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渡辺さんは少女ですが?  作者: ペロキシダイズドエーテリック


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5/9

渡辺さんは事件に巻き込まれますが?その1

和田の全身には惨いほどの傷跡があった。


裂傷、打撲、火傷、あざなど様々な傷で、

体の色は青や赤、ひどいところでは黒色に変色していた。

新しい傷もいくつかあり、白い下着に血の赤がぽつりぽつりと

目立っていた。


「和田さん…その傷って…。」

震えた声で渡辺は聞いた。


「ん?あぁ、これ?ちょっとねー。転んじゃったの。

私スポーツとかよくやるから、その時にできたのかも~。」


和田の声の調子は変わらず、そう返答した。

嘘だ、と渡辺は明らかにそう思った。

ただの擦過傷、擦り傷等で済んでいるならばそれで納得しただろう。

だが背中にある、ばっくりと開いている切り傷や、

肩から腕に広がる火傷の跡は、明らかに

運動をしていてできるような傷ではない。


児童虐待、その言葉が一瞬頭をよぎる。


「そうなんですね。」と渡辺は言い残すだけで精いっぱいだった。


結局、渡辺は体育の授業でペアを作る際に余ることはなかったが、

そんなことには一切気が回らなかった。

なぜあんな傷を抱えても、あんなに笑っていられるのだろう。

どうして誰にも言わないのだろう。

それだけが渡辺の頭を支配していた。



その日の夜、渡辺は夕飯の調理をしながら、

今日あったことを思い返していた。

和田はなぜだれにも相談しないのか。いや、相談できないのか。

自分の親が自分を傷つけているなんて認めたくないから?

自分の親を犯罪者にしたくないから?

今ここで私が誰かに相談したとして、それを和田さんは

喜ぶのだろうか…。


「渡辺さん!醤油入れすぎ!!肉じゃがしょっぱくなっちゃう!」

陣の一声で渡辺ははっとして、手元を見ると漆黒のしょうゆに染まった

暗黒肉じゃがが完成しようとしていた。


「あぁっ!どうしよ…。こういうときはだし汁とお酒で中和を…!」

渡辺が白だしと料理酒をとろうとすると、短い身長を補完するために設置した

台座から崩れ落ち、ドンという音とともに全身を床に打ち付けた。

「いっ…―――!」


「渡辺さん!?大丈夫っすか?」

「あはは…。やっちゃいました…。」

「なんか悩んでたんすか?」

「……いやぁ、友達って難しいなぁって…。」


結局、渡辺が陣にこのことを打ち明けることはなかった。

和田の家庭事情にそもそも首を突っ込むべきではないと分かっていたし、

きっと和田もそれを望んではいないはずだとおもった。

そもそも、虐待なんてなかったのかもしれない。

そう自分に言い聞かせて、渡辺はその日を終えた。



翌日、渡辺と和田はいつも通りだった。

「でさー、父さんが上司の飲み会参加しろっていう圧が強くて困るって~。」

「あぁ、そういう同調圧力ありますよね。」

「えっ?なに!わかっちゃうかんじ!?」

「あっ、いや。私のお父さんも同じような感じで。」

「へぇー。きぐーだねぇー。」


和田は相も変わらず明るくふるまっている。

しかし、渡辺は和田の首に新しくできたあざの存在に気付いていた。


…もし、もしも和田さんが傷つけられているのなら、助けられるのは私だけなのではないか。

大人の私が何もしなくてどうするのだ。私が和田さんを助けなければ。

渡辺は使命感と正義感に駆られた。


「…あれ?渡辺さん聞いてる?」

「うん…。あの和田さん。突然だけど今日、和田さんのおうちに遊びに行ってもいいかな。」

渡辺の目はまっすぐ和田を見つめていた。


「えっ?私んち?まぁ…多分大丈夫だと思うけど。」

「じゃあ、今日の午後3時とかで大丈夫?」

「おっけー。じゃあ父さんにも伝えなきゃね!」


渡辺は、和田を放っておけなかった。

大人の自分が助けなくてはと思ったから。そしてなによりも、渡辺は和田の傷になぜか親近感とでも言おうものを感じていたから。

しかし、この行動はやがて危険な事件へと発展していくことになる。



その日の午後三時、渡辺は和田家のインターホンを鳴らした。

和田の家は一軒家で、

もともと学校からほど近く、登下校路の途中にもあったので、

渡辺も自然と覚えていた。


二度三度インターホンを押し、六度目でやっと家のドアが開いた。

家から出てきたのは、体格のいい男性で、服装は寝間着一貫、

無精ひげを生やし、清潔さのかけらもないような男であった。

おそらく、和田の父親だろう。


「大変お世話になっております。わたくし、和田ひよりさんのお友達を

させていただいております、渡辺と申します。

本日は御宅にお招きいただきまして、

誠に有難うございます。」

渡辺はつらつらと社交辞令を並べた。


「…おう。随分ませた奴だな。()()()は今いねぇよ。」

「左様ですか。ひよりさんはご在宅ではないのですね?」

「ん?あぁ。なんだったら中で待ってるか?」

「…では、お言葉に甘えまして失礼いたします。」


渡辺は和田の父親と思われる男に促され、家に入った。



ドアをくぐった瞬間、渡辺はおもわず鼻をつまみそうになった。

家じゅうにはゴミ袋が散乱してあり、鼻をつんざくような腐臭が

広がっていた。


これで「素敵なお宅ですね」とでもいえば皮肉になってしまうと思うほどだった。

渡辺はリビングに通されると、そこには一つだけちゃぶ台があり、ごみ袋が

端へと寄せられていた。


()()()は今…学校に忘れ物を取りに行っていてな。」

「…そうでしたか。」

渡辺はきょろきょろと観察するように部屋の中を見渡した。


「そんなに何かを気にして、どうした?」

「いえ。ひよりさんはいつもお父さんのお話ばかりで、おうちのことに関してはあまり話が上がってこないものですから。」

「まぁ、あいつらしいか。」


間違いない。こいつは父親であることを否定しなかった。

渡辺はついに、確信を持った。


「ところで、ひよりさんは今どちらへ?」

「あぁ?()()()なら…」

「いえ。ひよりさんです。和田ひより。」

「……ひよりなんて奴は、うちにはいねぇ。」

「そうですか。」

そう言うと渡辺は父親が制止しようする前に、

背後にあったクローゼットを開いた。



そこには、両手両足を結束バンドで縛られ、

タオルを猿轡のようにして口をふさがれ、

頭から血を流している和田ひよりがいた。

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