93 アフタースペース298 真面目な話し合いもしてました。
宇宙の現状な話。
人が一番痛みを感じるのは別れだ。そして、それは愛着が深ければ深いほど大きくなる。酒場に居合わせた傭兵の1人が主人公カナデに言い捨てた言葉だ。
「ちょ、ちょっとまってお願い、もう少し、もう少しだけ。」
「だめです、テティス様。ノンランはお昼寝の時間で、今は仕事の時間です。」
「でみゅ。」
母親に抱っこされてお眠なノンランを相手にちょっと涙目なテティスという面白い女を見ながら、俺はそんな原作の名台詞を思い出した。傭兵はホープ側のエースで、数話に渡って主人公たちと激闘を繰り広げ、敗れる間際に、死別した妹の名前をつぶやいて爆死した。詳しい描写はなかったが、彼の過去を匂わせる原作屈指の名台詞だ。
なお、特別な事件とかではない。いつまでもノンランの愛らしさを愛でている俺たちを見かねたスーザンが娘を連れて退室しようとするのを、テティスがダダをこねているだけだ。。
出産前のスーザンなら主の会話に介入するようなことはなかった。テティスだって、人前でこんな子どもっぽい姿を見せることもなかっただろう。やはり幼女、幼女が最強か。
「あれ、スーザン達が職場復帰したら、大泣きするんじゃない?」
「いっそ引き抜きしようとするかもな。ジールオール殿は優秀だし、スーザン殿の強さならホープだって欲しい。」
「あげないよ。」
「わかっている、言ってみただけだ。」
と、冗談はそれくらいにして、俺はスーザンが退室するのを待って、居住まいを正した。
「じゃあ、改めて確認するけど、今回の対談の目的は二つだ。」
そういって左手をゆっくりと上げて指を一本立てる。ここからは真面目な時間だ。
「一つは、宇宙クジラの素材の活用とAエンジンの運用状況の確認。」
「わかっている。資料は準備してある。」
「ビックオーシャンも隠し立ては致しません。」
途端に2人の顔も引き締まる。口調こそ砕けたままだがその目にはノンランの向けていた柔らかさなはなく、商人のように利益を見逃さんとする貪欲さと役割を果たさんとする責任感が宿っていた。2人してその年で、そんな社会人みたいな目をしなくてもいいのに。
「そうだね、じゃあまずはうちから。Aエンジンの稼働限界の記録がまた更新した。並列化による相互作用は予想以上だったよ。」
アコースティックエンジン、通称Aエンジン。いつまでも新型エンジンと呼ぶのもあれだったし、クジラの体組織の活用法を秘匿する意味でも、新型エンジンはそう呼ばれることになった。名付けたのはアンポル博士だ。彼女曰く、エンジンの生み出すエネルギーの波形がまるで重厚なオーケストラの音符のように見えるからだそうだ。
「ホープでも同様だ。従来のエンジンとの並列化は安定しなかったので、バリアや砲弾ごとに独立したエネルギーラインを増設した。小型エンジンだからこそ増設してもスペースが圧迫されない。」
「環境負荷への数値もすごいですわ。下水処理用の撹拌機は3か月で交換していましたが、1年近く使っていても故障1つありません。」
「相変わらずでたらめだねー。」
「ああ、革新というか、もはや奇跡だな。」
昨年の捕獲成功以降、Aエンジンは新しく60個ほど生産できた。アビスはそれらを各地のコロニーに無償で提供し、見返りとして運用データーの提出と今後の開発への協力を求めた。特に捕獲作戦に協力した俺たち3つのコロニーは優先的に10数個のAエンジンが提供された。
うちことビックツリーではミキサーをはじめとした作業機械での運用を、ホープでは戦艦での運用方法、ビックオーシャンでは、水質改善設備をはじめとしたインフラ技術での運用に取り込まれ、その恩恵を受けていた。
結論から言えば、どの分野に置いてもAエンジンを導入すると、従来の何倍もの性能を発揮し、ランニングコストも半分以下という素晴らしく恐ろしい効果がでていた。
「驚異的ですわ。これならどこも欲しがりますわよ。」
「あの男がレガリアと言ったのも納得だな。これだけの効果となれば独占したくなる。」
「そんなことをすれば奪い合いで戦争ですわよ。」
こと、ここに至って2人もAエンジンのすごさを理解し、同時にその恐ろしさを理解し始めていた。新型エンジンは、大金を積んだり、血を流してでも手に入れたいと思える魅力がある。実際に使った経験は、言葉やデーター以上にそれを証明してしまった。
「だからさあ、宇宙クジラを捕まえて、もっと量産しようよ。」
「いや、それは。」
「そこはもっと慎重にしなさいって。」
原作知識でそんなことは明らかだった俺は最初から宇宙クジラの捕獲に前向きだった。エンジンもそうだが、宇宙クジラから採取できる素材にはロマンと可能性がある。今は世論の反対から慎重な各コロニーだが、いずれは我慢できずに宇宙クジラの捕獲へと動くだろう。成功例はないが、闇市場では宇宙クジラの素材を求める声が上がっている。
「エンジンの量産自体も危険だ。数が増えれば管理が難しくなる。」
「そうですわ、万が一でも宙賊に流れたらどれだけ被害がでるか。」
エンジンの量産にも彼らは慎重だった。現状では各エンジンはナンバリングと運用追跡が徹底して行われており、すべての情報はアビスが一括して管理している。それでも不安がぬぐい切れず、メインで運用している3つのコロニーの代表が定期的に対談をしているぐらいだ。数が増えれば管理は難しくなる。そうなればテティスの言うように宙賊に流れたり、危険な兵器開発が行われたりする危険がでてくる。
結局のところ、宇宙クジラの保護というのは建前だ。存在は確かに珍しいが、あれだけの巨体と数だ。多少狩ったところで影響は微々たるものだろう。むしろ、今後も人類が発展し生存圏を広がっていくならば、間引く必要だってでてくるかもしれない。
「仕方ないね、現状維持。情報はお互い隠さない。って方向で。」
「そうなるな。」
「仕方ありませんね。」
出来るならば独占したい。情報や技術で先んじておきたい。正直言えば、一部の技術はいざという時のために手元に隠している。それはお互い様だ。なので、一つ目の議題はいつも通り「現状維持」となった。
もっとも、「現状維持」についてはもっと大きな理由がある。
「それじゃあ、二つ目だけど。」
細かい情報については後で確認することにして、俺たちは対談を進めることにした。
「アンポル博士の居場所について調査なんだけど。」
新型エンジンの真の開発者にして、宇宙クジラの専門家が行方不明なので、研究が進んでいないからだ。
リンガット「イッタイ、ドコ二イルンダロウ。」
アニモ 「ホントダナー。」




