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由佳は、それから一か月ほど件の組に潜り込み、自分の予想がほぼ当たっていたことを確信した。島田を殺ったことで組の株は上がり、人員は増え、一大勢力となりつつあった。そして、体制が完全に整ったところで近県に出向き、制圧し、更なる拡大をしようと目論んでいた。違法薬物メインの商売でかなりの業績を上げていた。こういうの、昔に比べてかなり厳しくなってると思うんだけどな、と由佳は不思議に思った。もしかしたら、売るのは組とは無関係の人間なのかもしれない。夜の街をうろついている連中に餌を与えて手伝わせれば、仮にそいつが捕まっても組にはダメージは無い。捕まっても喋るんじゃねえぞ、沈めちまうぞとでも脅しておけば口を割る心配もないだろう。そして、人間の程度。島田のようなある意味できちんとした人間は居なかった。サファリパークとでも言えばいいのか、人よりは獣に近いような連中がほとんどだった。こういうヤカラは絶対的な恐怖を与えた上で冥府に送ってやらねばならない。由佳は、ひとつため息をついた。
(私、もしかしたら初めから島田さん側の人間だったのかもしれない。)
とはいえそんなことを悩んでいる場合ではなかった。一人ずつ始末するか、それとも…
(まあ、面倒臭いからいっぺんに殺っちゃうか。)
組が入っているのは正方形の部屋がワンフロア―に一つずつあるオフィスビル的なもので、広さはそこそこあった。一階はガレージで、二階に下っ端が15人ほど、フェリーの雑魚寝するスペースみたいにわらわらと控えていた。三階が幹部クラス、四階が組長、という配置で、昼間は誰かしらが出かけていたが、夜には全員揃っていることが多かった。
(今日も確か全員いる筈ね。)
由佳は一度下まで降り、姿を隠すことなくふらりと二階事務所のドアを開けた。
一番手前に居た金髪五分刈りが絵に描いたようなああん?という顔で由佳を見た。そしてすぐに部屋の奥へ怒鳴った。
「おいヨシ!てめえ鍵かけとらんが!!なにしとんじゃ!」
いや、自分間違いなく掛けました。マコトにも確認してもらいました、と奥から声がした。パーテーションがわりと丁寧に並べられてあって、奥の状態はよくわからなかった。金髪五分刈りはなんだそら、と首をひねった後、まあいいや、と由佳に向き直り、
「お姉ちゃん、ここどこだか知らないの?あんたみたいな綺麗な人がここに来たら、そりゃもう酷い目に遭うよ?」
由佳は目を細めてまるで違うことを考えていた。なんでこんな、おもちゃの光線銃みたいな声で喋ることが出来るんだろう。声帯がぶっ壊れているのかしら。
「なあ、聞いてんの?」と金髪。
「優しくしてやってるうちに帰れって。」
ああ、ごめんなさい、と由佳。
「その声、わざと出してるの?」
「あ?」
「おもちゃの光線銃みたいな声だなと思って。」
金髪は自分の座っていた椅子を蹴っ飛ばし、なめとんかこらぁ、と最大音量で怒鳴った。奥からぞろぞろと下っ端たちが顔を出した。舐める価値もない、と由佳は言い放ち、右腕を巨大なムカデに変えた。いきり立っていた男たちの顔が一瞬で青ざめる。
「上に取り次いでもらう必要はないわ。」
由佳は笑顔でそう言った。
「このあと皆さんにお会いさせていただきますから。」
あなたたちを片付けてからね、と言い添えてすぐ、右腕を振るう。ムカデの牙はあっという間に硬直して動けない下っ端たちを文字通り毒牙にかけていく。一分足らずで、赤い浮腫に塗れて死んだ下っ端の盛り合わせの出来上がり。
「前菜にもならないわ。」
由佳は言い捨てて三階への階段を上っていった。ブルースリーの映画でこんなのあったな、とか思いながら。




