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百虫少女  作者: ホロウ・シカエルボク
人間の深海
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4


由佳とランは、あっという間に眠りに落ちた。あゆみは、おそらくこうなるだろうと思い、昼間のうちに寝ておいたのでまるで眠気は無く、食器を片付け、本堂を掃除してからは何もすることがなく、一人で座禅を組んでいた。あゆみはこの寺があまりにも自分の身体に馴染んでいることを知った。この寺の住職との思い出のせいだけではなかった。ここに来ると必要なピースが埋まる、そんな感じがした。いつかはこの寺も誰かの手に渡ってしまうのか。あゆみはもう二度とこの寺に来ることは無いと思っていたが、結局こうして来てしまった。それが偶然だとは思えなかった。この寺が自分を求めている気がしてならなかった。うん、とひとつ頷いて、不動産屋に電話を掛けた。そして、自分がここを買うと告げた。

「即金で全額払いますから、今日からもうここに住んでいいかしら?」

不動産屋は少しの間呆気にとられたのか沈黙していたが、またとないチャンスとばかりにこの話に飛びついた。あっという間に話は終わり、あゆみは電話を切った。今度は現在の住処を管理している会社に電話をして、家を買ったので解約したいと告げた。長く住んでいた部屋だったので特に問題はなく、今月一杯ですべて引き払うという話に落ち着いた。それから引っ越し業者に電話をかけ、一番早く取れる予約を取った。二週間後だった。あゆみはあまりものを持つタイプではないので、荷造りはそれほど苦労しないだろう。すぐにでも忙しく動きたかったが、二人がいつ目を覚ますかわからなかったので動きようがなかった。あゆみは数分難しい顔をしてやきもきしていたが、こうなりゃとことん付き合わないと、と決め、二人が目覚めるまで瞑想することにした。


数時間後、目を覚ました二人は顔を洗い、あゆみを探して本堂へとやって来た。そして、座禅を組んでいるあゆみの静けさに驚いて息を飲んだ。それはまるで人間に見えなかった。超自然的な存在のように見えた。しかも、闇雲に精神が暴走することもなく、適度な量が繭のようにあゆみの身体をまとっていた。二人は我知らず小声で、凄いね、と言い合った。そのまま五分ほど魅入っていたらあゆみが目を開いた。

「あ、起きましたか。よく眠れましたか?」

「あ、はい、お見事な座禅でした、師匠。」

由佳が間髪入れずそう返すと、あゆみは凄く嬉しそうに笑った。

「主らも精進するのじゃぞ。」

「はい、師匠。」

ドリフか、とランがツッコミを入れ、三人はひとしきり笑った。


ランと由佳は本当にありがとう、と、礼を言って帰って行った。ふう、とあゆみは息をついた。本当に良かった。一時はどうなることかと思った。

「さて、私もいったん戻らないと…」


由佳とランが事務所に戻ると、吉田が前で待っていた。

「あなたは必ずここで私たちの帰りを待ってるのね。」

「あ、姉さん、具合はもういいんですか。」

うん、と由佳は頷いた。

「ごめんね心配かけて。」

いえいえ、と吉田は少し緊張を解いて言った。

「よかったです。みんな心配していましたよ。」

軽い話はそこまでだった。三人は事務所に入り、いつもの席に着いた。


「新入りの組のものが何人か、襲撃を受けています。一人殺られて、三人重傷です。」

「誰の仕業か見当はついてるの?」

「正直わからないです。誰も姿を見ていないのでね。おそらくは、我々が一大勢力となりつつあることを気に入ってないどこかの組だろうと思いますが。」

まあそうでしょうね、と、由佳は頷いた。

「とりあえずお見舞いに行きましょうか。車回してください。」

「わかりました。」

本当に、やっと調子戻ったところなのに、と、ラン。いいのよ。

「片付けるなら早い方がいいわ。私の仲間を傷つけたらどうなるかきっちり教えてやる。」

由佳の目がギラリと光った。怖ぁ、とランは思わず口に出した。そして、あんたなに関係ない人みたいなこと言ってるのよ、と由佳が睨んだ。いや、復調し過ぎなのよ、とランは苦笑した。


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