルで問題が起こった。
もういっそすべて投げ出して、引きこもるなり、ロボット研究に没頭したいところだけど、そうもいかない。それをしてしまったら最後、リンガットは原作どおりのクソボンボンという扱いを受けるだろう。いや、実権がないただのボンボンとなって、原作よりも悲惨な末路を辿るかもしれない。
この絶妙にメンドクサイ状況。仕掛けている黒幕がいたとしたら、間違いなく奴だ。
「これもゼーレのシナリオ通りか。」
「どうしました?」
「なんでもないよ、会議の前にジュースが呑みたいって思っただけ。」
「ふふ、すぐに準備いたします。」
ゼーレやホープによる謀略と未来の戦争。この懸念を誰かに相談することはまだできない。色々と探っているけれどゼーレやホープが他のコロニーの侵略を計画している証拠も兆候もつかめていない。この状況で俺がその可能性を口にしたとして、不穏分子として排斥されるのはこちらである。
まったくもって見事過ぎる。これだけ嫌がらせをされている俺ですら、ゼーレを疑いきれていないのだから。恐らく、向こうがことを起こすその瞬間まで、彼はその正体を隠し続けるのだろう。やばいわーラスボス。原作の知識というズルをしても、あのキラキラ腹グロ男に勝てる気がしない。
それでも足掻くことをやめてしまえば、待っているのは破滅の未来だ。理不尽極まりないけど、だからこそ俺ことリンガットは仕事に走り、趣味に走るのだ。
「というわけで、今回も全力で趣味に走ることにしました。」
「はあ、お疲れ様です。」
「いやいや、実用性はちゃんとあるよ。とりあえず資料を見てよ博士。」
忙しい時間を縫って久しぶりに訪れた研究所。俺はヨハン博士に、ロボット開発の次のステップについて相談しにきた。どんなに忙しくても、ロボット開発に関わることだけはやめない。睡眠時間を削ってでも企画を投げるし、予算だって確保するぞ。
「ほう、これはサンブラー専用の輸送艦ですかな。」
「そうそう、既存の船に専用のコンテナを後付けする計画と並行して、専用の船も作りたいんだ。」
「なるほど、それでこのような形状なのですな。なかなか奇抜ですのう。」
資料を見ているヨハン博士がどこか呆れた様子なのは、持ち込まれた船のイメージ図が独特だったからだろう。
居住スペースと艦橋部分はデザインは既存の戦闘艦のものを流用。そこを中心に輸送用のコンテナが4つに分けて接続されている。上から見るとまるでモグラ、あるいは積み木を積んで作った車のように見える。奇抜、確かに、形状は、従来の宇宙船とは明らかに異質なデザインだった。
「従来の空母みたく、側面に発着スペースを確保することも考えたんだけど、それだと、中央に空洞を作ることになるから、強度に不安がでる、なにより大きくなりすぎる。縦に広いスペースを確保するにはこの形状が一番だと思うんだ。」
「なるほど、しかし、それでもずいぶんとサイズが大きいですね。コンテナユニットを含めるとビックツリーの艦船の倍近いですぞ。」
「後付けの計画だってそうじゃない。これは運搬に特化させた輸送船で、大きさはそのまま宣伝になる。これは受けると思うよ。」
「ははは、相変わらず、スゴイ熱意と自信ですな。」
おかげ様でサンブラーの売れ行きは順調だ。先日の重機相手の大立ち回りが、期せずして宣伝となったのか、各コロニーから問い合わせがあり、結構な数が売れている。今までの作業機械とは操作感が異なるので操作こそ難しいけれど、その汎用性によるコストパフォーマンス高さは、日々拡大していくコロニーの作業従事者たちに高く評価された。
それこそ、ビックツリーだけでは生産が間に合わず、他企業に外注して現地生産をしてもらうことでなんとか需要に応えている。結果として模造品や海賊版の数も増えてしまったが、ロボット技術の進歩を願う俺やヨハン博士からすると願ったりかなったりな状況である。ロボットこそ模倣できているけど、制御のためのOSプログラムはビックツリー産のものであり、ライセンス料だけでもウハウハだ。
それに、サンブラーからはじまったビックツリー産の派生ロボットたちは、最新鋭であり優秀だ。スペースアントの巣から手に入れる潤沢な鉱物資源とロボット工学の第一人者であるヨハン博士の精密な設計は真似しようと思って真似できるものではない。模造品の多くがサンブラをリバースエンジニアリングしたものか、既存品の改造でしかなく、革新的なブレイクスルーを生み出すリソースはうちにある。なんなら、原作の歴史よりもかなり早く進歩している。「フォルテシリーズ」や「デイープベース」の開発計画も立ち上がっている。
そこに俺の原作知識が加わるのだから開発競争でうちが負けるわけがない。原作のロボットや主要な船には詳細な設定が書かれた資料集などもあった。熱心なファンだった俺は、そこに書かれていた細かい数字も覚えている。空想の産物なので形にするには調整が必要だけど、完成系を知っているというアドバンテージは大きい。
今回の輸送船のデザインもその知識をもとにしたものだ。
いや、はっきり言おう。
今回、俺は原作で主人公たちが母艦として運用していた戦艦を作ろうとしているのだ。
機動兵器運用特化型戦艦の試作機「アーテム」6年後に俺を破滅に追いやり、クーデター軍の旗頭となって、最後にはホープを打倒する希望の船。
それを今なら作れると俺は確信していた。
ゼーレがビックツリーをほめる。→他のコロニーからの観光客が増えて、その対応で忙しなる。
ゼーレがビックツリーの商品を大量購入→利権関係で内輪揉めが増えて忙しくなる。
ゼーレがリンガットをほめる →懐古主義者が嫉妬して、治世を妨害されて忙しくなる。
ゼーレがキラキラしている。→若者が都会に憧れて、ビックツリーの伝統に批判的になる。
ゼーレが手を差し伸べる。→手をとったら、若さと未熟さを理由に更迭されかねないので頼れない。
ほぼ何もしていないのに、リンガットが忙しくなるデバフをしかける敵の黒幕。相手は善意でやっているようにしか見えないので、文句も言えないという完ぺきなムーブにリンガット様の苦労は加速していく。。




