17 アフタースペース291 電子な妖精と遭遇しました。
未知の遭遇?
僕の記憶の中には、とんでもなく複雑なロボットゲームがある。40個以上のボタンに複数のフットペダルとレバーなどが連動した専用コントローラーで操作をし、ハッチのオンオフや、ウィンドウウォッシャーなどの細かい操作のほか、転倒した場合は手動で立ち上がらせないといけないというリアル志向なゲームだった。CMとショップでのインパクトに惹かれて購入したけど、最初の機動の時点で操作が複雑すぎて、友人に譲った。
それに比べるとこの世界、もといヨハン博士が基礎設計した操縦システムはシンプルだ。オートバランサーによって機体を立たせる基本姿勢から、レバーやボタンによるコマンド入力によって予めプログラムされたポーズや動きをする。射撃モードや格闘モード、マニュアルモードなどの上級者向けの操作もあるが、基本的には格ゲーよりもシンプルに動かすことができる。
「ああ、また転んだ。重心を高くしすぎたかな?」
コテンと転んだロボットを持ち上げて立たせて、パーツの位置を微調整し、端末でプログラムを組み直す。それから再び前進の指示を出すが、数歩と経たずに転んでしまう。正解のパターンを見つけるまではホント大変だ。
「何を遊んでるですか、リンガット様。」
「失礼な、遊びじゃないよ。研究だよ。」
「いや、この忙しいときに、それは遊びですよ。」
「そんなことないって、必要な研究なんだよ。」
スペースアントの捕獲によって大量の鉱物資源を確保でき、人型ロボットの開発の目途がたった。あとは人任せ、時間が解決となれば楽なのだが、そう簡単にはいかない。
二足歩行ロボットの実用化にはそれを制御するために膨大なプログラムを組まなければならない。
歩く、持つ、走る。人間が無意識かつ自然に行っているこういった単純な動作でも、電気信号によって筋肉を収縮弛緩させて関節を動かし、適切な力加減を実現するという様々な情報が飛び交っている。それらを数値化し、モーターや各部パーツによって再現する。
なんてことは不可能だ。理論で再現にするには必要なデーターが多すぎるのだ。
なので、ヨハン博士の研究は、試作機を作って実際に動かし運用データーをため込むフェイズに入っている。これは他の兵器や機械の開発にも通じるものであり、その試行回数は多ければ多いほどいいい。
「というわけで、これも仕事ってことだよ、ジルオール。遊んでいるわけじゃないんだ。」
「いや、絶対趣味ですよねー。すでに3時間は繰り返してますよ。」
「あれ、そう?」
呆れた様子のジルオールの視線を受けながらもコントローラーを動かす。すると操作に応じて30センチほどの人形がとてとてと歩く。その様子はつかまり立ちから卒業したばかりの幼子のようであるが、そこに愛嬌があって可愛らしい。そんな様子を愛でつつ、卓上の端末を操作して重心を変えて再び歩かせる。そんなことを何回か繰り返していくと段々と歩行が安定してくる。
「なかなか、愛嬌がありますね。」
「でしょ、中身は玩具ってレベルじゃないんだけどね。」
これはヨハン博士に作ってもらった小型ロボだ。基本的な動きがプログラムされた試作機で、見た目は玩具だが、素材にはスペースアントの甲殻を加工したものをはじめとした貴重な素材を使ったハイエンドモデルだ。これだけで中古の宇宙船が買えるぐらいお金がかかってます。
二足歩行ロボットの動きはまだまだ未熟で、すぐ転ぶ。だというのに、プログラム次第で腕立てやスクワット、回し蹴りなんかの動きも再現できてしまう。
正直言おう、めっちゃ楽しい。まともに歩けないのにポージングが色々できるので、色々教え込んでいると時間が溶ける。
「私もちょっと触ってもいいですか?」
「いいよ、なんならも予備機を使う?」
男の子は夢中になるよねー。
なお、そんな様子を見守っているスーザンの視線はちょっと冷たかったけど、気にしてはいけない。
僕だって童心に帰って遊ぶこともある。なんてわけではない。
思った以上に楽しんでしまったけど、予想以上のデーターでヨハン博士にも呆れられたけど、それは副次的なものだ。本当の目的は、このロボットを使って、とある存在をおびき寄せることで、これは仕事であり、計画の範疇だ。
深夜、コロニー内は光源が減らされて、地球の夜のような静けさに包まれる。健康優良児な8歳の僕も、この時間帯には強制的にベットに放り込まれ眠りに落ちる。夜更かしが出来ても10時ぐらい、日付が変わるころには熟睡してしまうのが子供の身体の限界だ。年越しも爆睡してたぞ。
そんな部屋の片隅でミニロボは充電用のスタンドに接続されていた。複雑な動きが可能である分、燃費が悪く定期的に充電しないとならず、充電中にネットワークを通じて収集したデーターの共有をすることで、研究所の仲間と情報を共有し、動きの最適化も行われている。うつむくように座っている姿は暗闇でみたらなかなかに不気味な絵であり、ぱっと見は人間と見間違えそうになる。
ぎぎ。
そんな人型がわずかにみじろく。何も知らない人が見たら、突然動いたようにも見えただろう。だが、動作の最適化の過程で予想外に動くことがあるのでおかしなことじゃない。
ぎぎぎ。
だが、それが立ち上がるともはやホラーである。暗がりで立ち上がったシルエットは最初はぎこちなく、だがすぐに人間のそれと変わらない安定感で数歩歩きだした。
数歩歩いた上で今度は手を持ち上げて、ぐーぱーと開いてその動きを確認してから、充電スタンドとつながっていたコードを外す。
『なるほど。これは興味深い。』
その動作にセリフをつけるならばそんな感じだろうか。あいにくとミニロボに発声機能はないので想像するしかないが、その動きからはどこかウキウキした気配を感じる。
そんな様子はすぐに収まり、人影は周囲の様子を確認するようにキョロキョロと見回し中腰でそろりそろりと歩き出した。まるでいたずらを企む子供のように滑らかな動きのまま部屋の扉へとたどり着き、手をかける。
そのタイミングで、部屋の電気をつけ、僕はベットから這い出した。
「気に入ってくれたようで何よりだよ。」
「!!!!。」
突然の光に顔を隠すようなミニロボ。それは昼間、ぼくが遊んでいたものに間違いない。間違いないのだが、光の眩しさに対して腕で顔を隠す動作は妙に人間っぽい。
まあ、人間ではないんだけど。
「こんにちは。こうして話すのは初めてだから、初めましてでいいのかな?」
「!!。」
警戒させないように友好的に話しかけたが、ミニロボはひるがえって窓へと向かってしまう。その俊敏な動きに姿を見失いそうになったけど。
「捕まえて。」
「はい。」
部屋に控えていたスーザンにあっさりと首根っこを掴まれてしまう。
「!!!。」
ミニロボは驚きに硬直したが、すぐに手足を振り回して暴れた。しかし、おもちゃのようなサイズであるためその手はどこにも届かず、逃げることは叶わなかった。
「落ち着いてよ、君に危害を加える気はない。その証拠にほら、これで話せるでしょ。」
言いながら僕は、ミニロボに携帯端末を持たせてあげる。ミニロボは驚いた様子だがしっかりとそれを掴み、しばし沈黙していたが、それがスタンドアローンな端末であることを知り、がっくりと脱力した。
『問う。私をどうするつもりだ。』
「うん、これで話ができるね。」
端末から聞こえる声に、スーザンが驚くが僕は気にせず会話をはじめる。
『再度問う。私をどうするつもりだ。』
「ちょっとお話したいだけだよ。電子精霊さん。だよね?」
『肯定。私は人間が「電子精霊」と定義する存在だと自認している。確認。私との対話を望む。終了後は解放されるか。』
「うん、いくつか質問に答えてくれたらすぐに解放するよ。それと、そのミニロボが気に入ったなら、持って帰ってくれてもいい。」
『了解。対話に応じる。』
その返事とともにミニロボが顔をあげて、僕の顔を観察する。
どうやら対話のきっかけは掴めたようだ。
人類以外の知的生命体と初遭遇。この後の対話がそう語られることになることを、僕はまだ知らない。
タイトル回収までの前置きが長くなってしまった。
なお、冒頭のゲームは「鉄騎」というゲームがモデルになってます。




