28 アフタスペース293 どうせなら趣味を生かしたい。
ロボットものらしい、アクションタイム。
避難したシェルターは小型ながら頑丈で快適で安全という三拍子が揃っている。外装こそコンテナに偽装されているが、中には通信設備やトイレもある。もともとはコロニーや宇宙船で事故が起きたときにも対応しているため、小型の発電機と循環システムなどの生命維持装置が組み込まれており、事前に物資を積み込んでおけば、宇宙空間でも過ごせる優れものだ。
「いやー災難だったねー。」
ソファーに身体を預けながら、アニモに話しかけると、驚いたように視線をキョロキョロさせていた。爆破からのカーアクション、そして人間ロケットな脱出体験をしたら、こんな快適空間にたどり着いた。そんなびっくりな体験に理解が追い付いていないようだ。
「リンガット、これは?」
「非常用のシェルター。自然循環型コロニーは、構造的な問題で不慮の事故への対処が遅れることがあるから、こういったシェルターが各地に設置してあるんだ。」
だから、同じ質問に対して今度はもっと丁寧に答えて、ついでに説明してあげた。
機械化したコロニーならば、火災や爆発などの事故があったときは、そのブロックや設備を物理的に封鎖したり、隔離したりすればいい。だが、ビックツリーではそう言ったことが難しい。万が一にも空気や土に悪影響があったら林業に支障がでるかもしれないから、広範囲を封鎖して対応しなければならない。
そのため、事故の対処や修理が終わるまでの間、逃げ遅れた人間が避難するためのシェルターが各地には設置してあり、これはその中の一つだ。
「今回は、念のためそこに逃げこんだってわけ。あとは救助隊が来るまでのんびりまっているといいよ。1時間もかからないんじゃないかな?」
そういって端末の予備を渡してあげると、アニモは、端末に表示されたシェルターのスペックや機能などを読み始めた。まだ納得も安心もしていないようだけど、ここで、僕を質問攻めにして邪魔をしてはいけないとでも思ったのだろう。目先の情報で気を逸らすことにしたようだ。
とりあえず、ビックツリーによる拉致なんて誤解はされなさそうで、一安心だよ。ここで質問攻めにあうことも覚悟はしてたけど、おかげで別の作業に集中できる。
「うーん、これは。」
「ど、どうした。」
端末に表示された外部カメラの映像とセンサーの数値。それらを見て時間を潰そうと思っていたが、そうもいかないらしい。
「ちょっと面倒な事になりそう。」
警告音と共にマップに表示される無数の赤い点。これは移動ユニットや作業用の機械が誤作動を起こすと反応するものだ。基本的に、移動ユニットや作業機械はコロニーのシステムで監視され、その管理下に置かれている。事故や故障でなどで管理から外れることもあれば、未登録の私物などの例外はあるが、この数は異常だ。
「なるほど、こう来たか。」
センサーから入る情報を解析すると、それらは作業用重機だった、ブルドーザーやクレーン車ののように旧時代から変わらない形状のものがあれば、チェンソーやドリルなどの特殊装備がタコ足のようについたものなど形状は様々だ。そんな重機たちがこちらを包囲するように陣形を作っている。何者かの意志によって動かされているのはほぼ確実だ。
「遠隔操作、それとも自動運転?どっちにしろうまい手だな。」
相手の手際の良さに感心してしまう。
作業ポッド同様、これらの重機もコロニーならありふれたものだ。それらを使って、襲撃を企てるという発想も理解できる。痕跡さえ消してしまえば、証拠が残らない良い方法だと思う。
だけど、なぜ、ここがわかったんだろう?
シェルターへ逃げ込んだことを知っているスーザンだけだし、そこから更に移動したので、正確な場所を知っているのは僕だけのはずだ。
身内の裏切り、情報のリーク? 避難の瞬間を見られていた? どの可能性も0ではない。
分かっていることは、端末に表示された未確認のアイコンが、僕たちの場所へと迷いなく近づいていること。そして、間違っても救助隊ではないということだろう。
それが理解できているのか、一緒に端末を覗き込んで説明を聞いていた、アニモの顔色は真っ青になっていた。
「ど、どういうことだ。それにさっきの爆発は・・・。」
そこまで言いかけて、アニモは黙った。そうだよね、君を狙った襲撃に僕が巻き込まれた可能性だってあるんだ。おいそれと聞けないよね。もうしわけないが、フォローは後でさせてもらおう。
「大丈夫、このコロニーの中でなら、僕は負けないから。」
安心させるために、そう言って笑っておく。もちろんポーカーフェイスな強がりです。ぶっちゃけ足がガタガタ震えそうなのを必死にこらえています。
でも、リンガットになると決めたときに、こういう事態は覚悟していた。恐怖で止まってなどいられない。そう覚悟を決めれば、指も頭も動くというものだ。
近づく重機たち。ここまでくれば、偶然や故障ではないことは明らかで、ドリルやチェンソーは唸りを上げて起動し、僕たちのいるコンテナをこじ開けようと動いていた。残念なことに、このシェルターに武装はない。頑丈さと快適さを追求したら、そんなキャパシティーが残らなかった。
正直な話、今回は相手が上手だった。スーザンが囮になってくれた時点で僕は、もう助かったと油断してしまった。ちょっとした事故が足場の崩壊につながりかねないコロニーにおいて、こういった荒事を起こす人間はいない。そう言う思い込みの盲点を突かれた形だ。そもそもとして、このシェルターが見つかる可能性は低いと高を括っていた。
アニモというゲストもいたんだから、もう少し考えるべきだった。この反省は次に生かそう。
「ひ、ひえ。」
「大丈夫、大丈夫、たぶん。」
でも、こう言う緊急事態も想定しているんだよね。そして、なんともタイミングよく助けは訪れた。
ドゴーン。
地を揺らす轟音と共に踏みつぶされる重機。まるでプレス機に押しつぶされたかのようにひしゃげた重機から煙が上がりカメラが砂嵐に代わる。数秒で、それが晴れたとき、潰した重機の上で仁王立ちする、我らがサンブラーの姿があった。
不謹慎だが、めっちゃかっこいい。脳内では原作の処刑用BGMが流れだす。
「助かったよ、カウント。」
『YES、友を助けるのは当然だ。』
『ええっ、リンガット様がいたのはそこだったのか、あぶねえ、踏みつぶすとこだった。』
「ええっ…。」
『いやいや、冗談、冗談ですよ。』
さらっと怖いことを言っているが、振動がこちらまで伝わってきているので冗談には聞こえない。よくも悪くもまっすぐな子だからな、主人公。
こんなこともあろうかと、メトルとカウントを通じて、カエデたちにお迎えをお願いしていたのだ。電子精霊のネットワークは通常のセンサーでは探知されない。だからこちらの居場所を探知されることなく、連絡を取れる。この手札はまだ見せたくなかったが、安全には変えられない。
連絡はすぐとれ、騎兵隊はギリギリ間に合った。
「カエデ、よく来てくれた。どうも重機が暴走しているっぽいから、全部ぶっ壊しちゃって。」
『おう、任された。』
無人なのは確認ずみなのでためらいなく廃棄をお願いする。カエデもノリノリで重機たちを破壊しはじめる。子どもとはいえ、スラムの子、荒事には慣れているし思い切りがいい。
『おらー。』
振り下ろされたアームの一撃がかろうじて原型を留めていた重機を真っ二つへし折る。アーム部分はデブリや隕石の破壊も想定しているから頑丈に作ってあるので、単純な鈍器としても強い。
『Warning よけろ。』
「わかってるって。」
突然の乱入者にしばし、フリーズしていた重機たちだったが、すぐにサンブラーを敵と認識し、ドリルやチェンソー付きのアームが襲い掛かる。だが、そのもっさりとした攻撃が届く前に、カエデが駆るサンブラーはその場から跳躍して他の重機に着地し、そのまま踏みつぶした。位置取りは包囲の外れ、重機たちの背後をとったことになる。こういった動きや戦い方はマニュアルにはない。あくまでカエデのセンスによるものだ。
「なんかいい感じに格闘戦のデータが取れそうだね。」
期せずして見えるロボな活躍に、恐怖よりも興奮が勝ってしまうあたり、俺も大概狂ってるなあ。そのまま、作業機たちに大暴れをしているカエデ機にカメラを向けていると、もう一機のサンブラーが到着した。
『坊ちゃん、無事ですか。』
「ああ、アルさん、助かったよ。タイミングばっちり。」
『たまたま近くにいましてね。サンブラーならすぐってもんですよ。とりあえずシェルターごと動かしますね。』
「ありがとう。マップに集合地点を送るね。」
端末越しの通信をよこしたアルさんにお礼を言いながらも、視線はカエデのサンブラーの動きから目が離せなかった。
ショベルカーが振り下ろすアームは、ボクサーのように内側に潜り込んで関節部に拳を叩きつけて動きを止める。そのまま、腰を捻るような動きでアームをへし折りながら横転させた。ブルドーザーの突撃は飛び跳ねて背後に回りこむ。そしてわずかな隙間にアームを差し込んで、そのままひっくり返す。ドリルやチェンソーつきの重機(名前が分からん)がアームをブンブンと振り回して牽制してきたら、横転させたショベルカーを掴んでぐるぐると振り回す。
パワーもすごいけど、やっぱりバランスがすごい。両足を器用に使い分けてぐるぐると回りながらも、その体幹がほとんどぶれていない。まるでアクション映画の無双シーンだ。これをマニュアルでやっているんだ。やっぱり天才だなー。
『カエデ、もうちょっと上手く壊せ、部品が回収できないだろ。』
『ええ、そんな無茶な。』
『もったいないだろ。』
片手でシェルターを持ち上げながら操縦にケチをつけているアルさんもなかなかの腕前だと思う。だが、カエデのような思い切りの良さや身軽さはなく、近づいてくる重機は避けるだけだ。それでも歩みが一切止まらない。まるで通行人とすれ違うかのような自然さだった。
「アルさん、スクラップいる?たぶん、未登録だから好きにしていいよ。」
『まじですか、おい、カエデ。足回りだけぶっ壊して、エンジンとかセンサは残せ。船に回す。』
『了解。』
さすがはアルさん。目の付け所がいい。遠隔操作の無人機となれば、搭載されているセンサーやエンジンは、高品質なものを使っている可能性は高い。指示に素直に従ってカエデは、重機の残骸を掴み、まだ動いている重機の足回り、無限軌道の内側や、関節部に刺し込んで動きを止めていく。
「器用なもんだねー。」
『サンブラーの性能のおかげですよ。まあ、あそこまで器用なのはカエデだけですが。おかげで、俺の出番がない・・・』
「だろうねー。」
ははは、圧倒的じゃないか、サンブラーは。これがまだ試作機で工業用なんだぜ。描写こそ少ないけど、原作冒頭のモノローグで、サンブラーを使ったテロ行為が横行したのも納得だ。
「手足がついているだけで、これほど、圧倒的なのか。」
「でしょ、すごいんだよ。うちのサンブラーは。」
世界を変える発明。ヨハン博士の言葉じゃないけど、そう思わせるほど圧倒的な光景だった。
アフタスペース293年 サンブラーの初の実戦投入はひっそりとかつド派手に行われたのだった。
やっと、ロボットが活躍する話が書けた。
アニモ君の扱いがひどい。




