92 アフタースペース298 妹ができました。
すっかり仲良しな3人のお話しです。
批判や苦情を聞くのは支配者の義務だ。時代が変わるような新技術や改革を前に、過剰に反応されるのも仕方ないことだ。これまでも順風満帆というわけでもなかった。
だから、自然保護を訴える人々を見ても、俺は割と寛容な気持ちでいられた。
彼らが割と理性的だったこともある。SNSや討論番組で過激な言葉は使うしプラカードを掲げた抗議活動も活発だ。しかし、集会の届け出はだすし、近隣住民への迷惑もかけない。なんなら活動の前後には会場を清掃してくれる。自分を正義の使者と勘違いした一部の例外を除けば、彼らの活動はまだまともなほうだ。
ただ、一つ納得できないことがある。
「というわけで、うちは反対意見が多くてさー。」
「てさーー。」
「そうなのか、ホープでも反対派もいるし、そういう民意はあるが、抗議活動までは起きていないぞ。」
「ないぞー。」
「まじで、思想統制とかしたの?」
「そんなわけあるか。兄上は公明正大だ。自然保護団体とは定期的に話し合いの場を設けているし、対談は公的に記録している。その上で不満はあまり上がってないぞ。」
「うちもやってんだけど・・・。やっぱり文化の違いかなー。」
「かなー。」
「処置無しだな。」
通信画面越しのアニモはやや呆れた様子で首を振っていた。
彼との通信でわかった事実。それは、他のコロニーでは、反対活動が活発ではないことだった。しかも、そのわずかな活動の大半が俺を標的にしているとのことだ。
活動は認めるし、その意義も分かる。だが、俺だけ責められているという事実だけは納得ができない。
「そんなの当然よ。あなたは彼らの意見をスルーして、クジラの再捕獲を計画してるんでしょ。」
「でしょー。」
「まあ、そうなんだけどさー。」
「だから、もう少し慎重になさいと警告したでしょ。」
「でしょー。」
「だな、やはり再捕獲はもう少し情報が揃ってからにすべきだ。」
「やっぱりそうなるよねー。」
「よねー。」
おっしゃる通りです。他のコロニーが慎重な行動を心掛けていく中、俺は宇宙クジラを更に捕獲するための準備も着実に進めてます。俺が特別非難されているのは、それが理由です。
と、今日はコロニーの次代たちの通信対談であるのだが、先ほどから可愛らしい声が混ざっていることにお気づきだろうか。それは主にテティスの映るビックオーシャン側からの通信から聞こえている。
「まったく、優秀なんだか、馬鹿なんだか、まったく困った人ですねーノンラン。」
「ねー。」
先ほどから俺たちの言葉の尻尾を真似していたのは、テティスの膝の上に抱えられてノンランだった。スーザンとジルオールの愛娘である彼女は。ここ2年で成長しずいぶんとおしゃべりになった。侍女服を思わせる服装をして、後ろで髪を縛った彼女は母親に似て美人さんだが、その視線や耳はは何時だってせわしくなく、周囲の言葉を聞いては真似をする。まだ舌足らずで、本人も意味が分かっていない。ただ、それが微笑ましく、そんな様子にすっかりメロメロになったテティスは、実の妹のように可愛がり連れ回しているのだとか。
「リンじゃっとちゃま。」
「うんうん、そうだよ、リンガットだよ。ノンラン。」
「きゃーーー。」
まあ、彼女が可愛いのは俺も同じだ。アビスからの帰り道に訪問したビックオーシャン。久しぶり再会したスーザンたちに紹介されて以来、ノンランは子ども特有の無邪気さで俺に懐いた。ついでだと付き合ったアニモも、彼女の無邪気さにほだされ、仲良しになった。
そんなわけで、3人で通信対談をするようになるとひょっこりとノンレンが紛れていることが増えた。
「ふふふ、ノンランは今日も御機嫌だなー。」
「えへへ。」
2歳になるかならないかのお子様は、モニター越しのおしゃべりにご満悦である。ビックオーシャンの姫君の御膝に座り、ビックツリーの次期領主とホープの若頭を相手にしている。これほどのVIPな待遇をされている幼女に両親はきっと複雑だろう。
だが、俺たちはノンランを自由にさせたし、むしろ積極的に招いた。3人が3人とも、年下の子供との交流が少なかったので、彼女が可愛くてしょうがなかったのだ。もともとこの世界は少子高齢化が進んでいるので、子どもの数が少ない。まして上流階級な俺たちとなれば気楽に言葉を交わせる相手というのは貴重だ。その点、ノンランはリンガットの腹心の娘であり身元は信用できる上に、気楽に可愛がっても問題にならない。家族以外で素に近い姿を見せられる関係。気づけばノンランを中心に3つのコロニーの次代達はそんな素朴な関係が築かれていた。
正直、不安がないわけではない。アニモはラスボスであるゼーレの弟だし、テティスは原作での怨敵だ。今は仲良くしているが、いつ手のひらを返して敵対するかもわからない。いざという時は2人を利用して、敵の裏を探るつもりだ。アニモやテティスにもそういう裏があるだろう。それぞれが自分たちのコロニーに責任をもち、時には厳しい判断をすることもある。
今回の対談も、昨年から続いている宇宙クジラと新型エンジンの取り扱いを決める重要な会議でもある。
「今日ね、ケーキ食べるの。」
「そっかー。」「そうなのかー。」
「うらやましいでしょー。」
ただ、幼女に微笑み、でれでれな俺たちを見て、それが重要な会議だと思う人間はいないだろう。
リンガット「やべえ、かわいい。」
アニモ 「守らねば、この笑顔。」
テティス 「このまま永住させる方法はないかしら。」
真面目な話のつもりが、幼女にデレデレな展開に・・・。次回は真面目に会議します。




