2 アフタスペース290 状況整理もサクサクだった。
2の裏で行われていた思考整理の展開です。
矢継ぎ早に指示をだして、場をかき乱しつつも事態の収拾を図っていると、頭の中では状況の整理と意識の統合が完了していた。
ここはどこか?
コロニー「ビックツリー」
11番目に造られた自然循環型コロニー群にして、最も小規模まコロニー。
テクノロジーが発達し、様々な代替素材や培養プラントが主流となっている中、地球時代と同じく土づくりから行われる農業や林業によって生み出される商品の数々は、上流階級の嗜好品向けであり、同時にその姿、形から田舎者と揶揄されることもある。
その独自のシステムのおかげで、僕は状況を混乱することなく受け入れられたと思う。自転によって発生する疑似重力と土臭い香りをリンガット少年は嫌っていたようだが、僕にとっては慣れ親しんだものだ。
僕たちは誰か。
僕はリンガットであり、リンガットは僕だ。お互いの記憶は無理なく合わさり、違和感はなくなった。人格のベースは僕であるけれど、僕にあるのはアニメの知識と日本の成人として生きていたという自認だけなので、趣味趣向はリンガットに由来している。7歳の子供が強制的に30年近い人生経験をインプットされたような感じだろうか?うまく説明はできないけど、リンガットも僕もそれは受けれいれている。
なぜそうなっているのか。それは分からない。だが、どうやったかはわかる。
僕たちの意識が無理なく統合できたのは、リンガットが覚醒したESP「解析」の働きによるものだ。宇宙空間に進出したことで、人類が獲得した特殊能力であるESPは、この世界では貴重ではあるが珍しいものではない。高い空間把握能力や演算能力など発現する能力は人によって様々であるが、300年近い歴史の中で発現しやすい血筋や素質が研究され、そこから生まれた血統によって13のコロニー群の権力者たちは各コロニー内でで絶大な権力を持つに至った。
宇宙に進出しながら、政治制度が前時代の血統主義と世襲制になったのは、これらが原因である。
ESPを発現することは、それそのものがエリートの証明である。なのだが、「解析」は、数あるESPの中でもっとも凡庸と言われている。このESPベースは、外部情報や記憶を整理し、視覚化して持ち主に表示するものだ。戦闘などでは相手や自分の機体の状態や、弾道予測などを視覚化して表示される。イメージは未来から来たロボットのあの視界のようなもので、便利そうではあるけれど、その機能のほとんどが機械で代替できてしまうことや、応用が効かないことで、発現した能力者は便利なパソコンと揶揄われることが多く。劇中でリンガットがひねくれた原因ともなっている。
ぶっちゃけ外れ能力である解析だが、それのおかげで2人の人格が混ざっても問題が起きていないので、この能力で本気でよかった。
そして最も重要な、今はいつか。
今はアフタスペース290。僕の知る物語が始まるのは10年後の300。この10年間で新兵器である人型兵器「サンブラー」が開発され、連続して宇宙空間での戦闘や移動に幾つか革新的な変化が起きる。これらの技術と資源をめぐって13のコロニー群の間には、致命的な断絶ができてしまう。
そして、17歳にして、コロニービックツリーの当主となっていたリンガットは、物語の主人公たちが起こしたクーデターによって宇宙のチリとなる。そして、僕の推しであるディープベースは開発競争に敗れて日の目を浴びることがない。
「まったく、ひどいなあ。」
リンガットの末路はわかるのに、その過程に関する情報はない。アニメのストーリー開始の段階で甘やかされて育ったボンボンで、主人公たち孤児たちに意地悪をする嫌な奴だった。彼の怠慢と隠蔽工作によってビックツリーで、協定違反の兵器開発は行われ、それがきっかけで起こるテロ事件を契機に物語はスタートし、やがては人類の大半を巻き込む戦禍を巻き起こすことになる。他にも黒幕や戦犯キャラはいるのだが、終始、保身と欲望に傾倒していたリンガットは小物であり、クズだった。そのため、作中でも、人気投票でも最も嫌われる中ボス。それがリンガット・ビックツリーなのだ。
だというのに。
「死ぬのはやだなー。」
幼きリンダット少年の心にあるのは未来のわが身への保身で、
「良い機体なのになー、乘りたいなー。」
僕の心にあるのは、日の目を浴びずに消えていった推し機体への愛着だった。
だって、7歳であるリンガットには、そんな怠慢も欲望もないのだから。今日だって祖父であり現当主であるレイウッド・ビックツリーの仕事を手伝いたいという一心で、幼いながらに設備の視察に立候補するぐらい真面目な子だった。正直、アニメの話とはいえ、未来のリンガットの姿とのギャップが大きすぎて理解を拒みたくなる。
彼が歪み、不良になったのには何か理由があったのかもしれない。
もしかしたら、この事故のショックとか?
正直分からない。
ただ、意識が統合される中で、僕たちの方針は決まっていた。
無様に破滅する10年後の未来は絶対に避ける。リンガットも含め彼の故郷であるビックツリーが辿る悲惨な末路は絶対に避けたい。
そして、ロボに乗りたい。推し機体であるディープベースで宇宙を飛びたい。これは僕にとっては外せない願望である。破滅を避けるならば、兵器の開発は避けるべきかもしれない。だが、アニメのストーリーを見る限り、兵器開発はほかでも行われていたし、リンガットの破滅は、兵器開発競争の敗北でもある。日和った平和主義をした他コロニーの末路を考えれば、兵器開発によるコロニーの武装化は避けられない。むしろ他のコロニーよりも先んじて攻められないように、圧倒的な力関係を作って必要がある。
「力がなければ、何も叶わないか。」
子どもであるリンガットも、平和な日本で生きていたと自認する僕にとってもこの判断は難しい。だが、あの未来を避け、ディープベースに乗るためなら、何だってする。
色々と迷いも不安もあるけれど、この決定事項だけは絶対だ。
設定なお話でした。
転生ものって、意識の統合とか元の意識の扱いに困りますが、そのあたりも含めて強制的に再構築されたのが本作の主人公です。




