16 アフタースペース291 ロボットの研究は順調です。
ロボット研究なお話。
船くい虫こと、スペースアントの大量捕獲。
この実績はビックニュースとなり、宇宙中に広がった。
ビックツリー周辺で発見されたスペースアントの巣は、近くで新造船の慣熟訓練をしていた領軍によって発見され、即時殲滅された。スペースアントと遭遇して人的被害を出さずに殲滅に成功したことは史上初の快挙であり、領主であるレイウッドは、艦長以下、冷静に対処した軍人たちを賞賛し予算を増加を確約した。
証拠となるアリの死骸や、艦隊砲撃によってアリが倒されていく画像は次々と公開され、軍関係者へのインタビューやアリの生態などについての特番が作られて、連日メディアを騒がせている。
一方で、発見された小惑星群の正確な位置や鉱物資源の埋蔵量、発見方法や討伐方法については一切公開されていない。それはそうだ、宇宙時代において、鉱物資源は土地の次に貴重な物であり、埋蔵量はコロニーの国力に直結する情報となるからだ。確実な管理体制が確立するまでは公開されるわけがない。
『ですから、スペースアントの脅威に対抗するために情報の公開を。』
「あくまで偶発的な遭遇ですし、人的被害がでなかったのは幸運です。不確かな情報で、人々を混乱させたくありません。情報の精査が完了してから公開する予定です。」
『現時点でわかっている情報だけでも。』
「不確かな情報を公開して、無謀な船乗りをそそのかせと?」
他のコロニーからの問い合わせをのらりくらりと交わしている外交官や軍上層部の人達は仕事が増えたと喜んでいます。また、軍の行動履歴から該当地域を探そうとする不審船が増えてしまい、取り締まりも強化されている。
さて、そんな感じで再びビックツリーが活気づく中、僕はといえば、一連の出来事のどさくさで確保したアリの甲殻や鉱物を使って、ヨハン博士とともにロボの開発な日々だ。
今日も視察という名目で、研究所に遊びに来た。
「ロボットや機械をただ自立させるだけならば、頑丈な素材でフレームや外壁を作って固定すればいい。マネキンや彫像のようなものですな。しかし歩かせるとなるとなかなか難しい。」
「猿から人になるのだって何百万年もかかってるわけだし、簡単にはいかないですよねー。」
「そう、それだけの時間をかけて獲得した二足歩行と二本の腕というアイデンティティ。これを実現したのは、人間の脳が作り出した高度なメカニズムと、骨と筋肉という自然素材です。」
「再生、成長する金属なんて存在しませんもんね。」
「その通り、だからこそ、人型ロボットは定期的にメンテナンスが可能が形状であることが望ましい。あとは、二足歩行に必要なバランスや出力などのプログラムは正直データー不足です。」
これはなんとも皮肉な話だ。効率化のために車や飛行機を開発し、機能を特化させることで人類は発展し、宇宙に飛び出すレベルになった。だというのに、歩くという自分たちの行動のメカニズムを再現することは未だにできていない。旧時代から人型ロボットや強化スーツなどの開発は進められていたが、「人型」の再現はあくまで趣味の範囲でしかなく、他の専門機械の研究が優先されていているからだ。
「そこは、試行回数を重ねるしかないってことですね。」
「その通りです。人型サイズの試作機を運用しながら、基礎構造の見直しと歩行システムのプログラムの構築を行っています。今日はその成果を見ていただきたい。」
「これは、また思いきりましたねー。」
サイト40に用意した研究所にて行われる勉強会、という名目の趣味語り。僕とヨハン博士の前には十数体の人型ロボットが並んでいた。そのサイズは1メートルから2メートル。どこぞのネコ型ロボットを思わせる寸胴ボディのものから、ター〇ネーターのようなメカメカしい骨格がむき出しのもの、あとは妙に生々しいボディラインのマネキンタイプなどバラエティーに富んでいる。
これらはデーター収集用の試作機だけれど、デザインの一部には僕の趣味も反映されています。
「さきほどの説明通り、現時点では自立は可能ですが、現状では数歩歩いた時点で転倒する程度の精度です。ですが、データーは共有されているため、すごい勢いで成長しています。」
ヨハン博士がロボットたちを起動させると一斉に歩き出した。
言葉通り最初の数歩は安定しているが、すぐにフラフラとし、倒れたり、片膝をついたりとして立ち止まる。それでも転倒したり仲間に寄りかかったりすることはなく、ゆっくりとだが立ち上がって再び歩き出す。そしてまた数歩歩いてはバランスを崩すを繰り返している。
まるで歩き始めの赤ん坊、泣くこともなくひたすら繰り返す姿はとても微笑ましい。
「すごいね、たった数日でここまで学習したのか。」
「その分パーツの摩耗が激しいですが、資材が豊富なおかげだからこそできるパワーレベリングです。」
「これは夢があるね。最適化も近そうだ。」
こうした積み重ねによって素材やパーツが最適化され、制御プログラムの基礎が出来れば、後はそれを大型化すればいい。というのはヨハン博士の理論であり、原作では4年で実用化に成功している。それも素材や研究資金を求めて各地を放浪としながらだ。安定した環境と豊富な資源があれば、もっと早く実用化できるだろう。
目の前でロボットたちが魅せている光景はそう期待させるに充分なものだった。
「この調子で進めるとして、資金やリソースは足りそうですか?」
「ええ、そちらは充分すぎるほどです。あとはマンパワー、使える人材があれば言うことはないのですが。」
「そっちは追々だね。」
「まあ、研究の守秘のためには致し方ないですな。リンガット様が手伝ってくれると・・・。」
「ごめん、それは無理、僕は僕で忙しいから。」
原作の研究規模は分からないが、ヨハン博士の要求にはできる限り応えている。小規模ながら最先端の設備だって用意してある。その遍歴から偏屈になった博士のために、人の出入りも最低限にしているし、セキュリティーもガチガチだ。
おかげで人手不足なんだよね・・・。
「リンガット様、お時間です。」
「おお、そうだった、それじゃ博士、またね。」
「ええ、いつでもいらしてください。」
課題を確認していたら、スーザンに指摘されて視察は終わる。
名残惜しいが、僕も忙しい。
サイト40の実用化に、スペースアントの巣の発見、積み重ねた実績のおかげでできることは増えたけど、相対的に任せられる仕事も増えてしまった。
8歳の仕事量じゃない?この世界の英才教育を侮ってはいけない。ESPにも覚醒した僕、リンガットの実力を疑う人はもはやいない。
リンガット君の夢は、人型ロボットに乗るためなので、そこに関してはお財布がとても緩いです。




