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仲見、と名乗ったその男は、一見暴力沙汰とは無縁に見えるただの初老の男だった。程よく老いて、程よく肥えたただの男という印象だった。髪も薄くなり始めていた。ただ、小さな目の中に見える暗い光が、間違いなく普通の人間ではないことを感じさせた。狂犬に黒いスーツを着せたようなボディガードを二人連れていた。前日に自ら会見の場を設けて欲しいと申し入れ、由佳が自分の事務所で吉田同席のもと出迎えた、というわけだ。
「あなたがなにか、得体の知れない力を持っていることはわかっている。」
そうですか、という感じに由佳は頷いた。
「しかし、我々の組は総勢5000を超えますよ。我々を敵に回すということは…そういうことですよ。」
「私としてはそんなことどうでもいいことです。」
仲見の細い目がさらに細く、暗くなる。
「それはどういう…。」
「あなたの組のものが闇討ちなんて卑怯な手段で私の組のものを襲った。だから罰を受けてもらった。私になにか落度がありますか?」
由佳は深くソファーに腰かけたまま静かにそう言った。む、と仲見は小さく呻いた。
「なぜこのような真似を?私たちは行きがかり上人員が増えただけのことです。それ以上どんな意味もありません。」
仲見はまた、呻きながら座り直した。あの呻き声はただの癖なのかもしれない。
「私らにとって脅威となりかねんものは、早めに潰しておかないといけないと思いましてな。危機管理とでも言いますかな。」
陳腐な挑発だわ、と、由佳は思った。
「議論の余地はない、ということで宜しいですか?」
うむ、と、仲見は静かに頷いた。わかりました、と由佳も頷いた。
「場所はこちらが用意します。全面戦争と行きましょう。ルールはありません。全員連れて来てもいいし、どんな武器を持って来てもらっても結構ですよ。」
仲見はなにも言わず由佳の目を覗き込んだ。由佳が真面目な顔をして冗談を言っているのかと考えているようだった。
「…いいでしょう。」
「では、準備が整ったらご連絡致しますね。」
仲見はゆっくりと立ち上がり、丁寧に礼をして護衛と共に事務所を出て行った。
「吉田さん、ウチで扱ってる物件で、巨大ショッピングモールの廃墟みたいなの、あるかしら?」
「テーマパークなら三つくらいあったような気がします。」
「じゃあ、その中で一番広いところを会場にしましょうか。」
「兵隊どうします?」
「あ、要らない。観客として来るなら別にいいわよ。」
「ですよね。」
その日のランとのトレーニングはかなり熱の入ったものになった。先日編み出したカブト角刀をメインで戦おうと由佳はもう決めていた。一気に大人数を相手にするにはその方が効率がいいかなと考えたのだ。あと単純に、簡単でいい。右手は刀で使うと決めておいて、左腕で攪乱や拘束といった合わせ技を使うのもいいだろう。
「単純にスピード強化してもいいかも。」
ランが提案した。いいわね、と由佳も飛びついた。そこからは速度を意識した動きを追求した。
「基本的に人間よりはずっと速く動けるはずよね。」
「そうね。動き続けてればそうそう危ないこともないわ。」
「相手、何人だっけ。」
「5000以上らしいよ。」
素敵なショーになりそうね、とランは腕を回した。昭和の張り切り方だ、と由佳はこっそり思った。




