90 アフタースペース297コーダ また預かり知らぬところで評価が上がっていました。
保護者会な話。
(レイウッド・ビックツリー視点)
我が孫は天才だ。孫馬鹿、身内びいきと言われてもそこは譲らん。
幼くして両親に置いていかれた自分の境遇を理解し、その上で己の立場を確保するために必要な事を貪欲に学び、仲間と力を集めていた。
「お爺様の仕事をお手伝いしたいです。」
健気な言葉に嘘はなかったと思う。しかし同時にその目には、確かな野心としたたかさがあった。それは確かな目的意識であり、その言動には実益と根拠が伴っていた。
ただの庶民として生きるのならば正義感や純粋さだけでいい。しかし、人の上に立つ為政者となるならば、足りない。それこそ、孫のように目的のためなら清濁どころか、毒も皿も喰らう覚悟と貪欲さが求められる。
かつて私は子育てを失敗した。幼きころに母親を失った息子に対して、わしは最高ので安全な環境を用意し、出来る限りの愛情を注いだ。望むものは与え、相応しい教育と学びの機会を与えてやった。
それはよくなかった。
恵まれた環境の中で育った息子は、それなりに優秀に育ったが、ESPに覚醒しないというただの一要素によって挫折した。その上で夢想に近い理想に囚われ、理想をさえずるだけの無能になった。そして、最後は、いやそれはもう語るまい。
その経験があったからこそ、わしは孫には愛情を注ぎつつも領主としての厳格さを忘れずに過ごそうと思った。まあ、それを気づかせてくれたのも孫の言葉であったのだが・・・。
ともあれ、孫が学ぶ中で間違ったことは間違っていると厳しく言うつもりだったし、もしものときは、切り捨てるつもりでもいた。
だが、孫の才覚はわしの期待以上だった。過去の資料から長年放棄されたサブコロニーを復活させ、物流のシステムを改革して収益を増やした。それでいてその利益を1人占めするのではなく、既得権益を脅かすのではなく、儲けさせることで味方を増やした。それでいて欲深な者に更なる利益を貪欲に求める者や、幼さから彼を利用しようとするものは排除した。
そして、今回も宇宙クジラの捕獲という、史上初の快挙を成し遂げた。
「レイウッド卿、娘からも報告がありました。リンガット卿が宇宙クジラの捕獲に成功した上に、新型エンジンの量産体制を整えたと、また一つ、人類の歴史を進められましたね。」
「いえいえ、今回は4つのコロニーが協力したからこその成果だと。未知の危険に投資された、ドーリス夫人の決断のおかげです。無論、ゼーレー殿、ホープの御尽力があってこそです。」
「そう言っていただけると、この若輩者にも面目が立つというものです。ですが、あえて言いましょう、お孫様、リンガットは素晴らしい。彼と同じ時代に生きていることを私達は誇りに思いますよ。」
「そうか、孫は天才だからな。」
通信モニター越しに口々に賛辞を上げるのは、ビックオーシャンの重鎮であるドーリス夫人と、ホープの現領主であるゼーレ・ホープという若者だ。今日は今回の偉業を報告を受けた領主たちによるトップ会談だ。孫を含めた当事者たちは知らないが、今回の一件は影響が大きすぎるため事前と事後にこうして我々、領主たちが直接打ち合わせをしていたのだ。
まあ、中身はそれぞれが送り出した若者たちへの賛辞なのだが。
「孫いわく、ホープの測量による狩場の設定と操艦技術、ビックオーシャンの持つ海洋生物への知識によるクジラの行動のシミュレーションがあったからこその成功だったとか。お互い、若者の活躍には驚かされてばかりですな。いや、ゼーレー殿たちですかな、次代が育つのは、年寄りには眩しすぎる。」
「いえいえ、私もそろそろ息子や娘に任せて引退するつもりですし、お気持ちは分かりますわ。」
「レイウッド卿にそう言っていただけるとありがたい。弟のアニモは優秀なのですが、立場や性格からか、一歩下がりがちでしてね、今回は友人であるリンガットと一緒だったのもあったから、積極的に艦隊の指揮をしていました。とてもいい経験させてもらいました。友人というのはいいですな、私もリンガットと同世代だったらと弟が羨ましく思うことがあります。」
「ふふふ、ゼーレー様だって、まだまだお若いじゃないですか。」
「そうですな、わしから見れば、お二人もまだまだお若い。」
それぞれのコロニーの若者がどのような報告をしていたかは知らない。だが会話の内容から3人の若者がお互いを好意的に思い、信頼して協力していたことは分かる。それを為したのが孫の人徳によるものだというのは、この場の3人に共通する認識だ。
そもそも、今回の1件は我々にとっても未知な事が部分が多かった。アビスは独自のシステムとルールで生きている。これは良く言えば独立独歩だが、実際は秘密主義で得体のしれない連中だ。人によってはアビスの人間をエイリアンと呼ぶことがある。それが大々的に技術協力を要請し、孫に至っては最高機密である研究船の内部に招待され、エンジンの基礎技術まで公開された。
孫の恐ろしいところは、その情報をあっさりとホープとビックオーシャンに流して協力を求めたことだ。詳細についてはまだ報告を受けていないが、新型エンジンの情報は今後のコロニー間のパワーバランスに影響するレベルのものだ。使いようによっては、アビスとビックツリーが13あるコロニーのトップに立つこともできるかもしれない。それが火中の栗を拾うなんて言葉では表せないほどハイリスクなことを覗けばだ。
「リンガット卿のおかげで、技術をアビスが独占するという事態は避けられました。」
「そうですね、今後どれほどのエンジンが生産できるかも含めて慎重に話し合う必要があります。万が一にも宙賊や裏組織に流れてしまったら脅威です。」
「そうですな、まずはアビスを含めた4つのコロニーで詳細をまとめ。今後はコロニーで協力してその管理を行っていくべきかと。」
「ビックオーシャンとしても同意見ですわ。これは人類が共有すべき新技術です。」
「ホープとしても、野蛮な力として振るわれないなら、致し方ないと判断します。」
「では、基本方針はそのように、後は報告待ちですな。」
今回の新技術はあまりに革新的だ。あらゆる機器や基幹技術を根本から変えてしまう可能性がある。宇宙クジラから採取できる素材の他の可能性も含めて、個人やコロニーが独占していいものではない。今回の会談の目的も今後の扱いについて話し合う場面だ。
幸いなことに、ドーリス夫人もゼーレーも表立って独占しようとはしていない。この場で4つのコロニーによる独占なんて提案されていたら、疑心暗鬼になっていただろう。
だが、そんな場面でこそわしのESPは役に立つ。
「まあ、今は若者たちの活躍を讃えましょう。」
「そうね、功労者たちがどんな判断をするか見守るのも手でしょう。」
2人の言葉に嘘はない。だが油断もできない。こういう腹黒いやりとりを孫に任せることは、まだできない。この場に限ってはゼーレが驚異的なだけで、経験がものをいう。
やれやれ、バカ息子の駆除をもって、自分の仕事は終わりと思っていたがわしが引退できるのはもう少し後になってからのようだ。
「大丈夫でしょう、孫は天才ですから。」
孫馬鹿の好々爺。その仮面をかぶり、わしは2人の妖怪と気の抜けない会談を続けるのだった。
(リンガット)
「へっくしゅ。」
「おや、風邪かな、リンガット。」
「いえ、大丈夫です。誰かが噂でもしてるのかな?」
「ははは、君のことを噂しない人間など、いるわけがないじゃないか、リンガット。」
「まあ、これが終わったら、少し休みます。」
身震いとともに大きなくしゃみをしてしまった。その気恥ずかしさとともに、自分たちがここ3日ほど徹夜だったと気づく。うん、これは夢中になってしまった。気をつけないと。
歴史的な大発見を前に色々と盛り上がってしまったわけだけど、一番の目的を忘れてはいけない。宇宙クジラは確かに希少な標本ではあるが、目的はそこから採取できる新元素であり、新型エンジン量産だ。
「新元素は、宇宙クジラの内臓と思われる組織の内用物だ。それが消化物なのか、胃液や血液のような体液なのかはまだ分かっていないんだよ、リンガット。」
「見た目は卵ですね。」
「・・・確かに。」
そんなわけでその内臓とやらを最優先で摘出し確保したわけだけど、なかなかに気味の悪い物だった。
銀色の光沢のつるっとした卵のような楕円形。サイズは2トントラックほどで、入口と出口と思われる管は生物的なピンク色だが、血管のようなものはない。まるでSF映画に出てくる謎動力そのもので、摘出される瞬間を目撃してなかったらそれが宇宙クジラの内臓だとはだれも信じないだろう。
まあ、見た目はどうでもいい、大事なのはそのサイズと新元素をたっぷりと含んだ青い液体だ。これだけあればどれだけエンジンが作れるだろうか。
「うむ、これだけあれば50機は確実だな。生成法が見つけられればそれ以上も行けるぞ、リンガット。」」
「なんなら、もう一匹捕まえますか。」
「いや、それはどんな影響があるか分からないから様子見だ、落ち着け、リンガット。」
必要なら狩り尽くす覚悟だが、アンポル博士に否定された。それどころか正気を疑われていないか、これ?本気なんだけど、なんならビックツリー艦隊単独での捕獲計画も練っているぞ。
それはともかく、現状では50機。そうなるとビックツリーが確保できるのは10機ぐらいだろうか。それでも原作の主人公組よりもはるかに多く確保したことになるわけだが、どうしたものか。
レイウッド「孫は天才。」
ゼーレ 「弟は優秀。」
ドーリス夫人「娘はまだまだだけど、将来性はありますわ。」
その後、親馬鹿による若者自慢が繰り広げられたことを、リンガットは知らない。




