11 アフタスペース291 原作のメンバーと遭遇しました。
スラムの支援の真の目的は・・・
さて、スラムでの奉仕活動中の僕らに絡んできた彼はなかなかパンチの効いたビジュアルをしていた。
オールバックの茶髪に右目から首の根本までついた痣のような入れ墨、それに負けない眼光の鋭さはその筋の人と思われそうだが、茶色に日焼けした肌は若々しく、年齢もまだ10代だ。纏っているのは、ところどころ繕われたビジネススーツだが、よれたジャケットとワイシャツは肘のところでまくられていて、鍛えられた腕がむき出しになっている。ぱっと見はアウトロー気取りな若者なのだ。
だというに、その着こなしは自然で、かっこよくも貫禄ある者だった。
「お兄さん、かっこいい恰好をしているね。スーツ似合ってるよ。」
「あ、ああ。」
「貴様、リンガット様に対してなんだその態度。」
「どうどう、スーザン、落ち着いてねー。」
イキろうとして、無邪気なノリにタジタジになる。そんなところで人の良さを隠しきれていない。なるほど、この性格は7年前からそうだったのか。あと、僕の斜め後ろに控えるスーザンの圧にめっちゃビビってるのも原作通りだ。
アル・リヴェルソ。スラムに幾つかあるチームを率いる不良の1人で、原作ではテロのどさくさでフォルテシリーズと運用戦艦を盗み出して、主人公たちを巻き込んだ宙賊を立ち上げた張本人だ。ただそれは7年後の話で、現時点では少数で活動するグループのリーダーでしかない。原作の主要人物については、ジルオールに名指しで調査を依頼していたので、大まかな情報はつかんでいたけど、まさか向こうから接触してくるとは思っていなかった。嬉しい誤算に、坊ちゃんムーブにも熱がはいってしまう。
「で、お兄さんは何が不安なの?見ての通り、ここにある物資は、スラムの人達で自由につかってもらっていいんだよ、端末に文書もあるけど、これは公的な政策だから。」
「それであんたに何の得がある、あるんですか?」
「ははは、無理に取り繕わなくていいですよ、僕が8歳のクソガキってのは確かだから。」
「はあ。」
そういえば、スラムの大物と呼ばれる人たちには事前に連絡していたらしいけど、この当時はまだまだただのチンピラだったらしい。
「おい、アル。お前、何考えてんだよ。すいません、こいつまだ若いから色々あれでして。」
「ううん、お兄さんは?」
「あっ、自分はクォータ・ノートって言います。しがないチンピラです。おい、馬鹿アル、お前も名乗れよ。てか、なにいきなり喧嘩腰なんだよ。」
「いや、俺は別に喧嘩なんて。」
「いいから。」
「えっとアル・リヴェルソっす。そこの建物を間借りさしてもらって、日雇いしてます。」
「おい、それは。」
「ああ、やべ。」
アルの行動に周囲が固まっていたが、近くにいたお兄さんが慌ててやってきてその頭を抑え込んで下げさせた。この人もスーツ姿なんだけど、きちんと着ていてネクタイもしている。そのまま街を歩いていたら商社マンとか役人と思われるだろう。顔もなんか誠実で平凡だし。
クォータ・ノート。彼もまた原作の主要メンバーの1人で、アルの組織の副リーダー的なポジションだ。破天荒だがどこか抜けているアルをフォローし、癖のある他のメンバーたちとの仲を取り持っていた苦労人だ。主人公がアルと揉めて家出したときに、呼び戻したエピソードは涙なしには語れなかったっけ?
ちなみに本編では30歳だったので、今は23歳のはず。うーん老け顔だったんだなー。
「あそこのビルってたしか、圧縮酸素の保管庫だったけ?」
「はい、基本的はオートメーション管理ですが、有事の際に人員を常駐させていたかと。」
「なるほど、お兄さんたちはそこの管理人ってことなんだね。」
「下請けの下請けぐらいですが、はは。」
気まずそうに目をそらしながら答えるクォータさんはもう汗でダラダラだ。嘘のつけない人に嘘をつかせるのは気の毒になるなあ。
施設の監視のための人員としてスラムの人間を雇うことは珍しい事ではない。珍しくはないが、非正規であり、非合法だ。コロニー間で締結された国際法では、オートメーション化された施設には万が一のときに対応できるよう有資格者の常駐が義務付けられている。
だが、オートメーションとオンライン作業も充実したこの世界において、真面目に勤務している職員はほとんどいない。委託に次ぐ委託を繰り返して、スラムの住人に住居として提供する代わりに、監視業務を担ってもらうというのが慣習化しているのだ。ただの倉庫でも、常駐するための設備はしっかりしているから寝泊りもできる。スラムの人と職員の利害が一致した結果生まれた、違法行為である。
国際法的には取り締まるべきなんだろうけど、そんな面倒で人気の下がりそうなことを僕がするわけがない。のだが、それが分からないクォータさんは、怯えているのだろう。
「まあ、そのあたりはどうでもいいよ。それに、ただ施しを受けるのではなく警戒し、疑問を持つことは悪い事じゃないと思う。そう言う危機感がある人が近くにいてくれた方が安心だよ。」
「そ、そうか、坊ちゃん話が分かるな。」
「おい。」
「ああ、大丈夫、大丈夫。」
僕はね。
なんかスーザンの不機嫌度がやばいけど、気づかないでおこう。今は彼らを納得させて、安心させることが先決だ。
「そうだね、繰り言になるけど、ここにある物資はサイト40の機能を確かめるために頑張った結果できた過剰生産分だ。市場に出したら商品の値崩れが起きちゃうから、捨てるしかない。」
「売れるなら、売った方がいいんじゃないのか?」
「ありすぎて買ってくれる人がいないんだよ。」
「そうなのか、まあ、確かに俺らもこのグレードには手が出ないしな。」
だろうね、中流階級以上向けの商品だから、スラムの人達からすると手を出しづらい高級品だ。だからこそ、彼らは素直に信用できないのだろう。そうなると根気よく説明を繰り返すしかない。
「豊作貧乏、供給過多ってことですか。でもそれって事前に察知できたのでは?」
「おお、クォータさんするどいねー。うん、過剰分が出ちゃうのは計画段階から予想されてたし、揉めたよ。でも、サイト40は久しぶりにできたフリーな土地だからね。その限界を正しく把握しておきたかったんだ。万が一、ほかのコロニーに問題が起きたときに、どれくらいカバーできるかとかそう言うデーターを取る必要もあったわけ。」
「ああ、クォータでいいですよ。うーん。」
「お偉いさんのすることはわからんな。」
「お兄さんだって、新しい船とか道具がはいったら試しに走ったり、限界に挑戦したくならない。」
「ああ、それは分かる。船の限界操縦の依頼とかも受けたことがあるぞ。」
「おお、お兄さん、船乗れちゃう感じ?」
「小型船限定だけどな。港で船舶整理との仕事もしてるんだ。」
「へー。」
「ちゃんと免許も持ってるし、正規契約だぞ。」
納得しきれない。いや、警戒を解けないといったところだろう。それぐらいの警戒心を持たなければこのスラムでは生きていけない。若くても彼らはしたたかで、たくましく、それで慎重なのだ。
彼らにとっては善意100%、損はない取引なんだけどなー。だって、僕の人気取りのためだし。
「あまり深く考えなくていいと思うよ。何度も言うけど、後で代金を請求したり、変な薬品を仕込んだりなんてことはしてないから。まあ、個々に配るのは面倒なので、分配とかは君たちに丸投げだけどね。こっそり懐にいれるやつがでたり、取り分で揉めたりしても僕たちは助けないけど。あと、ゴミ捨てのルールとかは従ってほしいな。」
この手の支援で一番大変なのは、配給と管理だ。
募金とか被災地への支援で、物を用意することは容易い。
製品の安全をチェックするための機材や保管のための場所はスラムの人達だって持っている。物資はスラム全体で分け合っても余るほどある。
衛生管理のための設備や、ごみ回収のシステムなどはきっちりしている。宇宙という限られた環境下では、トイレの中身ですら徹底してリサイクルしないともったいないからね。
問題は使う側のモラルだけど、そこは「衣食足りて礼節を知る」というやつだ。
「まあ、そりゃそうか。こんだけもらってこれ以上甘えるのはな。」
「そうでしょ、どうせ捨てるなら、食べてもらったほうがいいじゃん。」
「なるほど・・・。」
改めて子供の口から語られたことで、2人は納得したようだ。遠巻きに僕たちのやり取りを見ていたスラムの他の人達も、再び配給に戻っていく。一部やんちゃしそうな気配の人もいたけど、周囲や仕切っている怖い人達が睨みを利かせているので、列は穏やかな物である。
とりあえずは、スラムのルールに任せても大丈夫そうだ。
「さて、僕たちはそろそろいくね。ああ、そうだ。何かあったら連絡してよ。これ、僕の名刺。」
2人に名刺を渡し、返事は聞かずに背を向ける。それに合わせるように役人たちもその場を去っていく。あらかじめ言い含めていたけど、僕のわがままに色んな人が振り回せているように見えただろう。まさしく、坊ちゃん、いやボンボンムーブだなこれ。
「よろしかったのですか。」
「なにが?」
「あの不届き者たちです。態度を諫めなかっただけでなく名刺まで。」
「まあ、いいじゃん、面白そうな人達だったし。」
帰宅用の移動ユニットの中で、スーザンは不機嫌を隠さずに僕に聞いてきた。彼女にとって、リンガットへの不遜な態度も、それを許容した僕の態度も面白くはないだろう。
だが、我慢してもらう必要がある。僕の目的のために、アルを中心とした物語の主要メンバーとは仲良くしたい。芋づる式に主人公の所在もつかめたら言うことはない。
できることならアルと関係者は、あのままスカウトしたかったけど、急いては事をし損ずる。何より、スーザンやジルオール、他の役人たちも納得しないだろう。
「それに、なにかあっても、スーザンがいるからね。」
「御意。」
さて、どうしたものか。僕の言葉に機嫌を直しつつもスラムの方を鋭い目で睨むスーザンの横顔を見ながら、僕は今後の段取りをゆっくりと考えるのだった。
過剰生産分のリソースを利用したスラムへの支援活動は、その後も継続して行われた。
理由としては、サイト40の生産性の維持とそれに伴う過剰生産分の処理のためだ。市場に影響を与えない範囲で生産量の増加と維持それによって向上した売り上げ利益と、スラムの人達の自主的なゴミ回収協力とリサイクル活動によるコストの削減。それによる収支が黒字になることが明確なデータとして示されたからだ。
まあ実際は、中抜きによる儲けで、サイト40の関係者が儲かったからだけどね。
スラムの人達は、色々もらえてハッピー。役人たちは新たな儲けの手段が見つかってハッピー。僕は各方面に恩が売れてハッピー。みんなが幸せになるいい政策と、めっちゃ褒められた。
リンガット「原作の兄貴枠がキターーー。」
スーザン 「リンガット様がゴキゲンで何よりです。」
「スラム」という言葉のわりには、治安も清潔感も良すぎると言われそうですが、宇宙空間なのでそこは徹底しないとコロニー全体が危ういのです。




