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渡辺さんは少女ですが?  作者: ペロキシダイズドエーテリック


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6/9

渡辺さんは事件に巻き込まれますが?その2

渡辺はクローゼットから出てきた和田をそっと抱きかかえる。


和田にまかれた結束バンドは和田の手足を強く締め付けていて、うっ血していた。

「大丈夫です。今外します。」と渡辺はバンドとタオルを丁寧に外しながら

和田に話しかける。

和田の意識は朦朧として、渡辺の存在だけは認識できているようだった。


「…なぜ…。」

和田の父親は、和田の場所が暴かれたことに多少の驚愕を示した。


「…ちゃぶ台についていた血の跡が新しかったので。あとは…私がとっさに隠すとしたらここだな、と思いまして。インターホンを鳴らしてもなかなか出られなかったのは、和田さんをとっさに隠すためだったのでしょう?…まぁ、ほとんど勘です。」

こともなげに渡辺は言った。


「虐待防止法…いや、ここまでくれば暴行・傷害罪、監禁罪の方でしょうか。いずれにせよ、あなたが和田さんに行っているのはれっきとした犯罪で…」





毅然とした態度で渡辺が言い終わる前に、和田の父親の回し蹴りが渡辺のわき腹に刺さる。

とっさに腕でガードをしたが、渡辺は衝撃を抑えきれず、ガラス張りのドアに衝突した。

「うっ…――――ぐっ…!」

腕と腹部に伝わる鈍い痛みから、声にならない声でもだえ苦しむ渡辺。


「ひよりがっ!ひなたにぃっ!ならねぇからっ!!だから!!ひなたをっ!!!」

和田の和田の父親は容赦なく、倒れた渡辺に追撃の蹴りを何発もいれながら、

泣き声交じりで叫んだ。

蹴られるたびに、渡辺は小さく呻いた。


「や、やめてっ!!父さんっ!」

和田が和田の父親を制止しようとするが、すぐにはねのけられてしまう。


「まったく…なんでこんな……ガキ相手にっ…!ひなたはっ…!!ひなたはぁっ!!!だからっ…俺が!!ひなたにして……!!」

和田の父親は嗚咽交じりの声で支離滅裂な言動を繰り返す。


和田の父親は渡辺から立ち返ると、

倒れている和田の頭髪をつかみ、無理やり立ち上がらせた後に、拳を振るった。

和田はもはや、声さえ出さずにゴミ袋の山へ倒れこむ。

部屋の中は、ハウスダストが雪のように舞い散っている。


その雪を見て、渡辺は腹部の激痛よりも強く無力感を痛感していた。

あぁ、私って、子供って、こんなに弱かったんだ、と。

大人の自分が和田を助けなくてはと渡辺は考えていた。

でも違った。

今はもう渡辺は大人じゃない。

ただの非力で、庇護されるべき、弱弱しい子供の一員。


「やだ……やめてよ…」と和田の悲痛な小さな嘆きが響く。

それでも渡辺は、ただ床にうずくまることしかできない。


「誰か……助けて…」

無理だ。誰も助けてくれやしない。

いくら泣いたって、状況が良くなりはしない。

いくら痛がったって、誰も同情の目を向けてはくれない。

昔からそうだった。誰も自分以外の人間に、見向きなんてするわけない。

渡辺は過去を回想しながらそう思った。




『ナオのこと、ずっと見ているからね。』

聞いたことのある声が、渡辺の脳裏をよぎった。


『つらくても、うまくいかなくても、どんなに格好がつかなくても、あきらめないで。』

誰の声だったか、そこまでは渡辺にはわからなかった。

だが、渡辺が再起するのには十分だった。





「…うん。……見てて。」

渡辺はなんとかして再び立ち上がり、和田をつかんでいる和田の父親へと立ち向かっていく。


「なんだよ、お前。」

「……渡辺…です。」


和田の父親は和田を投げ飛ばし、代わりに床に転がっていた出刃包丁を手にした。

「そうか。」と一言だけいうと、和田の父親は渡辺にむかって全力で突撃してきた。


それに対して、渡辺も全速力で突撃する。

渡辺に刃物が突き刺さろうかというその刹那、渡辺は身をかがめ、全身を使って和田の父親の足をすくった。


突撃の勢いそのままに、和田の父親は頭から床に激突する形となった。

「いっ――――!がぁっ…!」

和田の父親は顔面を覆い隠して痛がっている。


その隙に、渡辺は和田の手を引き、リビングを抜けて玄関から裸足で逃走することに成功した。

裸足でいる彼女らにとって、アスファルトの地面は走っていると足に食い込んで痛かったが、気にせずに走り続けた。


しばらく走り続けて、渡辺と和田は小さな公園にたどり着いた。

渡辺はベンチに座り込むと、ポケットから携帯電話を取り出し、余力を振り絞って110と打ち込み、発信ボタンを鳴らした。


「もしもし…。はい、事件です…。児童が暴行を受け……」

携帯電話を持っている腕がだらりと垂れさがり、手に持っていた電話は手から零れ落ちた。

もう渡辺は限界だった。

次第に渡辺の視界にぼんやりと霞がかかっていく。


全身の力が抜け、渡辺はベンチから転がり落ちるように倒れた。


「渡辺さん?渡辺さん!!渡辺さん!!!」

和田が渡辺を呼ぶ声がするが、もはやそれにすら応えられない。

渡辺の意識がどんどん闇へと沈んでいく。


渡辺は、気を失った。

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