23 アフタスペース293 コロニーを案内しました1
視察という名の接待なお話です。
長旅を終えたばかりだというのに、ゼーレは余裕綽々といった様子で視察の開始を希望された。
長旅の疲れもあるのではと、ホテルで休むことも勧めたんだけど。
「時は金なりだ。一秒でも早くこの素晴らしいコロニーを見て回りたい。」
「そ、そうですね、早速お願いします。」
といった感じに爽やかな笑顔で希望を伝えてきた。此方が断ることなど全く考えていない。見た目通り強引な性格なようだ。ここは原作通りだなー。
そんな兄に対して弟のアニモの方は若干疲れと遠慮が見えた。それもそうだろう。最大規模の戦艦とはいえ、何十日と船内で過ごしてたならストレスは溜まるし疲れる。だからこそ、彼らの祖父のように地に足の着いた場所でのんびり過ごしたいと思っているのではないだろうか。
まあ、そのあたりの事情も把握しているし、最初の視察先は考えてある。
「どうぞ、ここからなら、コロニー内が一望できますよ。」
「おお、すごいな。」
「たくさんの木が規則正しく植えてある。こんな光景は初めてです。」
視察として最初に案内したのは、僕にとっては思い出深いあの展望台。事故でリンガット君が、僕となったあの場所だ。
あの時は、鉄骨が組まれただけの林業の視察用の設備だったけど、事故をきっかけに設備は入れ替えられ、広いウッドデッキが敷かれた。かつて地味だった展望台は、テーブルや椅子も用意されて、安全でラグジュアリーな空間になって住民たちの憩いの場となっている。
今回は貸し切り状態だが、普段から人の出入りがある木造建築は雰囲気がとてもいい。視察しつつ、ここでのんびりしてもらえば、リフレッシュできるし、うちへの印象もよくなるだろう。
「すばらしい。ここは匂いからして他と違うな。この爽やかな香りがすばらしい。」
「そうですか。「フリーダ」や「マウンテン」の方が自然豊かだと思いますけど。」
「それはそうかもしれない。だが、その二つは私にとっては匂いがきつすぎたんだ。」
「はあ。そういうことですか。」
地球の環境を疑似的に再現した自然循環型コロニーは「ビックツリー」だけでない。
地球への帰還を目指して環境改善の研究をしている「フリーダ」や生態系の保護を目的とした「マウンテン」などが存在し、マウンテンなんかはアメリカの国立公園のような大自然が体験できたはずだ。それと比べるとうちは、観光地、いや里山レベルの自然だと思う。
「正直、あれらは自然が過ぎて落ち着かなかった。その点「ビックツリー」は、人にとって過ごしやすい環境になっていると思う。」
「なるほど、そういうことですか。」
キャンプや山登りなんてアクティビティは旧時代の娯楽である。僕の記憶でも、「都会の喧騒を離れてのんびりすごそう」なんてキャッチコピーでもてはやされていたが、実際に現地を訪れて、虫の多さや匂いの濃さや電波の有無などでギブアップする人がわりといた。そんな人向けに、準備や片付けなどをしてくれるグランピングなんてこともあったが、ここはそう言う場所とも言えるわけか。
「なあ、あの木はどのくらいで作れるんだ?いや、作れるんですか?」
「はい、一番大きいモノは苗木から20年といったところです。生育を促進しているので、地球での倍以上の速度で育つのですが、なかなか気の長い話となります。」
「20年そんなにかかるのか、いや、短期間なのか。」
アニモの視点もなかなか面白い。
旧時代、地球の林業は40年から50年かかる一生ものの仕事だった。徹底した最適化とオートメーション化によってかなり効率化されたが、細かい調整は熟練の職人の手と目によるものだし、時間はかかる。
その時間と手間を無駄と言ったり、贅沢だ道楽だのバカにする輩もいるが、それはここの景色を見てから語って欲しいものだ。
いい感じに心を掴んだところで、他の特産品のアピールをしておこう。
「合成素材や培養素材も悪くないが、天然物には及ばないな、この風味は得難いものだ。」
「ははは、喜んでいただいて何よりです。これこそが「ビックツリー」の強みですから。」
よし、用意したお茶やお茶菓子も好評だな。
新芽を摘みとって作るお茶は色と香りを引き立てる緑茶。世界観的やゼーレたちのビジュアル的には紅茶の方が似合いそうだけど、ここ一番としては、やはり緑茶だろう。
お茶菓子は素朴なバタークッキーだ。ビックツリーではありふれた品だけど、小麦や砂糖などの材料は自然栽培の天然物だ。サイト40で酪農も活発になったおかげでバターや卵も入手しやすくなった。化学調味料とか合成素材を一切使わないオーガニックな一品でございます。
ほかにも、ドライフルーツと新鮮な果物を並べて食べ比べられるよう並べて、腹にたまるように、ローストビーフやトンカツなどのお肉なサンドイッチや、トマトやレタスなどを使ったサラダなども用意してみました。
「すごいな、肉に臭みがまったくない。」
「いや、歯ごたえが違う、天然素材ってこんなにうまいのか。」
「野菜が甘いです。砂糖とは違うし、やさしい味です。」
「長期出張なんて嫌だったけど、これが味わえるなら親父が勧めるわけだ。」
料理は護衛やお付きの人達にも振る舞い、大好評でした。
宇宙でこういった食事はまず叶わない。タンパク質は豆由来のよく分からない植物と工場で培養された何かの肉を使った合成肉。ビタミンやミネラルなど野菜由来な栄養は、藻のような植物とオキアミモドキな生物の加工品で補われる。技術の進歩のおかげで見た目はそれっぽい食事になるし味もそこそこだ。だけど、やっぱり本物の食事には叶わない。
ここで味を知ってもらえば、ホワイトランスの乗員である5万人は、今後いいお客になってくれるだろう。それだけで今回の親善訪問は黒字が期待できそうだ。
「面白いな、マウンテンで食べた天然の山芋や鹿肉も美味かったが、いささか癖が強かった。」
「あれは・・・正直美味しいというより珍しいでしたからね。」
「ここは食用に品種改良をしたものですから。」
天然物はそれだけで貴重なものだ。しかし、林業にしろ農業にしろ、自然任せよりも人の手が加わった方がいいものができることもある。特に果物とか野菜の味は別格だ。
特に、畑から収穫したての味は他では味わえない贅沢だ。まあ、ほとんどオートメーション化されてるし、農薬もバンバン使ってるから有機野菜とは言えない。それでも、土から育てているので、この世界でオーガニック食材扱いされる。
その分お値段はかなりお高いですが、価格以上の価値があるんですよ。
「すごいな、まるで宝箱、いや、宝島だな。」
ご満悦なゼーレは次々と食事を平らげ、肉類に関してはお替りを所望された。野菜や果物もそうだけど、牧畜による食肉もかなり貴重品だ。
「地球原種の牛や豚は育つのに時間がかかるらしいけど、実際どうなんだ。」
「そうですねー、豚なら生まれたら半年ほどですが、牛なら2年ほどです。ちなみに一頭あたりにとれる可食部は、豚だと80キロ。牛だと300キロほどですね。ビックツリーで飼育されている家畜は全部で2000万頭ほどですが、出荷可能なものは年間50万頭、量にしておよそ15億キロ、150万トンの肉が生産されています。」
これまた凄い量と思うかもしれないけど、人口1億人程度のビックツリーでも自給は難しい。牧畜は色々と手間がかかる上に、鮮度も大事だ。他のコロニーに輸出するのはかなり難しいのだ。
「そうなんだ、これにもすごい手間がかかっているんだな。」
「ご理解いただき、嬉しいです。アニモ様。」
「アニモでいいよ。同い年なんでしょ。」
「そうですか、では、私のこともリンガットと。」
うん、見た目はわがままな美少年かと思っていたけど、意外と話せるなアニモ君。
視察という名の、御里自慢な話になってました。
洋風な世界観だと、紅茶がいいかと思ったのですが。そもそも紅茶の由来は、輸送中に発酵して変色したものなので、鮮度優先で緑茶にしました。
200万頭の参考は北海道で飼育される牛の数です。
北海道の牛の総数が約130万頭。その他の家畜も合わせると200万頭ぐらいにはなるという推測です。




