12 アフタスペース291 リンガット、パトロンになる。
ロボットものには、博士は必須だよねって話。
ロボットアニメというのは、整合性とかにリアリティを出すために、兵器開発の記録とかメカの設定などが細かく作られているものだ。
ハーモーニーサウンドもその例にもれず、本編では語られなかったロボの設定資料や研究年表などが数多く存在する。
本編のメインとなる「フォルテシリーズ」を筆頭とする人型ロボットの開発が始まったのはアフタースペース290年。地球環境の復元と地球への帰還を目的に研究と開発を行っているこのコロニー「アース」で、地上での効率的な作業機械として、マニュピュレータ付きのロボットが販売されたのが始まりとされている。僕が購入したのがこれ。
そこから4年後のアフタースペース294年に試作機である二足歩行ロボット「サンブラー」が完成し、2年後のアフタースペース296年には武装化したサンブラーによって各地でテロ行為が多発し、それに対抗するためにコロニー各地にロボットが配備されるようになった。
わずか数年で実用にまで至ったのはアニメ的な都合もあるけれど、二つの要素が存在する。
その一つは、1人の天才ロボット工学者だ。
ヨハン・ゼバスティン博士。サンブラーの基礎設計を考案し、巨大化と安定化に成功させ、作中最強である主人公機やディープベースなどの多くの機体を世に送り出した天才である。その功績から、すべてのロボットの父とも呼ばれている。
原作では名前だけが登場しており、資料によると開発のために各地のコロニーを転々とした生活をし、本編開始直前に暗殺されたとなっている。
唯一分かっている明確な足取りとしては、292年から2年ほどコロニービックオーシャンに潜伏していたということのみ確認されている。原作では、その時に潜伏してた研究所に主人公機である「フォルテシリーズ」の強化パーツが隠されていた。構想段階で先に強化パーツを作っていたとかロマンだよねー。
できることならその開発者を手元に置きたいと思っているけど、その足取りはつかめていなかった。コロニー外の情報を得るのは、領主の孫である僕であっても難しいのだ。
「しかし、まさか。」
そんなレアモンスターのような名前を名乗った老人が、僕の目の前にいる。それもすごいいい笑顔で。
「欠陥機と酷評された作業ロボを何台も購入した顧客がいたと聞きましてね、それもマニュピュレータタイプをフルオプションな上に、わざわざ子供向けにカスタムしている。その注文書を拝見した時にピンと来たんです。リンガット様は、私と同類なのではないかと。」
「そうですか。」
ここは領主の館にある僕専用の執務室。数ある応接室を改造した部屋で、最近の働きを認められてお爺様が用意してくれた部屋だ。僕個人に用がある来客はこちらに招くことなっているんだけど。博士の方が貫禄も年齢もあって彼の方が主のようだ。
「ゼバスティン博士。お会いできて光栄です。たしかに博士の開発した作業用ロボを購入させていただきましたが、本日はどのようなご用件で?」
「ヨハンでけっこうですぞ。博士と呼ばれるほどの実績も成果もあげてはおりませんゆえ。」
「ええ、でも博士の論文は面白かったですよ。」
「ほう、私の論文を? たしかにコロニーネットワークに公開していますが、ほとんど見向きもされていない、あれを。」
「『大型作業機械における人型モデルの効率性とその意義』人の働きを延長させた巨大ロボを作るならばその姿は人型、二足歩行であるべきだという学説ですよね。」
「ふははは、これは愉快。私の論文の本質を端的に理解されておられるようだ。」
本物だ。円盤の特典にあった博士の論文の抜粋の原本をネットで見つけたときは感動したものだ。なお、僕が言ったセリフは特典の宣伝フレーズです。
そんなすごい博士から面会のアポイントの連絡が来たときは驚いた。さらに驚いたことに返信してからほぼノータイムで来訪された。おそらくは連絡段階で別のコロニーから、ビックツリーまで移動していたのだろう。ずいぶんとフットワークの軽い老人である。目的が分からなくてちょっと怖い。
「リンガット様は、もしかして、ロボットに憧れがあるのでは?」
「はい。」
「それは素晴らしい。人型ロボットは旧時代から多くの創作物が作られるほど人気なものでした。宇宙に進出した際も宇宙服の延長上として、人型の作業機械の開発が行われていました。」
「強化外骨格やパワードスーツとかですよね。」
「その通りです。ただそれらは、宇宙空間での安全の確保のためであり、サイズは小さく作業用ではありませんでした。一分一秒の遅れが致命的な結果を生みかねない宇宙においては生命維持機能が最優先。宇宙船やコロニーの修繕は専門機能に特化させたドローンのほうが遥かに効率がいい。現時点ではそのような評価です。」
「しかし、コロニーは代を重ねるごとに大型化が進む、内外の作業の効率化を図るにはドローンなども巨大化する必要がある。そうなると、ドローン開発とコロニー開発はイタチごっことなる。となると人型ロボットによる汎用性が求められる時が来る。」
「その通りです。専門機能に特化されたドローンはコスパがいい。しかし、数が増えればその制御が難しくなる。求められるオペレーターの技能や制御システム難易度は高くなる。だからこそ、そのコストを下げるために。」
「人型が望ましい。」
「その通り。人が作り出し、人が使うのならば、やはり人型であるべきなのです。」
人間が何か作業するときは基本的に、自分の両手と両足を使う。車や船などその典型だ。自動運転や安全装置などはあるけれど、F1やボートレースなどの極限場面では人間の繊細な感覚と操作に機械はまだ及んでいない。
じゃあ、船や機械に手足をつければいいじゃないか、そう思う人がいるかもしないが、そう単純ではない。旧時代からの歴史の中でそういった機械やロボットの多くが作られてきた。無限軌道の戦車や、多脚型のロボットにマニュピュレータをつけるなど、様々なタイプが開発された。僕が購入した作業機械もその一つだが、その性能はドローンには及ばないし、乗り心地は最悪だ。腕をもって高度な作業ができるのは、二足歩行を獲得した人類の特権なのだ。
ならば将来的にはロボットは人型タイプが望ましい。というのが博士の持論だ。
「正直な話。私の論文や研究はあまり歓迎されていませんでしてな。件の作業ロボに関しても、マニュピュレータ付きは不人気、ほとんどが返品やキャンセルの対象となってしまい利益は0です。今はデーターとマニア向けの予備があるだけです。いやでしたかな。」
「ふむ。」
「そんな中、不良在庫とも言えるマニュピュレータを大量に購入してくれた奇特な人がいる。どんなもの好きかと思って顧客情報を調べてみたら、なんと7歳の子供。それも13コロニーの領主様の関係者というわけではないですか。」
確かに購入に関しては、僕の個人名義と資産が使われている。ジルオールやお爺様からは無駄遣いをしてと怒られたし、倉庫を圧迫している。それでもやめないのは僕の趣味だからだ。
「直接会って確信しました。リンガット様は私と同じ夢を持っていると。」
「僕も同じ気持ちですよ。」
原作でも変態的な執念をもってロボットの開発をしていたヨハン博士だ。それこそ善悪、敵味方関係なロボットの開発を支援してくれる人間に技術を提供したくそ野郎でもある。最高のロボットを作る、彼にあったのはその執念だけだったのだろう。
「リンガット様、よければ、私のパトロンになっていただけませんか。」
だからって、8歳の子供にためらいもなく土下座するのか・・・。
これが、天才ロボット工学者であるヨハン・ゼバスティン博士との出会いであり、僕と原作リンガットの運命を決定的に分けた分岐点だった。
キャラ補足。
ヨハン・ゼバスティン博士
ロボットものにありがちな、マッドサイエンティスト。原作では登場していなかったですが、リンガットが引き起こした様々な事象の影響で、早々に表舞台に登場した。
名前の由来は、「音楽の父」と呼ばれた、ヨハン・ゼバスティアン・バッハです。




