20 アフタスペース293 何なら作る、いないなら育てればいい。
新キャラが加入しました。
原作ではクソボンボンだったけれど、今のリンガット様、もとい僕はなかなかの高スペックなキッズである。
前世の日本人的な精神性と次期領主としてのエリート教育に解析による知識補助が加わることで頭脳に関してはそこらの役人よりも優れているし、精神も成熟している。身体能力に関してもお爺様に保護されてからは、栄養バランスに優れた食生活と徹底された訓練によって、10歳にしてはかなり高いレベルだ。この世界でもトップクラスの金持ちだからこそ得られる恩恵を一身に受ければ、凡人だってそこそこ動けるようになるわけだ。
だというのに・・・。
「うわ、だめだ。」
コクピット内に響く警告音とともに、僕の操作から離れて自動でバランスを取りはじめる手足。この安全装置のおかげで転倒することはないけれど、意図しない動きから生じる揺れの所為でめっちゃ酔ってしまった。き、気持ち悪い・・・。
研究所が軌道に乗ってからは、ことあるごとに乗せてもらっているのに毎度この調子だ。やはり、僕には操縦の才能がないらしい。
「問。なぜマニュアルモードにこだわる?」
「オートマもいいけど、突き詰めるならマニュアルだよ。うん、ロマンってやつだよ。メトル。」
「不明。そのロマンは理解しがたい。」
「だろうねー。」
そんな僕を呆れた様子で話しかけるのは、ミニロボで過ごすのがすっかり定番となった電子精霊さんだ。あれっきりかと思わせる邂逅だったけど、その後も何度もミニロボの中に訪れては、僕と雑談を重ねた。そして、気づけば、僕の行き先にまでついてくるようになった。先日のデモンストレーションのように人目の多いときはどこぞへと雲隠れしているが、ひょっこりと現れては、僕たちの様子を観察している。
そんな彼女の存在は領内ではすっかりお馴染みとなり、スーザンをはじめとした侍女たちに気に入られr、オシャレな服や装飾品で着飾られ、気づけば「メトル」と名乗るようになった。
「理解。人間との交流には個別での呼称が必要。」
とか本人は言っていたけど、彼女が名乗るようになったのには、別の理由がある。
「ははは、あいからず操縦が下手だねー、リンガット様は。」
「君が異常なんだよ、カナデ。」
「YES。カナデはスペシャルだ。」
ふらふらとサンブラーから這い出た僕を、明るく笑い飛ばず声に振り返ると純度100%の爽やかな笑顔を向けられた。嫌味とかではなく無邪気、嫌味じゃなくて本心な主張をするお子様だった。
「今のはさあ。手の操作に集中しすぎて、身体が伸び切ってたんだよ。右手を伸ばしつつ、左足をあと半歩前にしたらいいと思う。」
「なるほど。でもそうしたら、反動で後ろに倒れるんじゃない?」
「そこは半歩なんだよ、一歩だとやりすぎだけどこんな感じで。」
その証拠に、僕の失敗を彼なりに分析して身振り手振りで具体的に説明してくれている。惜しむらくはその微妙な操作感が独特すぎることだろう。
「疑問。半歩の間隔が毎回違う。」
「だよねー。」
やはり彼は天才だ。
「カナデ・シャルフ」水色の髪と瞳を持つ少年は、アルさんが連れてきた見込みのありそうなスラムのキッズの1人だ。アルさん達が連れてきただけあって、どの子も優秀なんだけど、最年少で11歳のカナデは別格だった。
適性テストによる運動能力は一般人レベル。知識に関しては最低限。だというのに、工作機械や宇宙船のシミュレーターでは現役の作業員と同等かそれ以上の成績を上げている。それもマニュアルをほとんど読まない初見状態でだ。
「なんか、分かるんですよ、どのくらいレバーを動かせばいいかって。」
というのは本人の言葉。もちろんだが、全員が首を傾げた。
この世界の機械類は、規格統一が進んでいるので操作感は似通っている。だが、サイズや出力で操作感覚は大きく異なる、少なくともそんな軽い言葉で済むレベルではない。
だと言うのに、カナデは操作の正解を感覚で見抜く。まさしく天才だ。
「わかったよ。じゃあ実際にやってみせるから。いくぞ、カウント。」
「OK。といっても私は何もしないがな。」
説明に窮し、サンブラーへと乗り込むカナデの言葉に腰の端末が声をだして返事をする。見た目は旧時代からある音声反応型のアプリのようだが、ピカピカと明滅する画面がずいぶんと騒がしい。
「メトル的には、ああいうディバイスはどうなの?」
「解。視野範囲が狭いので、私の好みとは一致しない。」
そこに潜んでいるのは、メトルとは違う電子精霊だ。
「カウント」、原作通り、カナデの端末を住処とする電子精霊は、メトルよりも自己主張が強く、人目があっても、気にせず会話している。その頻度が高すぎて、そう言うものだと、その存在が受け止められているレベルで認知されている。
うちの電子精霊が「メトル」と名乗るようになったのは、彼の存在が大きい。
「じゃあ、いくぞ。」
「Wait。周囲への声かけと安全確認を忘れるな。」
「ああ、そうだった、リンガット様。」
「もう離れてるよー。」
こんな感じに、勢い任せなところがあるカナデをちょいちょいフォローしているので、頼れるお兄さんって感じだ。うちのは・・・クールなお嬢さん?
「ええっと。」
「Announcement。サンブラー4号機、起動します。レンジ内の人員は注意を。」
起動アナウンスとともに、サンブラーがすくっと立ち上がる。手足の関係で予想もしない範囲に影響がでるので、起動の前後にはアナウンスによる安全周知が推奨されている。個人的にはパトランプをつけたいが、それだと別のアニメになってしまうので我慢している。
「よく見ててなー。」
そのまま歩き出すサンブラー。最初はゆっくりとした歩みだが、徐々に加速し、訓練場に用意されたトラックをぐるぐると回りだす。速度と重量の関係でサンブラーはカーブが苦手だ。方向を変えるときは一度を足を止めて足踏みをしながら進行方向を変えるのが通常なのだが、カナデやアルさんは、まるで短距離奏者のようにカーブを走り抜けることができる。
「すごいなー、数値がバラバラ過ぎて訳が分からない。」
「同意。腕の位置パターンが毎回異なる。このランダム性は再現が困難。」
サンブラーの操作には、一定のパターンで手足を連携させるオートマモードと、手足の操作を独立して行うマニュアルモードが存在する。基本的にはオートマ、上級者はマニュアルって感じだ。
アルさんやカナデはマニュアルモードで、手足を同時に動かすことでバランスをとることができる。そうして、この機動性と安定を生み出しているのだ。が、これが非常に難しい。人間だってそうだ、走るときに手や足の動きの一つ一つ意識してなんて無理でしょ?
それが大型、しかもハンドルとペダルの操作で再現するってどんだけだよ。
「ははは、楽しい。」
速度が乗ったサンブラーは、その勢いを利用して飛び上がり、空中で前転し、地面を滑るように着地する。めっちゃかっこいいな、おい。
オプションパーツには外付けのブースターは存在するが、手足の力だけでこんなアクロバティックな動きができるのはカナデだけだ。僕なんか、歩かせるだけでも精一杯だ。それだって結構練習したのよ。
「疑問。作業機械にこれらの動きは必要か?」
「Answer。スペックの限界の追及は研究の一環だ。」
まあ、無駄にはなっていない。こういった動きの積み重ねで、より負担のない動きのプログラムが構築されるのだ。実際、カナデが操縦したときは、各部のパーツの摩耗が少ない。絶妙な力加減のおかげで余計な力を使っていないのだとヨハン博士は推測しているが、その動きの再現は「解析」を使っても数値かできないレベルの複雑さだ。
「天才ってのはいるもんなんだねー。」
「同意。カナデ・シャルフのスキルの特異性は異常。」
「Agree。カナデはスペシャルさ。」
「提案。リンガットの特異性も方向性は違うが、特出している。」
「YES。リンガットの理解力と応用力もスペシャル。」
うん、カウント君、普通に僕らと会話してるね。見た目にはミニロボが1人芝居をしているように見えるけど、遠隔でしれっと会話してるよ。
「いや、リンガット。サンブラーはすごいな。これならどこにだって行けそうだ。」
「そうだね、すごいよねー。」
お手本のはずだったが、すっかり夢中になってサンブラーを駆っていたカナデはご満悦な様子だった。さては訓練だってことを忘れてるなー。
さすがは原作主人公。テロのどさくさで生まれて初めて乗った二足歩行ロボットを手足のように扱い、その後の激動の日々の中で才能を開花させ、最終的には「死神」と評される撃墜王となる少年は、物語開始前から才能の塊だったようだ。
「楽しむのはいいけど、安全と平和には気を付けてね。」
「ああ、ごめん、さっきは気持ちが先走った。カウントもいるけど、俺ももっと気を付けるよ。」
「うんうん、楽しいけど、一歩間違えれば大事故だからね。」
「そうだな、リンガットの言う通りだ。」
うん、素直。この調子でいい感じの関係を育みながら、優秀なロボット乗りになってもらおう。そうすれば、彼と彼の仲間によってクーデターが起こることも、激闘の果てに撃墜される未来もきっと避けられる・・・はずだ。
そう思っておこう。改めてカエデやアルさん達に敵対されたら、マジで勝ち目がない。
なお、アルさんやカナデなどのスラム出身者ばかり優遇しているわけではない。軍部からの出向者や一般の希望者も分け隔てなく適性テストを受けてもらっているし、訓練の機会は提供できるようにしている。
まあ、そのあたりはヨハン博士とジルオールに丸投げしている。僕も忙しいからね。教導できる人材の発掘と教育は彼らに任せている。
並行してサンブラーの量産と改良は行われている。各コロニーからの問い合わせも増えており、数年後には各地に配備されることだろう。
やや駆け足ながら、原作と同じように二足歩行ロボットは世界に広まりつつある。
ヨハン博士も嬉々して研究と開発に取り組んでいるため、「フォルテシリーズ」や「デイープベース」がお目にかかれる日もそう遠くないだろう。
順風満帆
僕の人生は明るい。10歳の時の僕は、そう楽観していたが、世の中そんなに甘くない。それを知ったのも10歳の時だったりする
ついに原作の主人公がしれっと参入。
人物補足
「カナデ・シャルフ」
原作
水色の髪と瞳を持つ原作アニメの主人公。アフタスペース300年のときに初めてロボットに乗り、その時にパイロットとしての才能とESPを自覚する。スラムを荒らしたリンガットが嫌い。
本編
スラムで生活していたが、手先の器用さをアルに見込まれ、推薦された。
年も近いし、色々と親切なリンガットを慕っているが、兄貴風をふかしたがる。
「カウント」
カナデの端末に潜んでいた電子精霊。テンション高めだが、常識人でカナデのブレーキ役。




