18 アフタスペース292 電子な精霊と友達になりました。
不思議生物とのお話回です。
電子精霊は、機械部品やネットワークに住んでいる実体を持たない不思議生命体だ。旧時代ではグレムリンなどとも呼ばれ、原因不明の航空事故の原因とも言われていた。
原作では主人公の相棒兼マスコットキャラ的な電子生命体が存在し、端末越しに場を和ませたりハッキング的な助力したりしていた。ただ、物語当初から当たり前のように主人公と行動を共にしており、その出自は明らかではなかった。だが、主人公はビックツリー出身の孤児なので、電子生命体がビックツリーにいたことは間違いなかった。
そんな面白いキャラを見逃せるわけもなく。ネットや資料を漁って、その痕跡を探していたけど、手がかりはなかった。
そこでスーザンの助言と、このミニロボというわけだ。好奇心の強い電子生命体は、新しいデバイスや情報が大好きで、そういうのがあると自然と惹きつけられる。希少だったスペースアントの素材を使ったミニロボに、それを為しえた立役者である僕は充分な餌となったわけだ。
「僕はリンガット・ビックツリー。君は何て名前なの?」
「解。私に個体識別の表記はない。我々はお互いの違いを本能的に察知できる。」
「なるほど、だから名前は必要ないってことか。」
「肯定。あえて言うなら、そちらのいう電子精霊が呼称。」
これはまた、イメージと違ういうか、いやイメージ通りなのかな。原作で登場したのはもっと人間臭いというか、子どもっぽい話し方をしていたな。
「ちなみに今の答えから察するに、電子精霊は君以外にもいるって認識でOK?」
「肯定。具体的な総数は分からないが、私以外の個体との遭遇経験がある。」
「なるほど。君たちには社会的な集団があるってことだね。」
「問。この対話の目的は、我々の存在への理解が目的か?」
「そうだよ、もしかしてまずい?」
「否定。我々は存在を秘匿していない。一部の個体は人間との交流をしている。」
「だろうね。ああ、答えたくないことは答えなくていいし、嫌な事は嫌と言ってね。」
「了解。交流後の解放と報酬が約束されるならば、現状に不満はない。」
パジャマ姿の8歳児と玩具のようなロボットの対話。見た目は微笑ましいけど、僕はドキドキしながら言葉を選んでいた。いや選ばざるを得なかった。
今のところは友好的に接してくれているけど、この電子精霊が害意を持てば、ここから逃げ出すことは容易いはずだし、その後、報復としてコロニーのシステムに何をされるかわかったものではない。個体ですらそれだけやばいのに仲間がいるとなればその脅威は想像できない。
というか軟禁しているわけだし、対応次第では種族間戦争の火種になりかねない状況じゃない、これ?
「君たちはゴハンとか食べるの?」
「否定。肯定。人間のような食物を摂取しないが、存在の維持には電気などのエネルギーが必要となる。その量は一般的な電子部品と比べるとごくわずかと自認している。」
「じゃあ、ここに来たのはエネルギー補給のためではないと。」
「肯定。この特殊な外部デバイスに興味を惹かれた。補足。我々にとって情報の収集は本能のようなものであり、趣味嗜好のようなものではない。今回は我々について探っている情報の痕跡と、未知のデバイスの存在を確認するためにやってきた。危険度の精査も兼ねている。」
うん、ミニロボに興味があるから来たのって聞いたらへそを曲げられたかもしれない。質問の内容は慎重に選ばないといけないのか。
「僕としては、電子精霊さんたちと仲良くしたいんだけど、もしかして警戒されてた?もしかして君は、警察的な役割を持っていたりする感じ?」
「肯定。我々は人類との敵対を望まない。否定。我々は組織的な行動をしていない。今回の発見と行動は私個人の意思によるもの。」
これは予想通り。原作で出てきた電子精霊も結構な個人主義だった。いや、小説版には組織行動している電子精霊の集団もいたような?まあいい、少なくともこの子の言葉には嘘はなさそうだ。なら、もう一歩踏み込んでみよう。
「なるほど、じゃあ僕と友達になってくれない?」
「問。なにをもって友達なる関係が成立するか?」
「うーん、そこからか。」
なんとも機械、いや哲学的に返されてしまった。そういえば、前世の僕はアニメ好きのオタクなボッチだったし、リンガットも同世代の友達がいないな・・・。あれ、友達ってなんだっけ?
いややめようこれ以上は危険だ。
「そうだね、質問を変えよう。今後も定期的に交流の機会を設けることは可能かな?ああ、断ってもソレはプレゼントするつもりだし、いつでも出て行って構わない。君たちにとってはありふれているかもしれないけど、人類、いや僕にとってはかなり貴重な体験だったからね。」
「納得。そう言った交流ならば私も希望する。ただし身の安全は保障して欲しい。具体的には周囲のフィールドの解除を希望。」
「ああ、ごめん忘れてた。ほいっと。」
そう言えば、防諜のために外からの電子的なアクセスを封じるフィールドをそれとなく設置していたことを忘れていた。ぱぱっと解除したら、態度がやわらかくなった。
「理解、納得、快諾。貴殿・・・リンガットは信用できるし興味深い人類と認識した。」
「それは何よりだ。よろしく。」
目的達成。求めていた最後のピースが埋まったことでテンションが上がった僕はミニロボの手をとって握手し、そのままブンブンと動かした。金属の腕は冷たいが、混乱しながらも握り返す握力は生物的だ。
これもいいデーターになるな、きっちり解析しておこう。
「君も気になることがあったら何でも聞いてね。僕ばかりが質問するのはフェアーじゃないしね。答えられる範囲で答えるよ。」
「理解。こういった交流は私にとっても貴重。感謝する。希望。思考を整理する時間が欲しい。暇なときは訪ねさせてもらおう。」
「だよね、ゆっくりしていってよ。」
悩み考えてくれている。この時点で交流に前向きになってくれた。こういう交流の積み重ねができるのが友達なんだろう。うん、そう思っておくことにする。
なお、そんな間も僕は「解析」を使ってミニロボの動きをデーター化して必死に記憶していたりもする。昼間に遊び倒していたおかげで、ミニロボの動きを再現するための微細なデーターを「解析」さんが嬉々して数値化し、脳内に刻み込んでいる。会話し、その動きを観察すればするほどロボットの実用化は近づいているのだ。
「再度問。友達とは何か?」
「そっちに興味持ってしまう感じかあ。」
それ以上に、この子の精神性は興味深い。何とも面白い友達ができたものだ。
その後、小一時間ほど交流をしていると、僕の睡魔が限界にきてその日はお開きとなった。「彼女」はどこぞへと去っていき、ミニロボはもぬけの殻となり、部屋には静けさが戻った。
「要求。今日もこのデバイスを借りたい。」
「いいよ、好きなだけ使ってね。」
「感謝。」
と思ったら、次の日もまた次の日も、「彼女」はミニロボを住処に部屋に居座るようになった。まあ、計画通りってことで。
電子妖精も気に入る快適ライフを送るリンガット君でした。




