15 アフタースペース291 危ない事は人任せにして、準備をしておきました。
アリ狩りの裏で、リンガットさんも働いていたよって話。
13あるコロニーはそれぞれに支配者が存在する。そのほとんどは人類が宇宙進出したときのリーダーたちの末裔だ。民主制で運営が行われるコロニーも存在するが、一分一秒が命がけになる宇宙空間において、選挙や話し合いで新しい君主を選んでいる時間があったら、幼い頃から専門の教育を叩き込まれた人材が組織運営をした方が効率がいい。思想や文化になじめないと思うなら他のコロニーに移住するなり船乗りになればいいというのが常識である。優れたリーダー、優れた指示ならばコロニーの人達は従順なのだ。
まあ、何が言いたいかと言うと、現領主であるレンウッドお爺様の孫である僕が、声を掛ければ、コロニーの領軍を動かすなんてこともできてしまうわけだ。
「リンガット様、新兵器の運用訓練の準備が整いました。」
「お疲れ、じゃあ、予定時刻まで第一種戦術待機で、開始のタイミングは僕が出すからね。」
「了解です。よろしくお願いします。」
我らがビックツリーが所有する5隻の戦艦。200メートル級が3隻に500メートル級が2隻。その全部を総動員して、敷かれた防御陣形の中では小型の戦闘艦が所狭しと動き回り、幾重にも特殊なワイヤーを広げていた。蜘蛛の巣のように張り巡らされそれらは直径200メートルほどの巨大な網となっており、その頂点が5隻の戦艦とつながっている。
僕が古い資料から見つけ出したとある兵器。それの運用試験を強権で発動したのである。
「どうですかな、我らが艦隊の練度は。」
「うん、5つの艦隊がまるで指先のように繊細に動いている。君たちの練度の高さと、艦隊の整備具合の高さは感動的だね。」
「ははは、平和すぎて、訓練ばかりですからな。それでもいつでも動かせるように準備しています。」
「その平和が維持できているのは、領軍の日々の活動のおかげでしょ。やっぱり予算の拡充は必須だね。」
「ありがたい話です。」
もともと予定されていた領軍艦隊の定期訓練。そこにねじ込んだ形だったけど、いつもと違う体験に各船の艦長以下、ほとんどがノリノリで参加してくれました。予算の増額とか兵装管理系の新システムの提供を確約したからとかではないよ。
「非効率の極みですな、これは何を相手にしたものなのでしょう。」
「あくまで、金属の耐久実験ですよ。ヨハン博士。隕石や廃船の確保をするとき、この形状は衝撃を吸収しやすいらしいです。」
「資料は拝見しましたぞ。ですが、そもそもにこれほどの規模を用意する必要があったのですかな?夢がないですが、解体用のドローンをつかったほうが効率がいいかと。」
「まあまあ。」
そんな歓迎ムードの艦橋のサブシートに座りながら僕はヨハン博士とその様子を見守っていた。大きさと今後の展開にワクワクしている僕に対してヨハン博士が冷めた様子なのは、網に使われた金属の無駄遣いが歯がゆいのだろう。ビックツリーは鉱物資源が乏しいからね。
それでも、材料の強度計算とか運用装置の開発は手伝ってくれたし、今もここにいる時点で彼も興味はあるのだろうなあ。
まあ、予想通りならのんびりできるのは今のうちだろうけど。
「緊急入電、エリアB517ポイントにてアンノウンと接触した小型船からの救難信号です。」
「このコードは最優先コード? 船は貴族?」
「はいはい、僕の私物だねー。最優先で守ってください。アンノウンは敵だから捕まえちゃおう。」
「サーイエッサー。」
突然の緊急通信にざわつく環境の中、楽しそうに手拍子をして、僕が指示をだし、艦長が大袈裟に答える。ここにきて、多くの船員たちは、そういう訓練なんだと悟り、気を引き締めた。
「な、なにが。」
「まあまあ、この艦橋にいれば安全ですから。」
「は、はあ。」
動揺するヨハン博士も落ち着き払っている僕や艦長の様子を見て席に座りなおす。そうやって準備が済んでいることを確認して、僕はスーザンにこっそり連絡をとった。
残り5分
『リンガット様、あと5分ほどで目標地点に到着します。』
「了解、そっちは大丈夫?」
『問題ありません、船には傷一つありません。』
「そっか、あれならミサイルとかもバンバンつかっていいからね。あと、傷一つなく帰ってくるのはスーザンたちだよ。船なんかどうでもいいから。」
『ありがたいお言葉です。船員含め、無事に帰還いたします。』
最終確認の通信をしつつ、モニターに映された宇宙船の軌道に僕は感心していた。小惑星群から飛び出したアリたちは調査船を包み込んでいたけど、スーザンの的確な射撃によって生まれたわずかな隙間を縫うようにジグザクに飛ぶ船はなんとか包囲網を抜けて合流地点へと向かっている。
まだ距離があるのでレーダーにはアンノウンとして表示されているが、近づいたらきっとおどろくんだろうなー。
「じゃあ、準備してねー。」
「イエスサー。」
残り4分。
命令と共に警備船の間に設置されたワイヤーにエネルギーが通されて淡く光る。エネルギーを帯びた網は銀色に輝き、連動して動く艦隊によって大きくたわむ。形状記憶合金で編まれたこの網は、見た目以上に伸びるし、丈夫だ。
「繰り返すけど、先頭で敵を惹きつけているのは友軍機だからね、間違って攻撃しないように。それ以外のアンノウンは容赦なく攻撃して構わない。この距離でも生体反応がないことははっきりしているでしょ?」
「なるほど、これは気合に入った訓練になりそうです。」
「うん、実戦でしょ。」
「ははは、申し訳ありません。常在戦場、これを忘れては軍人を名乗れませんな。」
ちなみにだけど、いくつかの可能性として、アリの群れと遭遇する可能性は各船の艦長にだけは伝えてある。この時点ではほとんどの兵士たちは、訓練用のドローンか何かだと思っていた。
「総員戦闘配備、戦闘プランは事前通達してあるプランCだ。実弾による射撃に専念し、光学兵器の使用は禁止。繰り返す、実弾による射撃に専念し、光学兵器の使用は禁止だ。」
再度行われる命令と共に、各所で光学兵器がロックされたことが通達される。
残り3分
「な、なんだあれは。」
「船くい虫、まさかそんな。」
「浮き立つな。やることはかわらん。進路そのまま、網で捕まえて包囲する。」
カメラにアリたちの姿が映し出され、その姿に多くの船員たちが動揺するが、艦長の一喝ですぐに収まる。可能性の一つとして準備をさせておいたとはいえ、流石の練度である。
しかしながら宇宙にうごめくアリの群れはシュールな光景だなー。
残り2分
ここに至ってアルさんが操縦している小型船はアクセルを全開にしつつミサイルを周囲にばら撒いた。宇宙に広がる爆発による花火、それは伸び切ったアリたちの群れの目を欺く。
宇宙だと爆発音がしないってのはホントなんだなー。
残り1分
爆発に紛れて、アルさん達の船が網を飛び越える。ギリギリの操舵だったのに、スーザンの通信通り船体に傷一つない。ただ、どこか呪詛めいた絶叫が聞こえるのなぜだろう。
「対ショック防御。総員、衝撃に備えろ。」
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船を追っていたアリたちは次と網にぶつかりつぶれていった。
「機関加速、このまま押しつぶす。」
「各種砲座は適宜、攻撃しろ。」
ぐにゃりと伸びた網はある程度の時点で堅い筒となり、アリたちはまるで吸い込まれるように飛び込んでいく。まるで地引き網のような光景はちょっと面白い。
「あはは、入れ食いジャン。」
加速した状態で網へと突撃したアリたちはその突進の衝撃と後続の仲間によって押しつぶされる。運よく網から逃れた個体も戦艦や戦闘機の銃座によってすぐに排除される。光学兵器の効きにくいアリは確かに脅威であるけど、飛び道具もなければ宇宙船と比べたら速度も遅く、旋回性能も悪い。きちんと準備していればデブリの処理とそんなに変わらない。
釣りだすのがちょっと面倒だったけど、そこはアルさんたちがいい仕事をしてくれた。
「ふむ、これほど大量のアリを確保できた事例は聞いたことがありませんぞ。歴史に残る快挙ですな。」
「やったね。」
網で捕獲できたのは群れの3割ほど。だが、巣から飛び出し縦に伸び切った群れは、砲撃の餌食となっていた。殲滅も時間の問題だろう。
状況が安定してくると余裕が生まれたのか、とヨハン博士が網にみっちり詰まったアリたちの姿に目を輝かせていた。みっちり詰まった感じは気持ち悪いんだけど、あれは鉱物資源の塊と言える。それも数十年ぶりに発見された貴重品だ。丁重に扱ってほしい。
「り、リンガット様、一つお尋ねしても?」
「うん?」
そんな余裕たっぷりな博士と僕に、艦長がそっと近づいてきた。状況がただのデブリ処理レベルに落ち着いたので、その顔にはもう緊張感がなかった。
「船食い虫の存在を知っていたのですか?」
「可能性があるってことはね、そこは事前に打ち合わせした通りだから。」
「ほお。」
「鉱物資源が欲しくて、過去の文献やら記録を読み込んで分析したんだ。そしたら、過去にアリの巣が発見された環境と酷似した小惑星群を見つけたんだ。」
「なるほど。」
まあ、嘘なんだけどね。あの場所にアリたちの巣があることは、原作の知識で知っていた。
「エリアB517ポイント」ビックツリーから逃亡し、宙賊として活動していた主人公たちは消息を絶った密輸業者のお宝を追って、このポイントを訪れ、アリの群れに遭遇する。という話だ。
で、その単語から逆引きしたエリアにある小惑星群の情報を集め、そこにアリの巣があることを確信、直近の艦隊訓練に色々とねじ込んでみた。模擬弾を実弾に、艦隊行動は網の実験するなどは、領主の孫のわがままでごり押してみました。
「いやー予想以上にうまくいったよ。」
「正直、肝が冷えましたな。」
「でも、艦長たちには可能性を説明したよね。」
「正直、半信半疑だったので・・・」
だろうね。記録を見れば直近でアリの巣が発見されたのは40年前、それもビックツリーとはかなり離れた場所にあるコロニーでのことだった。それでも各コロニーにはアリ対策があるらしいけど、これほど本格的な作戦は記録にはない。
「大儲けになってよかった。やっぱりうちの軍人さん達は優秀だね。特に緊急事態においても冷静に職務に全うしている姿は頼もしかった。これはボーナスをはずまないと。」
これには周囲で聞き耳を立てていた他の兵士さん達もにっこり。
「油断するな。エリアを制圧したら、そのままエリアB517ポイントの調査を行う。各員は装備の点検及び外壁の確認を怠るな、虫の一匹も見逃すんじゃないぞ。」
そこで走る艦長の一喝。なるほど、軍人さん達は優秀だわ。原作でリンガットを見限って逃亡したのも納得だ。
その後、エリアB517ポイントは徹底した調査が行われ、生態研究用の数匹を除いてアリのほとんどが駆逐された。ビックツリーは創設以来最大規模の鉱物資源を入手することに成功しただけでなく、アリの養殖によって、恒久的な鉱物資源の生産が可能となった。
木材に続く新たな商材を見つけた僕は、お爺様にめっちゃ褒められ、ご褒美としてサイト40の正式な管理人として認めてもらえることになった。
「坊ちゃん、覚えてろよ。」
「なんのことかなー。」
アルさん以下、スラム組からはめっちゃ恨まれたけど、報酬として貸し出しをプレゼントに変えたら機嫌を直してくれたよ。
白い悪魔が乗っている木馬が260メートル ライバルの赤い彗星が乗っていた船が240メートルぐらいです。500メートル級はこの世界だと最大規模の大型艦です。
宇宙アリのモデルはロスト・イン・スペースにでてくる宇宙くもです。あるいは地球防衛軍。




