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あゆみは翌日すぐに不動産屋に連絡を入れ、今現在の寺の状況を聞き、幾らかで借りることは可能か、と質問した。本当はそういうのはやってないんですけどね、と顔馴染の社長は前置きを入れたものの、ほかならぬ日向さんの頼みですから、と、快諾した。ありがとうございます、と日向は礼を言った。ハウスクリーニングはどうするかと聞かれたので、お願いしますと答えた。
「今日中に出来たりしますか?」
ムム、と社長は少し唸り声をあげたが、なんとかしましょうと力強く答えた。
「終わりましたらご連絡いたしますね。」
「よろしくお願いします。」
ランは、一日中やきもきして過ごした。昨夜眠りについたまま、由佳は昼になっても起きて来なかった。眠り続けているのか、それとも、目が覚めたものの起きる気力すら得られない状態なのか。様子を見に行くこともなぜか躊躇われた。
夕方遅く、あゆみからの電話が鳴った。
「準備出来ました。明日からでも出来ますよ。」
「あなたも得体がしれないわね。普通そんなに早く進まないでしょ。」
「私のお得意様だって、言いませんでしたっけ?多少の無理ならわりと聞いてくれるんです。ところで、由佳さんはどうですか?」
「一日起きて来ないわ。寝ているかどうかはわからないけど。」
んー、と、あゆみは少し考えた。
「由佳さんに電話変わってもらえますか?寝てても起こしてください。」
ランは由佳の部屋をノックした。はい、と返事が聞こえたので、部屋に入ると、由佳はベッドで上半身だけを起こしたかたちで、ぼんやりとしていた。寝乱れた髪もそのままだった。あゆみさんから電話よ、と、ランは勤めてなんでもない感じでそう話しかけた。由佳は、小さく頷いてランの携帯を受け取った。そして、時折、うん、うん、とか、わかる、と、短い言葉を挟みながら、由佳の話を聞いていた。終わると、ランに携帯を返し、ありがとう、と言って再び寝る体勢に入った。
「何か食べなくていい?」
「うん、いい。」
「そう…じゃあ、おやすみ。」
「おやすみ。」
ランには、力の無い由佳の様子が辛くて仕方がなかった。自分の部屋に戻りながら、あゆみとの会話を再開した。
「由佳さんはお寺の場所を知っています。明日、ナビしてもらいながら来てください。私はすでにお寺に居ますんで、いつでも大丈夫です。食料なんかも揃っていますんで、着の身着のままで。」
わかった、と、ランは答えて、お休みを言い合って電話を切った。あゆみには由佳を苦しめているものの正体が見えているみたいだ。霊に長く関わっているせいだろうか。それともやはり、あゆみにも由佳のようになった経験があるのだろうか。うらやましいとは思えなかった。そもそも生物的にまるで違う生きものなのだ。ランが願うのはただひとつ、由佳がいま迷い込んでいる迷路から出て来てくれることだけだ。不意に、部屋のドアがノックされて、由佳が入ってきた。もう眠れない、と、ひとり言のように由佳は言った。
「お寺に行こう。あゆみさんのお寺。いまから。」
ランは一瞬迷ったが、そうね、と受け入れた。




