19 アフタスペース293 秘密基地を作りました。
10歳になりました。
豊富な鉱物資源の確保と電子精霊との接触。これらの要素によってロボット開発は飛躍的に加速することとなった。といっても開発にはそれなりに時間がかかるし、そればかりにかまけているわけにもいかなかった。ビックツリーの跡継ぎとしての勉学や訓練もあったし、なにより仕事がたくさんあったからだ。
各種記録や報告書の最終確認や資材管理、交易や生産方針を決める会議に、行事や外交の場への出席。電子化オートメーション化して旧時代よりも効率的になったとはいえ、領主の仕事はともかく多かった。
しかも本来ならば息子であるあの男と分業するべきところをお爺様は1人で担っていたので、負担は単純に倍以上となっていた。おまけに、息子の1件で妙な責任感をもってしまったお爺様は部下に任せるべき仕事まで抱え込んでしまっていたのだ。
「解析」さんで、領主の仕事量を理解した時はその仕事量に吐きそうになったよ・・・。
えげつない仕事量をこなしていたお爺様の生真面目さに驚きつつ、原作で彼が登場しなかった理由も察せてしまう。絶対過労死してるわ、これってレベルだったよ。
「お爺様、この仕事はこの人に任せましょう。これも、それも。」
「う、うむ。しかし。」
「大丈夫です、「解析」のおかげでマッチングはばっちりです。」
渋るお爺様をESPというパワーワードと孫のわがままムーブで説得し、任せられる仕事はジルオールを筆頭に、暇を持て余している役人たちに次々に丸投げした。相手の人選はジルオールに任せたし、サイト40の収益やプログラムのライセンス料のおかげでボーナスも弾めたので、みんな喜んで働いてくれました。
ワンマンリーダーによるトップダウン系の組織は意思決定こそ早いが、リーダーへの負担が大きすぎると改めて思ったよ。それでうまく回っていればいいんだけど、お爺様がキャパオーバー気味でここ十年ほどのビックツリーは機能不全を起こしていたと思う。サイト40の再開発の成功やスペースアントの巣の発見がなかったら、色々とまずかっただろう。
そこに危機感を持っていた役人が多かったこと、そして何より「解析」というESP持ちであり数々の実績を上げた僕の提案だったこと、そういった要素があり、子どもの意見でも通ったのだと思う。結果としてお爺様の仕事はだいぶ楽になったが、反比例するように僕の日常は、忙しくなり、一時は逃げ出したくなった。
まあ、そのあたりは機会があれば、語るとして。
そんな苦労も献身も破滅を避けるためと夢を叶えるためと思えば乗り越えられるものだ。
そして、今日、その願いはまた一歩進む。
「1号機、歩行テストを開始します。」
「2号機から4号機は整列させて、待機させます。」
「繰り言になりますが、安全のためにテストエリアへの立ち入りはご遠慮いただきたい。」
研究所を作って2年、10歳になってまもなく。悲願であった原作のロボットとの対面は叶った。
「リンガット様、いかがですか。」
「すごいね、ちゃんと立って、歩いてる。」
「はい、歩いています。なんなら走ることも可能です。」
完全自立型二足歩行作業ロボット「サンブラー」
重機のコクピットのようなボックスに大柄の手足がついたその姿は、「ハーモーニーサウンド」に登場する二足歩行ロボットの試作機であり、作中すべての機体のベースとなるロボットと瓜二つだった。
全長10メートルのロボットが4台立ち並び、そのうちの1台はギャラリーの前を歩き、資材を運ぶ。今日は「サンブラー」のお披露目であり、動かしているのはデモンストレーションのためだ。
ガチャンガチャンと足音を立てながら歩く1号機は両手でコンテナを抱え、10メートルほど離れた場所にある別コンテナの上に置く。そして今度は二つのコンテナをまとめて持ち上げる。身の丈以上のサイズであるコンテナを抱える姿は旧時代のアニメーションにあった荷物持ちの男性のようでコミカルだが、その足取りは安定しているし、なにより素早い。
「基本的にはコクピットからの視界で操作するのですが、周辺のカメラやセンサーとリンクさせることで、オペレーターは多角的な視点で操作をすることが可能です。」
「それなら遠隔操作もできそうだね。」
「理論上は可能です。ですが、現段階ではとっさの判断や効率的な運用にはオペレーターが乗り込む必要があります。」
「まあ、コロニー外とかで活動する場合はどっちにしろ有人にする必要があるよね。」
「はい、安定した二足歩行のおかげであらゆる地形、環境下でも現状の重機と同等かそれ以上の活動が可能です。」
「オプション次第で、色々と働いてくれそうだ。」
「はい、クレーンのような運搬作業のほか、工事や発掘などあらゆる場面に対応できます。」
デモンストレーションに合わせて僕とヨハン博士の会話が中継され、サンブラーの性能が宣伝される。見た目のインパクトもすごいけど、一番の売りはその汎用性だ。全長10メートルの人型二足歩行ロボットは、ちょっとした段差なら楽々と踏破し、作業機械を持ち込むことができる。さらには人間の指先のように繊細なマニュピュレータは、複雑な作業も可能である。300年近い増改築によって複雑化したコロニーや小惑星でも対応できる汎用性は既存のどの機械よりも優秀だと断言できる。
「注文に関しては適宜受けつけています。」
「カタログスペックやオプションについては、添付された資料を参照くださいね。」
ギャラリーの反応は上々だった。デモンストレーション直後から、問い合わせもそこそこもらえたので、商売としてもいいスタートが切れたと思う。
そんなデモンストレーションが終わり、ギャラリーも帰ったあと、僕と博士は改めてサンブラー1号機に近づき、オペレーター、もとい、パイロットを労った。
「アルさん。どんな感じ?」
「面白いっすね、船と揺れかたが違うので慣れるまでは酔うかもですが。」
「そんなに?一応既存のコクピットブロックを流用しているんだけど。」
「ええ、歩くことで上下の揺れが思った以上にあります。長時間動かすときは、サスペンションを強化して、揺れをもう少し抑えるといいかもしれません。ただ、それをすると操作感が変わってしまうかも?」
「なるほど、関節部の強化でサスペンションは確保できるので、段階的に調整できるようにしましょう。」
テストパイロットは、すっかり僕の子飼いとなっているアルさんにお願いした。普段は船乗りとして、物資輸送や遊覧飛行などをして宇宙を飛び回っているが、依頼すれば、新装備や機械のモニターやテストパイロットも引き受けてくれる頼れる兄貴と成長した。原作では艦長ポジだったけど、乗り物系への適正がどれも高く、物怖じせずに意見を言ってくれるので、ヨハン博士からも信用されている。
「あと、操縦はかなり難しいっす。クォータやノホ爺のやつはすぐに諦めてましたし。」
「まあ、そこは今後の課題だね。」
正直に言うと、デモンストレーションで見せた動きの大半は、サンブラーの性能というよりもアルさんの操縦技術の高さによるものが大きい。個々の動作はオートで動かすことができるし、自動でバランスもとれる。だが、歩く、持つ、運ぶの操作を同時に行うにはそれなりのテクニックとセンスが求められるのだ。
それでも10メートルクラスのロボットの二足歩行を安定させ、実用に耐えるレベルには仕上がっている。それがサンブラーなのである。
「わたし、リンガット様との出会いを神に感謝いたしますぞ。」
「おおげさだねー。」
「いやいや、大げさではありませんぞ。正直なところ、生きている間に開発ノウハウと理論が成立できれば御の字で、実用化を見ることは叶わないと思っていましたからな。私が夢見た二足歩行ロボットが、実際に歩いている場面に立ち会えたのは、あなたのおかげです。」
「それは何より。」
デモンストレーションの成功に感涙している博士に、僕もアルさんもドン引きである。
そんなことを言っているが、原作では、支援なしでサンブラーを開発した上に、いろんな場所に、研究所と秘密兵器を残してますよね、あなた。それこそ、研究が出来ればだれにだって尻尾を振るくらい、ロボットへの情熱的な人なので、油断はできない。
「研究というのは無駄とも思える作業の繰り返しです。それに必要な資源や場所を用意してくれた。何より、成果を信じてくださっていたことがどれほど頼もしかったことか。」
「ああ、うん。みんなには反対されたからねー。」
「実際にこれを作ろうと思うのは物好きっすよ。」
「ええ、でも便利でしょ。」
「まあ、船乗りにとって、汎用的な作業機械は魅力的っすけど・・・。」
言いたいことは分かる。いくら潤沢に資源があるとはいえ、前人未到の工作機械に多額の支援をし、専門の研究所を作ったのはやりすぎだと、アルさんは言いたいのだ。
「そのためにここまでします?」
「必要なものを用意しただけだよ。」
この2年の間に、研究所も拡大され、かなり大きくなった。場所はリンガット様な特権を使って確保している訓練場の地下だ。やっぱり研究所と言えば地下に作らないとね。
訓練場の地下には、10メートルクラスのロボや作業機械が自由に動き回れる作業ドックがあり、エアロックを通れば宇宙空間へ出入りもできるし、訓練所の地面を割ってせりあがってくるエレベータ―なんてものある。
今まさに、訓練所から研究所へとエレベータが下降している真っ最中だ。
「趣味に走ってますよね。「ノア」の造船ドックだってここまで複雑じゃないですよ。」
アルさんなど付き合いの長い人達には、このギミックを見せるたびに呆れられる。それでもロボットの運用基地にするなら、このギミックはゆずれない。
他にも、屋敷と直結させた隠しシェルターとか、ダクトに偽装させた電子精霊さん専用の隠し通路なんかもある。土地は僕の名義だし、出資もしているので、多少はね。
「ともあれ、デモンストレーションは大成功。大変なのはこれからだよ。」
「そうですな、各地で運用が進めばデーターの収集もより一層はかどることでしょう。ですが、有用性が証明されれば、他のコロニーでも開発が進みます。となると地力の差でシェアを奪われる可能性も想定されます。」
「だろうねー。」
原作でも、サンブラーが各地で配備されてことで、ロボット開発は急速に進み、たった数年で各分野で必須の存在となった。その開発競争のキーマンとなるヨハン博士は、その有能さから様々な組織から身柄を狙われ、放浪生活を余儀なくされた。そんな不安定な状況でも数年で開発が進んだのだ。これだけ設備を整えたなら、もっと早く開発は進むだろう。
「とりあえず、希望者を募って、各種機械のオペレーターを育成する施設を作ろうか。」
「そうですな、実用化が達成できた今、求められるのはアルさんのように優秀なパイロットです。各地に募集を駆けていただけると助かります。」
「きょ、恐縮っす。」
物が出来たなら、次は人材教育だ。ロボットは飾って楽しむものではなく、動かして楽しむものだからね。動かせる人員の確保、それも優秀な人材は、他のコロニーが動き出す前に先んじて確保しないといけない。
「というわけで、見込みのある子がいたら紹介してね。人選の基準は2人に任せるよ。」
「「ありがとうございます。」」
僕からの信頼に感動して頭を下げる2人だが、いずれは主人公を含めた原作メンバーのスカウトもしてもらう必要がある。今後ともバリバリ働いてもらおう。
「なら、リンガット様、早速なんですが、何人か見込みのあるガキがいましてね。そいつらをここに呼んでもいいですか?」
「もちろん。なんなら衣食住も保証するよ。」
おや、これは、もしかして。アルさんの言葉に僕の期待は爆上がりするのだった。
勘違いする人がいそうですけど、前回のEX回はリンガットが転生する前の原作の世界線なので、お爺様はご存命です。サイト40という負債や孫への罪悪感がなくなったこと、なによりリンガットが積極的に仕事を手伝っているのでストレスも減ってまだまだ元気です。




