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姉さん、と吉田はやっぱり言って、潤んだ目を隠すように深々と一礼した。思いのすべてを語るようなきちんとした礼だった。ちょっと歳とって貫禄出てきたな、と由佳は思った。それから、ランも交え、事務所の応接用のソファーで向かい合って仕事の話をした。仇討をする、という由佳の案に吉田もおおむね賛成だった。吉田もやはり、探すだけという仕事に疑問を感じていたのだ。
「まともな殺され方をしていない人とか、どうしても居ますもんね。証拠だけ見つけて終わりって、なにかスッキリしないなとは思っていました。」
じゃ、決まりね、と由佳は言った。しかし、と吉田は続けた。
「値段はどうします?流石にコロシとなると、人探しと同じというわけにはいかないんじゃないですか?」
同じでいいわよ、と由佳。
「しかし…。」
「お金目当てじゃないもの。」
吉田はまだ何か考えていたが、そうですね、と引き下がった。とりあえず始めてみよう、と考えたみたいに見えた。それでね、と由佳は続けた。
「最初の依頼人、あなたにお願いしたいのよ。」
「…どういうことでしょうか。」
「仲村は私が始末したけれど、ねえ、彼もどこかの組の人間じゃないの?」
ああ…と、吉田は、島田が死んで狼狽えるばかりだった自分を思い出した。
「そういえば、細かい話はなにもしていませんでしたね…。」
吉田は自分の爪先の少し先の床の一点を見つめながら、ぽつぽつと話し始めた。そもそも吉田は仲村と同じ組に居た。しかし兄貴分と折り合いが悪く、本気で憎む前にと組を抜け、島田の組に入った。仲村はそのことが気に入らず、執拗に吉田に絡んでくるようになった。終いには銃まで持ち出して吉田を脅しにかかり、そのことにキレた島田が仲村の所属している組に正式にクレームをつけた。組のものは仲村がしていることを何も知らなかった。すまんことをした。仲村は破門にする。煮るなり焼くなり好きにして構わない、というのが先方の返事だった。島田は煮ることも焼くこともせず、ただただ事務所で仲村に殴る蹴るの制裁を加えた。それも、ただボコボコにするのではなく、バテないようにたっぷりと間を取りながら、渾身の一撃を入れ続けた。そうして意識を失くした仲村を車で街外れの展望台に連れて行き、ベンチに寝かせておいた。仲村はそれから島田に刃を突き刺すその日まで、一度も姿を見せなかった―と、だいたいそういう話だった。
「それ、何年ぐらい前の話かしら?」
「もう、5、6年は前になりますね。」
おかしいわよね、と由佳。
「そんな昔の話を今頃蒸し返したりするかしら?なぜ5年も待った?島田さんを後ろから刺すチャンスなんて、そんなに待たなくてもあったはずだわ。」
そうね、とラン。
「そもそも、そんなに恨みに思うような出来事にも思えないわ。2年もすれば忘れるようなことじゃない。5年の間なにもなかったのなら、島田さんの制裁は充分効果があったということになるわ。そういうことよね?」
由佳は頷く。つまりどういうことなんです?と吉田は真剣な表情で尋ねる。あなたね、と由佳は呆れた顔で言う。
「少しは考えなさいよ。」
「考えたけどわかんないんですよ。」
由佳は一回目を閉じて深呼吸した。
「だからさ、たとえばこういうことがあったんじゃないかしら…島田を殺せば組に戻してやると親分が囁いた、みたいな。」
ああ、と吉田は目を丸くした。そんな感じするわよね、とランは頷いた。
早いうちに調べてみたほうがいいかもしれないわね、と由佳。
「島田さんが死んで2年ちょっと。島田さんを殺すだけじゃなく、もっとなにかあちらのボスが企んでるとしたら…。」
「でも、2年なにもなかったんですよ?」
「そう、そこは考え過ぎかもしれない。だいたい、島田さんが私みたいな化物を抱えてることはもう知られてるだろうしね。リスクを考えて深くは望まなかったのかもしれない。ただ、島田さんの件に彼らが関わっているのは間違いないような気がするわ。島田を殺った、というだけでハクはつくでしょうしね。」
少し調べてみようよ、と、由佳は言った。それが良いと思うわ、とラン。
「私は手伝わないけどね…いまちょっと大きな研究をしてるから。」
うん、と由佳。
「そもそも二人で動くようなことでもないわ。」
「姉さん、自分で自分のことを化物って言いましたね?」
「あーら吉田さん、また巨大ミミズで可愛がってもらいたいのかしら?」
「ああ、いや、すいません、ごめんなさい。口が滑りました。勘弁してください。」
余程のトラウマだったのだろう、吉田は少し青ざめてすら居た。まったく、と苦笑交じりに由佳は言う。
「変なとこまで島田さんに似てきちゃって…」




