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こんなことになんの意味も無いわよね、と由佳がようやく帰った自室で、ランと夕食を取りながらそう言った。こんなこと自体にはね、とランがパスタを頬張りながら返す。
「と言うと?」
危機管理能力、とランは仲見の言葉を拝借する。
「あなたはこれで以前よりも安全な場所に自分の家族を導いた。」
家族、ねえ。
「家族なんて柔らかな印象の人たちじゃないけどね。」
「ファミリー?」
「同じや。」
まあとにかくさ、とラン。
「意味か無意味かなんて、渦中にいる時は気付けないものだわ。あとあと見返して、あれはああいうことだったのかとふっと腑に落ちる。経験なんてみんなそんな感じなんじゃないのかな。」
「ふっと腑に落ちる、って言いたかっただけでしょ、あなた。」
ランは親指を立てる。由佳は肩を竦める。それから少しの間、黙って食事を取る。
「この前ここに帰って来てからずっと考えているのよね。いつまで人の社会の中で暮らすべきなのかって。」
「あんまり堅苦しく考える必要はないんじゃない?私たちはそもそもその中には居ないんだから。気分で決めちゃえばいいや、ぐらいの感じで居ればいいと思うわ。」
「いや、うん、最終的にはきっと気分で動いちゃうと思うんだけど、私だし。」
「じゃあなにが問題なの?」
んー、と、由佳はフォークを咥えたまま唸る。かわいいな、とランはこっそり思う。
「こういう行程があるのとないのとでは、後々の認識が変わるんじゃないかしら。生じるべき学びが消えるっていうかね。上手く言えないけど。」
「自覚的な人生を生きるってことよね。わりとあなたの本質よね、それって。」
由佳は頷く。
「要するにめんどくさいんどくさい女なんでしょうね、私は。」
由佳、とランは真顔になって食卓に身を乗り出す。な、なんだ、と由佳は少し身を引く。
「面白さには面倒臭さが不可欠だって、私は思ってる。」
由佳はそれについて少し考えた。
「そう表現されるとあんまり悪い気はしないわね。」
でしょ、とラン。
「さ、じゃあ晩御飯も済んだし私は戻るわね。」
「また何か研究してるの?」
「この前、あゆみちゃんに冗談で言った、人体自然発火薬、本当に作ってみたくなってね。」
「実験出来ないようなもん作るなよ。」
「まあそのへんはさ…オイタした敵対勢力とか捕まえて来てさ。」
「マッドだ、マッドサイエンティストだ。」
ふっふっふ、と低い声で笑ってランは自室へと戻って行った。
由佳は食器を片付け、部屋のソファーに座り、面倒臭い感じに戻った。仇討の仕事はまだ入って来ない。社会的に少し敷居が高過ぎるかもしれない。人探しの方は相変わらず入ってきているのだもの。まあ、そうよね、と由佳は思う。仇討の仕事が繁盛するなんて、よく考えたら気味が悪いわ。私も、ランも、吉田もやっぱりちょっとズレているのかも。その時、当の吉田から携帯に着信があった。
「どうしたの?」
「あ、姉さん。いまからちょっとそっち行っていいですかね。」
「いいけど、どうしたの?」
「ちょっとワケアリな女の子拾っちゃいまして…。」
あらら、と由佳。
「まあ連れてきなさいよ、退屈してたところだし。」
吉田におずおずとついて来たのは、いかにも人づきあいが苦手そうな、某名門高校の制服を着た小柄な女の子だった。由佳は二人をソファーに座らせて、インスタントコーヒーを入れた。
「お嬢さんコーヒー飲める?」
ミルクがあれば、とか細い声で女の子が答える。由佳はミルクのポーションを二つつけてやった。
「で、どういう?」
と、由佳は吉田に尋ねる。
「ワケアリなことはわかるんですが、それ以上は私には…」
「わかるようなわからないような話ね。」
「いや、なんていうか、私らみたいな人間は厄介ごとを抱えてる人間は佇まいでわかると言いますか。」
「あー、なんだっけ、同じ穴のムジナ?」
「ちょっと違うと思います。」
「そう…。」
話せば、と、女の子は声を振り絞る。由佳と吉田は漫才みたいな会話を止める。
「話せば、助けてくれるんですか?」
もちろん、と由佳と吉田は華麗にハモる。そして顔を見合わせる。女の子は一瞬堪えようとしたが結局吹き出してしまう。




