25 アフタスペース293 兄弟にも色々あるようです。
まだまだ居座るゼーレさんです。
時間にして半日以上。精力的に視察を続けたゼーレは、ホクホク顔でホテルへ帰っていった。それで終わればよかったんだけど、夜は夜で豪華なディナーを共にする会食があった。
「じつに実りのある視察だった。特に、スラムへの施しによって物資生産を維持するシステムはホープでも取り入れたいと思う。」
「そうですか、それは何よりです。」
「スラムや福祉に関しては以前から行っていたが、これは画期的だ。」
うちのコロニーならではのオーガニックなごちそうを食べながらゼーレの口はますます滑らになっていた。今の関心はスラムへの支援を中心とした物資ロス対策。生産ラインを維持しつつ、余剰を配給することで、ロスを減らしつつ、生活の質を上げる。前者はともかく、後者の結果として生まれた、スラムの人達の自主的な自浄作用は目から鱗だったらしい。
「やはり、コロニーへの帰属意識、郷土愛といったものは侮れないな。自分たちの住む場所を守ろうとする気持ちを促すだけで、そこまで効率がよくなるものなのか。」
「彼らだって人間ですからね、衣食住が足りてなんとやらってやつです。」
「福祉や支援という名目なら、世間受けもいいしな。」
「ですねー、そこそこの評価をいただいています。」
このシステムの真の狙いは、スラムへの支援という名目で物資の中抜きを隠すことだ。その裏の意図もばっちり把握してますね、これは。爽やかな顔をしたマッチョな見た目なのに、原作でも裏工作とか謀略が大好きだな、この人。
「それにサイト40の環境改善。あれに気づくとは流石だ。」
「はは、先人たちの記録を見直してたら偶然見つけることができました。運が良かったんです。」
「温故知新、素晴らしい考えだな。そういった姿勢は今後も大事にするといい。」
こいつ、ホントよくしゃべるな。そろそろ疲れてきたんだけど・・・。そして、この話題をアナタから話しますか。
サイト40の環境改善で実施した駆除技術は、歴史的な発見として結構なニュースになった。しかし、俺はそれを誇っていない。駆除するためのプログラムを組めたのは原作知識と解析さんによる恩恵があったからだし、ナノマシーンを使った環境改善は既存の技術だったからだ。
「ホープでも似たような事態が数件あってな。どう解決したものかと悩みの種だったのだが、リンガットの公開してくれたプログラムのおかげで早期解決できたんだ。」
そして、そのナノマシーン技術を生み出したのがホープだ。これって賞賛という名の自慢じゃない?
「ゼーレ様なら、いずれたどり着いてたのでは?」
「気づけたことが大事だ。たしかに、あのような生物災害に対して解決法はいくつか想定していた。しかし、リンガットが実績を示してくれたおかげで貴重なリソースを節約できたのは事実だ。あのプラグラムは見事だ、誇っていい。」
「はは、ありがとうございます。」
ほら、やっぱり自慢じゃん。褒めるふりして、うちの技術のおかげだよってアピールしてるよね。俺がこう返すことを期待してのフリだったよね。確か、今20歳だよね?大人気ないなー。
それにしてもだ。この会話の中で改めて実感したけど、この親善訪問の目的はマウント取りだ。相手を支援する態度を見せつつ、付け入る隙を探す。相手を賞賛しつつ、ホープの技術やゼーレの見識の高さを実感させる。そうやって悪意を感じさせずに自然と上下関係を植え付けるのだ。これがホープの意志なのか、はたまたゼーレ個人の企みなのかわからないけど、今のリンガットとビックツリーにそんな隙はない。うまいこと流して、気持ちよく帰ってもらおう。そう考えるぐらいの余裕はある。
だが、原作ではどうだったろうか?
俺の働きがなかったと仮定したとき、間違いなくお爺様は過労死してただろうし、サイト40やスラムの問題は深刻化していた可能性が高い。他にも様々な問題が山積みでゼーレが来たタイミングでは、かなりやばい状況だったはずだ。そんなときにキラキラとしたゼーレが色々とアドバイスなり支援なりをしてくれたなら、そして、それがリンガットの抱えていた数々の問題の解決の糸口となったとしたら。
原作でのゼーレに対するリンガットの心酔っぷりも分かる気がする。
「リンガット、君は素晴らしいな。君のように優秀な人間がいるならば、ビックツリーは安泰だな。」
「そうあれるように日々努力しています。」
爽やかでまっすぐな賞賛、これだけでもゼーレを素晴らしい人間だと思うだろう。これほどの為政者はいない。誰もがそう思うだろう。
だが、僕は知っている。
「素晴らしい」彼がこの言葉を使うのは、自分の敵にふさわしいと思った相手に向けるときだけだったということを。
いやはや、サンブラーやヨハン博士たちの存在をがっつり見せなくてよかったよ。
そのまま和やかに会食は終わり、その日はお開きとなった。まだ少し飲みたいというゼーレ様をレストランに残し、僕はスーザンと共にホテルを後にすることした。さすがに夜まで一緒は勘弁だからね。
ホープ側も察していたのか、見送りはア二モと彼のお付きの人達数人だけだった。
「今日は兄上がすまなかった。」
「いえいえ、とても有意義な時間でしたよ。」
エントランスまでたどり着き、別れる直前になったとき、アニモはそう言って頭を下げた。
「兄、ゼーレはアレが素なんだ。自信に満ち溢れ、それに伴うぐらい有能なんだけど、なんでも自分が勝っていないと落ち着かない。今回はリンガットがうまいこと合わせてくれたからよかったけど・・・。」
「ああ、やっぱり。アニモも苦労しているんだねー。」
「・・・いつかは追いついて肩を並べたいと思うんだけど。」
ここでぶっちゃけるあたり、アニモはまだ染まっていないのだろう。それでいて10歳にしてはかなり優秀なので、兄の行動が相手に与える影響も分かっている。というか日々、あのキラキラマウントにさらされているんだろうなー。
その果てに原作で生まれたのは、兄への劣等感から暴走しがちな司令官となるアニモ・ホープである。ある意味でリンガット・ホープの上位互換となる男だ。
まだこの時点では年相応の素直さと見識を持っているようだけど・・・。
「ビックツリーはお世辞抜きで素晴らしいコロニーだと思う。人口や技術レベルはホープの方が勝っているけど、ここで育まれた伝統や自然の価値と比べるものじゃない。どこともそうだけど、お互いがお互いに支え合える関係を築いていけたらと思う。」
「そう思ってくれるならありがたいよ。うちみたいなコロニーは単独ではやっていけないからね。」
「それはうちもだ。ここの木工品や食材のない生活はもう考えられない。」
「それは何より。お土産は期待してくれていいよ。」
兄の目がないこともあり、アニモはだいぶくだけた態度になっていた。初対面での不遜な態度も、子供の背伸びだったとすれば、可愛らしく思えてくる。
「そこもだ、そういった気遣いを兄は見ていない。あれにとって最上級の品が振る舞われるのは当然のもので、求めることが礼儀と思っている。だから感謝も上辺だけだ。最終的に損得の収支が合えばいいと思ってる。為政者としては素晴らしいと思うけど、リンガットへの態度といい、上から目線がすぎるんだよ。」
「うん、気にしてないよ。実際年上だし。」
「それはそれ、これはこれだ。リンガットが次期領主として対応してくれるなら、兄もそれにならってそれなりの対応をすべきだった。なのに、まるで子供扱い。それが問題になっていないのがリンガットの気遣いだとわかってないんだ。」
結構、ぶっちゃけるな、この子。
ア二モの考えもゼーレの態度も間違っていない。年の差を考えればゼーレの対応は間違っていなかった。だが、こうしてフォローされれば相手は気分がいいだろう。そんなメリットを理解した上で、彼は、こうやって影で兄の代わりに頭を下げてきたんだろう。あの兄にしてこの弟ありだ。俺もかなり苦労しているけど、アニモはアニモで苦労しているんだなあ。
彼も俺もまだ10歳である。子どもに背負わせるには重すぎる荷物を抱えている者同士、そして、原作で不遇キャラだったという共通点。だめだ、不覚にも親近感がわいてしまった。
原作通りに歴史が動いているならば、ホープの重鎮となる彼とは距離を取るべきなんだけど・・・。
だというのに、ちょっとサービスしたくなるじゃないか。
「ところで、ア二モ。君が見たい場所って、まだある?」
「えっ?」
「今日はゼーレ様のご希望を優先していたし、明日以降もそうなると思う。だけど、少しだけ夜更かしをしてもいいなら、君の視察したい場所を、今なら、案内できる。いいよね、スーザン。」
「はい、リンガット様の希望されるままに。」
予定外の思い付きだった。だが、寝るにはまだ少し早いし、夜だからこそ見応えがある場所もある。
お忍びでお出かけするぐらいなら、リンガットのわがままで通るだろう。それはアニモも同じはずだ。
「いいの?」
「うん、君の目で見たビックツリーについて意見も聞いてみたい。」
「そう、そうか。」
うん、言ってから迂闊だったかなとちょっとだけ後悔した。もしもだけど、サンブラーやヨハン博士の研究所を希望されると厄介なことになるだろう。
「うーん、迷うな。」
けれど、俺の言葉を真剣に受け止めて喜びを隠しきれていない彼を見ていたら、どんな希望がでてくるかというワクワクが勝った。うん、このくらいなら問題ないだろう。
「じゃあ、一つ行きたい場所がある。」
「任せて、コロニー内ならどこでも案内するよ。」
こうして、今日の視察は、少しだけ延長することになった。
優秀な兄と秀才な弟。もう地雷の匂いしかしない。
キャラ補足 アフタースペース293年時点
ゼーレ・ホープ 20歳
始まりのコロニー「ホープ」の次期領主。その有能さから既にコロニーの運営にも深く関わっている。見た目はキラキラマッチョだが、頭脳派で自信家。原作では、数年後に代替わりし、独立を宣言してストーリーの根幹であるコロニー間戦争のきっかけとなる男。
ア二モ・ホープ 10歳
ゼーレの弟。領主一族であるためかなり優秀だが、兄が優秀すぎて凡庸扱いされている。兄の強引な性格を理解し、フォローする誠実な性格であるが、同時に兄への劣等感を抱えている。
原作では独立をきっかけとした兄の蛮行を止められなかったことを悔やんでいるが、兄に認めてもらうためのチャンスと考え、兄の手足となって各地のコロニーを侵略している。




