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由佳が鋭敏な聴覚で二人組の男が仕事の話をしながらこちらに歩いてくるのを感知した。由佳は玲奈に寄り添い、行くわよ、大丈夫?と聞いた。玲奈の顔は涙に濡れていたが、どこか清々しい表情にも見えた。力強く頷き、由佳とランについて路地を出た。十分ほどして、二人の男が玲奈の父親を介抱している様子が由佳とランには聞こえていた。
「病死で処理されるわ。まだ浮腫が残っているから。あの人たちが証言してくれる。」
結構イチかバチかだったね、とランが由佳に言う。まあね、と由佳は答える。
「でも、誰か通りがかるようなら私が姿を消せばいいだけだし。」
「なるほど。」
「誰かが彼を見つけたときに、アナフィラキシーの症状が残っていることが重要だった。自然死なら誰も傷つかない…そうでしょ?」
玲奈は、二人が自分の為に動いてくれたことに心から感謝していた。父親を失った悲しみよりも、もう殴られないで済むんだ、という気持ちの方が大きかった。
「本当にありがとうございました。父のことが落ち着いたら、母親に本当のことを話します。あ…父に殴られてたっていうところだけですよ。」
由佳はニコッと笑って、わかってるわ、と答えた。二人は駅まで玲奈を送り、玲奈は丁寧に二人に一礼した後、手を振って去って行った。
「可愛いわね。ずっと顔に張り付いてた影がどこかへ行っちゃった。」
由佳は黙って玲奈の後姿が見えなくなるまで見送ってから、こう言った。
「どれだけ苦しんだんでしょうね。初めて息をしてるみたいな顔して。」
その日の深夜のニュースで、玲奈の父親のニュースが少しだけ流れた。由佳の思惑通り、自然死とみられているようだった。けれど、二人の気を引いたのは、その後に流れたニュースだった。
「取り壊し予定の廃墟から数体の白骨だって。」
「製薬会社の研究所跡…絶対にあそこね。」
あまり長いニュースでは無かったが、その後二人でネットニュースを漁ってみると、もう少し詳しい話を知ることが出来た。どこかの金持ちが酔狂にもあの場所を気に入って、別荘を建てる計画を立てたらしい、が、現地調査の時点で周辺からごろごろ白骨が出てきたため白紙に戻った。
「SNSの情報だから真偽のほどは定かじゃないけど。」
「ネットだから嘘だっていうのも浅はかな話ではあるわよね。」
「まったく。」
「どうなるんでしょうね。まあ、建物はどっちみち壊されるだろうけど。」
「寂しいですね。」
「本当ですね。」
そんな話をしていると玲奈からの電話が鳴った。
「由佳さんの言う通りでした。父は帰宅途中になんらかの原因でアナフィラキシーショックを起こし亡くなったと。いまは病院です。これから家に帰ることになると思います。今日はありがとうございました。改めてお礼が言いたくて。じゃ、おやすみなさい。」
おやすみ、と由佳は電話を切った。
「こんなこというのはなんだけど…やりがいのある仕事だったわ。」
「あら、お金取るつもり?」
パフェでも奢ってもらって終わりよ、と由佳はおどけた。パフェ似合わんなお前、とランは突っ込んだ。




