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ランは、昨日由佳の代理として行っている探偵の仕事を片付け、研究に没頭しているところだったが、ふいに手を止め(それはまるで由佳が目を覚ました瞬間のように)、いそいそと服を着替え、フードデリバリーにいくつかの料理を頼み、近所の酒屋でそこそこ値の張るシャンパンを買った。ランは由佳が動き始め、帰って来ることを感知していた、けれどそれが、二人の特性に寄るものなのか、ランがもともと持っていた能力なのかは知る由も無かった。とはいえ、そもそも二人の身体にはそれぞれの組織が混ざり込んでいるし、そうした共鳴のような現象が起こるのは当然といえば当然なのかもしれなかった。考えてみれば、二人はこれまで一度も、離れて過ごしたことなどなかったのだ。由佳が島田の仇を追ってここを出て行ってから、二年と三か月が過ぎていた。島田の代わりは吉田がきちんと務めてくれていた。むしろスケジュールの組み方や依頼人と会う段取りなどは、島田よりもずっとスムーズにこなしていた。といってもそれは当り前の話で、由佳に出会うまで島田は司令塔だったのだ。本来こんなマネージャーのような仕事をする役職ではなかった。彼が由佳の仕事を手伝っていたのは、本当に由佳のことを気に入っていたのだろう。デリバリーが大荷物を持ってやって来るのと、由佳が戻って来るのはほとんど同時だった。
「事務所に運んでもらおうか?」
由佳はただいまも言わずにそう訊いた。そうだね、とランは答えて、鍵を開けるのでついて来てください、とデリバリーの青年を先導した。ふぅ、と由佳はひとつ大きな息をついて、周囲をぐるっと見回して楽し気にうんうんと頷いた。事務所の来客用の大きなテーブルにこれでもかとばかり料理が並べられ、純朴そうな青年は終始、ランの美しさに強張りながらきちんと仕事をして帰って行った。じゃあ、始めるか、と、ランが由佳に言い、賛成、と由佳が答えた。二年三か月の隔たりなどまるで無いみたいだった。ただいま、お帰り、と言い合ったのは乾杯のあとだった。
「仕事を変えようと思うの。」
散々再会を喜び合ったあと、由佳は少しトーンを変えてそう言った。へえ、と、ランは興味深いわ、という調子でそう返した。
「どんな仕事?」
「仇討屋よ。ヒッサツよ。」
おお、とランは目を輝かせた。
「私、あなたが居ない間に仕掛人の映画一通り見ちゃったのよ。」
「相変わらずねあなた。それで誰の梅安が一番よかったの?」
「なんだかんだ言っても緒形拳が一番しっくりくるわよね。イメージとしてきちんと定着してるっていうか。」
まあ、そうね、と由佳は同意してから慌てて、そんな話をしてるんじゃない、と笑った。
「しばらくは今までの仕事のオプションみたいな感じでやってみようと思う。私たちは中継役を装ってね。例えば探している人物が誰かに殺されていた場合。被害者の親族がそれを望めば、そういう仕事をしている人に繋げることも出来ますが…みたいな感じで。」
それでいいんじゃない、と、ランは頷いた。
「確かに探すだけっていうのは、たまに煮え切らなさを感じるわよね。上手く言えないけど、自分たちに出来ることはこれだけなのかって。」
「そう。私は罪人は必ず裁かれるべきだと思うの。私たちに隠し事なんて出来ないわ。確実に証拠を掴んで、本当に悪いやつだけを殺すことが出来る。」
「そして誰にもそれが私たちのしたことだと突き止めることは出来ない。」
由佳は頷く。ランも同じように頷く。
「いい考えだと思うわ。早速明日にでも吉田さんに話しましょう。あの人、実務に関しては島田さんより優秀よ。」
島田さんに事務仕事なんか出来るわけないじゃない、と、吹き出しながら由佳。
「ジムには通ってたけどね。」
「面白くないな、それ。」
二人はけたけた笑った。値の張るシャンパンでの酔い方ではなかった。




