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百虫少女  作者: ホロウ・シカエルボク
終章 優しい悪魔たち
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玲奈の父親の死から二ヶ月が過ぎた。由佳は人探しの仕事と、復讐の仕事をひとつずつこなした。もしかしたら自分は、自分が生きるための理由を作ろうとしているのかもしれない。足元に転がる死体の感触を感じながら、由佳はそんなことを考えた。仕事が終わってからは数日、ランと温泉に出掛けた。由佳が帰って来てから初めての二人の旅行だった。帰るなりいろいろとあったもんね、とランは笑った。

「どうよ、久しぶりの温泉は。よかろうが。」

地元のジジイか、と由佳は突っ込んだ。帰宅してから数日、そろそろ吉田と次の仕事の段取りでも決めようかとオフィスで伸びをしていた時、ドアがノックされて玲奈が現れた。制服姿で花束を持って。卒業式か、と由佳は思った。

「おめでとう。」

「ありがとうございます。」

「コーヒー飲みます?」

「あ、いただきます。ミルク多めで。」

「承知しております。」


母がホームに入ることになりまして、と、玲奈はコーヒーを飲んでから近況を話し始めた。

「それで、卒業早々、なんか割のいい仕事を見つけなきゃと思ってるんですよね。」

おっと、面接かい?と言いながらランが入って来る。

「窓から姿が見えたものでね。」

玲奈はランに挨拶をしてから、話に戻った。

「それで、もしよければこちらで雇っていただければと…。」

うぅむ、と由佳は考え込んだ。仕事そのものに手伝いは必要無いのだ。

「吉田さんの仕事、玲奈ちゃんに回せばいいんじゃない?あの人最近町内会長みたいになってるから。そっちのほうだけでも凄く忙しそうよ。」

そうなんですよ、と言いながら吉田が入って来る。

「お前ら全員勝手に入って来よんな。」

「姉さん今日もツッコミ冴えてますねえ。」

「コンビみたいな空気を積極的に作るな。」

玲奈は楽しそうに笑う。そう言えば玲奈の緊張をほぐしたのはこんな会話だったな、と由佳は思い出す。それから吉田に、コーヒー飲む?と声をかける。あ、自分でやります、と吉田。それが一段落して、会話が再開される。

「そんな忙しいの?街の仕事。」

雑用ですけどね、と、吉田。

「古い商店街ですから、直そうと思えば幾らでも直せるんですよ。なんかこう…なんですかね、この前の祭り以来、なんか凄くそういうことが気になるんですよね。」

そう言いながら吉田は照れ笑いをする。ジムに通い始めた当初の島田さん思い出すなぁ、と由佳は思う。

「それなら問題ないわね。じゃあ、玲奈、いつから来れる?」

「いつからでも。」

「オッケー。じゃあ吉田、明日から私たちの受付の仕事、玲奈に引き継ぎして頂戴。街の用事が済んでからでいいから。玲奈、9時からでいい?」

はい、と玲奈。

「吉田が来るまでは掃除と待機ね。困ったことがあったら内線鳴らして。私かランのどっちかは居るから。もしもの時の為に、吉田の番号も聞いておいて。」

「わかりました。」

「一応言っておくけど、綺麗な仕事じゃないわよ?」

いまさら何言ってるんですか、と玲奈は笑う。その時、由佳の携帯が鳴る。

「はい?」

「あゆみです。お久しぶりです。」

「あら、どうしたの?」

「ふふふ。お二人にプレゼントがございまして。」


それから数時間後、由佳とランは蜘蛛の糸で編んだ籠にあゆみと玲奈を乗せ、姿を消して懐かしいルートを飛んでいた。あゆみは詳しいことは話さず、スマホで目的地を示しただけだった。由佳もランも、一発でそこがどこか理解した。こんなこと前にもあったな、と由佳は思い出していた。あゆみは2度目でリラックスしていたが、玲奈はおっかなびっくり、なんですかこれ、なんですかこれと何度も呟いていた。あゆみはそんな玲奈を見てふふふと笑いながら、何事も慣れよ、とアドバイスした。なんかこの人も普通じゃない感じするな、と玲奈は深呼吸した。目的地が近付いてきた。そこの階段の上に下りてください、とあゆみが由佳に言う。二人はゆっくりと籠を下ろし、それから着地する。

「この坂にあった木はどうしたの。何なのこのリゾート感がもの凄い階段。」

「木は伐採してもらいました。それから階段を設置してもらいました。急傾斜でも楽に降りることが出来ます。少々の崖崩れなどでも影響を受けない強固な工法で作られております。」

「あ、はい。」

さあどうぞ、とあゆみが階段を手で示し、三人を促す。のんびりと景色を眺めながら、階段を降りた三人が目撃したのは、完璧に再現された新築当初の研究所だった。さすがの由佳とランもこれには驚くしかなかった。ポカーンとした二人と、まだよくわかっていない玲奈を尻目に、あゆみは解説を始める。

「ここを手に入れたのはまったくの偶然だったんですよ…私あのお寺を買いまして、もうそっちに住んでいるんですけど、同じ会社がここを扱っていたんですよね。これ絶対お二人が以前話してたところだよなぁ、と思ったんで、例の事件で物件が浮いたところに飛びついたわけです。それから研究所についてメチャクチャ資料を集めましてですね。図書館で古い新聞のデータとか見まくって、当時この物件を手掛けた会社なんかにも掛け合って、このように完全再現に至ったわけです。」

由佳がわなわなと震えながら、あゆみを振り返る。

「それでお前は、くれるというのか?私たちにこの家を…?」

「はい。」

「ただで…?」

「はい。プレゼントです。」

そして三人はそれ以上語らず、アメリカ人のように熱いハグを繰り返した。いいシーンなのだろうか、と、取り残された玲奈はぼんやり考えていた。




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