27 アフタスペース293 部下たちが優秀でした。
ちょっとばかし別キャラの視点です。
(アル)
人生、何があるかわからない。船乗りとして一生過ごすかと思っていたら、船が沈んでスラムのチンピラに堕ち、これ以上は望めないと思って無茶をしていたら心から信頼できる仲間ができた。そいつらを守りたい一心で、偉い人に噛みついたら、なぜか気に入られて次期領主なんてお偉いさんと仲良くなった。二度と乗れないと思った舟を貰って喜んでいたら、初航行で、巨大な虫ども相手に、無謀なドライビング・・・。
うん、特に最後のは、過去の俺が聞いても信じなかっただろう。
「おう来たか、アル。」
「おやっさん、こんな時間に何の用ですか。」
スラムの一角、未登録の建物の一室に呼び出された俺の前には、スラムの顔役の1人であるコッラデのおっさんが気難しい顔でソファーに腰かけていた。背もたれに腕を預けてくつろいでいるが、その影にどでかい得物が隠れているのは周知の事実。自称、密造酒とその販売を生業としているただのチンピラだそうだが、元宙賊なんてぶっそうな噂もあるおっかないおっさんである。
そんなおっさんが夜中に俺みたいなチンピラを呼び出すなんて、これも過去の俺なら信じないだろう。
「お前に伝言を頼みたい。」
「伝言ですか?それはいいですけど、急ぎですか。」
「ああ。」
誰にとか、何をなんてことは聞かない。スラムのお偉いさんたちが俺に伝言を頼むとしたら、相手が坊ちゃんなのが、ほぼ確実だからだ。
次期領主との個人的なパイプがある男、いや最近では子飼いの部下として周囲には認識されている俺たちだが、スラムとの関係は続いている。今の稼ぎなら正規の市民権と住居を手に入れることも余裕だし、坊ちゃんも用意してくれると言ってくれた。だが、俺を含めて中の多くはスラムでの気楽な生活が性にあっているらしく今の立場に甘んじている。
「ホープからのお偉いさんに混じって、ネズミが入り込んでいたようだ。結構な数を捕まえたが、御身を大事にされるようにとな。」
「ははは、なるほど。」
「今晩にも騒ぎになるかもしれん、仲間にも注意を促しておけ。」
「助かります。」
「よろしく伝えてくれ。」
リンガットの坊ちゃんは変わった御人だ。公明正大な先代と違って、毒も薬な性格をしている。
誰も彼も清廉潔白で生きられるわけではない。それでも腹は空くし、いい服を着て、居心地のいい場所で過ごしたい。坊ちゃんはそのあたりの線引きがうまく、仕事や物資は提供してくれるがスラムの流儀に踏み込んでは来ない。
そう言った空気感というか放置っぷりが絶妙で居心地がいい。坊ちゃんの態度を付け入る隙と思う輩も、気に入らないと思って嫌っている輩もいる。だが、スラムの人間のほとんどは坊ちゃんを気に入ってるし、坊ちゃんに協力的だ。
コッラデのおっさんなんかはその典型だ。顔役としてスラムの一角に君臨する大物だが、不穏な噂や面白い話があれば俺に教えてくれる。代わりにおっちゃんがしている酒の密造を坊ちゃんは見逃している。なんなら、大人になったら一緒に呑もうと約束しているとか。
「お前さんも身辺に気をつけな。嫉妬かもしれんが、坊ちゃんの関係者としてお前とお前のお友達に因縁をつけたがるやつが最近増えた。」
「わかってますよ。」
ここに来る間にも何人かチンピラに絡まれた。俺を倒してなり替わろうとする馬鹿や、坊ちゃんや先代様の権力にダメージを与えようなんて輩がスラムにはゴロゴロいる。人身売買や麻薬など、一線を超えた商いをしていて、坊ちゃんの手勢によって組織をつぶされた連中もいたな。ともかく坊ちゃんや俺達に絡む連中は多い。まあ、今日はそれにしたって、ここ数日はバカなことをするやつが多かった気もする。
「そりゃそうだ。今回の連中曰く、坊ちゃんにダメージを与えたいらしい。ホープのお偉いさんも来ているから、ここで騒ぎを起こして少しでも疵をつけたいんだろうな。」
「それはまた、無謀なことを。」
ビックツリーで坊ちゃんに喧嘩を売る。それすなわちビックツリー全体に喧嘩を売ることにつながる。噂では雲隠れした坊ちゃんの父親派なんてのもいるらしいが、少なくともスラムの人間達は、坊ちゃんに恩を感じているし、今の関係に満足しているので目先の金で裏切るなんてことはしない。少なくとも直接的に敵対をするやつはいない。精々俺にちょっかいをかけるぐらいだ。
仮にそんなバカとか事情を知らないよそ者がいたとしても、坊ちゃんにうまいこと利用されるか、あの化物女に返り討ちにされるのがオチだってのに。
そんなことを思いつつお土産の詰まったコンテナを出口で受け取る。中身は知らんが、スラムの人間が協力的な証拠となるなら、坊ちゃんは喜ぶだろう。
「なあ、アルー。これを運べばいいのか。」
「うっせーぞカエデ。何時だとおもってんだ。バカでかい声だしてないでコンテナを持て。片方はお前が運ぶんだぞ。」
「へーい。」
荷物が増えそうな気がして、サンブラーを借りてきて正解だった。坊ちゃん肝入りのこのロボットで、いかにもなコンテナをもって練り歩く。それだけで馬鹿どもには充分な宣伝となるだろう。惜しむらくは街中を安全に歩けるのが俺とカエデぐらいのことだ。おかげ最近は舟に乗っている暇がない。
(スーザン)
私の一族はもともと「マウンテン」出身のハンターでした。旧時代のような火薬式の猟銃や罠を駆使して山の中で獲物を狩って生計を立てる。そんな表の仕事のほか、山によからぬことを企む不届き者を誅するという裏の仕事を引き受ける、そんな一族だったそうです。
どんな縁があって先祖たちが「ビックツリー」へと移り住み、森の管理人となったのは教えてもらっていません。ですが、幼い頃からその技術と心構えは教え込まれていました。
そんな私が侍女としてリンガット様のお世話を任されたのは、時代の流れです。自動化のあおりを受けて森の管理人のポジションが減り、両親の代で私達一家は森に関わることができなくなったのです。そこを先代であるレイウッド様のお声かけで、両親は領主邸の管理を、まだ若い私は次期領主であるリンガット様のお世話を任されることになりました。
そして、色々あって今に至るわけですが、不思議と昔取った杵柄を活かす機会には事欠きません。
「まったくもって恐ろしい人です。」
ニコニコ笑っていながら、ギリギリのラインを攻めるリンガット様には敵が多いです。どこぞに雲隠れしたくそ親父様の関係者やほかのコロニーからのスパイ、スラムで仕事にあぶれたチンピラなどあげればキリがありません。光が強ければ影も濃くなるということなのでしょう。そのほとんどは優秀な防衛部隊や警備員によって捕捉され、リンガット様が直接的な被害を受けることはありませんでしたが、今回は「ホープ」への対応でやや後手に回ってしまいました。
「仕方ないよ。万全の体制でも来るときは来る。今回は相手が上手だったってことで。」
リンガット様ならば、笑ってこうおっしゃることでしょう。そして、そのままあっさりと対応されるでしょう。その胆力があの方の境遇に由来しているのか、天性のものなのかわかりません。ですが、そうやって私たちの働きを認め、その身を案じてくれるリンガット様のためなら私たち部下一同、全力で働けるという者です。
そんな中、リンガット様が未だに私を重用してくださるのは、こういった最悪の事態に備えてなのです。
「く、くそ。」
「ふむ、いい感じに生き残ってくれてますね。」
暗闇に響くうめき声に、私は胸をなでおろしました。自害や口封じの心配はなさそうです。苦労が無駄にならなくてよかったです。
生け捕りというのは何気に難しいものです。脅威を排除するだけなら、罠の配置を少しばかり大き目に設置するか、頭を潰せばいい。ですが、相手の進路を予想して、その手足を奪って無力化するとなると、加減が難しいのです。まして今回はケガをしないように厳命されましたので、少々骨が折れました。
あっ、もちろん物理的にではないですよ、ことわざ的な意味でですわ。
何人かは運が悪かったようですが、尋問するには充分な数が確保できそうです。
「おっといけない、リンガット様をお迎えに行かなくては、いやそれよりもこの方々に事情をお聞きした方がよろしいでしょうか。」
シェルターの強度もリンガット様の作り出したマニュアルも完璧です。それならばしばしお待ちいただいて、背後関係を把握してからの方がいいでしょうか。
「迷いますねー。なので、今すぐ話していただけるとありがたい。」
「ぐ、ぐえ。な、なんのことだ。」
ふらりと近づき元気そうな影を踏みつけて問いかける。こういうとき、怒るのは悪手です。怒らせたという事実が相手にわずかながらに満足感を与え、矜持を持たせてしまいます。そうなると相手は交渉なんて選択肢をとってしまう。
「あなた方はどこのどなたでしょうか。ああ、話しても話さなくても構わないですよ。それならそうと報告するだけですから。」
ホントは腸が煮えくりかえるほど怒り狂っていますし、リンガット様と連絡が取れないので焦ってはいます。ですが、それを顔に出してはいけません。
頭がおかしいだけの人間なら喜ばせてしまうし、プロフェッショナルな人間なら、こちらの態度を隙と捉えて時間稼ぎをされてしまいます。
「ああ、命の心配は結構ですよ、リンガット様は人の価値を理解されています。あなた方の身柄は丁寧に保護して、丁重にもてなしますから。」
「はっ?」
「その傷を治したら、新薬や新技術の実験台にして差し上げるそうです。新環境とかキノコの耐久試験もしたいとおっしゃる人がいましたから、無駄にはしません。」
「ま、待て、待って。」
「安心してください、情報提供すらできないゴミや死体であっても、骨の一かけらまで有効に活用してさしあげますから。この宇宙はいつだって人材不足ですから。」
むろん嘘ですわ。ああ、ゴミというのはホントですけど。この宇宙にはそういう思考の人もいらっしゃいますが、リンガット様はそんな非人道的で、もったいないことはなされません。
「わ、わかった。全て話す。雇い主についてはすべて話すから助けて・・・。」
「そうですか、じゃあ死ね。」
ゴキリ。首筋を踏んでうるさいゴミを黙らせます。少しばかり工夫が必要ですが倒れている人間ならふみつけるだけで簡単に首が折れる。
「反省が見られませんね。本当に反省している人は言われなくても謝罪して、こちらの知りたいことを話して己の価値を示すはずです。だというのに、なぜ対価を求めるのでしょうか、そんな権利もすでにないというのに。」
「雇い主を知ってる。」
「俺もだ。全て話す、いや話させてください。」
おやおや、どうやら私のような忠義者はいないようですね。もっともこんなお粗末な襲撃を仕掛けるような人達だから当然ですね。
「さて、誰から聞きましょうか。話が終わった方から治療させていただきますね。」
ああ、これも嘘ですわ。リンガット様の貴重なお時間を邪魔した不届き者に未来なんてあるわけないじゃないですか。
なんだかんだ、人気者なリンガット様でした。
感想で、宇宙船の速度が時速1000キロは遅すぎるのではというご指摘をいただきました。
私の文章力の無さで誤解させてしまったようですが、時速1000キロはコロニー間をつなぐハイパーレン内を安全に移動できる速度としての認識でした。
宇宙船の速度に関する話は、もう少し進めたときに話題にして改めて語らせていただきます。




