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探偵と研究で手一杯です、と、二人は声を合わせた。
「いつ仕事になるかわからない仕事ですから。」
島田はなにか言いたそうだったが、今日は失態続きなのでここは黙っておこうと考えた。よくよく聞いてみれば、島田がオーナーとなって、彼女が切り盛りするジムを来年にでも作るのだという。
「姉さんの仕事の窓口は続けますので、ご心配なく。」
無理しなくてもいいのよ、と由佳は意地悪をしてみた。
「俺が続けたいんですよ。姉さんに会って、俺の人生は変わったんだ。一生かけて恩返しします。」
素敵、と桐谷がキリスト教の祈りみたいなポーズでウットリした。ランは一瞬だけ、馬鹿か、という顔をした。
「式とかするの?」
そうですね、と島田。
「内々って感じでやろうかと。」
「じゃあ、詳しいこと決まったら、教えてね。」
「真っ先にお知らせしますよ。」
二人は立ち上がり、一礼して去って行った。
「出会ったころとは別人のようだわ…。」
驚きとも呆れとも取れる調子で、由佳が言った。
「歌謡曲の歌詞みたいね。」
なに、言ってんの、と、由佳がランの肩をパンと叩く。そして、うーん、と、感無量の声を上げた。
「向かい合って話せるようになったね。」
ランも満面の笑みで答えた。
ランは、以前由佳が使っていたオフィスの奥の部屋を使うことになった。私の部屋でもいいわよ、と由佳は言った。うん、とランは微笑んだ。
「だけど、ほとんど研究室に居ることになると思うからね。ぐっすり眠ることが出来れば十分よ。」
最初から根を詰めちゃ駄目よ、と、由佳はランの口調を真似て言った。
「まだその身体になってどんな影響があるかわからないんだから。」
そうだね、とランも由佳の言い回しを真似、それから二人で声を上げて笑った。
それから二人の日課に、新たな項目が加わった。必ず一緒に食事を取ることと、午後に二時間、「格闘術」の研究に勤しむことだった。要するに、手合わせというやつだ。由佳のリビングで一通りのことは出来た。ランは、由佳の情報を持って現在の身体に入ったので、由佳に出来ることはだいたい出来た。
「こうして戦ってみると、お互いの特性がよくわかるわね。私は直線的。由佳は流動的。」
虫と人間の違いなのかしら、とランは微笑んだ。そうね、と由佳。
「人間のほうがいろんなイメージを作りやすいっていうような部分はあると思うわ。この虫とこの虫でなんか出来そう、みたいなね。」
「あの、鱗粉に他の毒を乗せる発想は見事だったわ。」
そんなことあったね、と由佳は笑う。
「あれはもう、生物兵器的な発想よね。戦争をする種族ならではだわ。」
褒められてる感じしないわ、と由佳は今度は苦笑を返した。
「ともあれ、戦闘に関してはあなたの方が上手だわ。」
そう言ってからランは、ん?という顔をした。
「セントウって言ったら、お風呂に入りたくなっちゃった。」
どうぞ行ってらっしゃい、と由佳はうやうやしく一礼した。
式の日取りを教えにやって来た島田を見て、由佳はうわあ、と声を上げた。見事なスキンヘッドになっていたのだ。
「最近、スティーブ・オースチンにハマっちゃって…。」
「スティーブ…誰?」
アメリカのプロレスラーです。と島田。
「スタナーが必殺技でしてね。モーションがイカしてるんですわ。」
「島田さんプロレス好きだったの?」
筋肉と共に覚え始めました、と、島田は妙に真面目な顔で言った。
「あ。そう…。」
そんなこんなで招待状を受け取り、由佳は微笑んだ。島田が楽しそうにしているとなんだか由佳も嬉しかった。
「幸せそうね。」
幸せです、と島田は力強く答えた。
「本当に、姉さんのおかげです。」
それ、毎回言うのやめて、と由佳は手をひらひらさせる。
「むず痒いから。」
でも、本当です、と島田は畳みかけた。はいはい、と、由佳は軽く流す。
「新婚旅行は?」
「一週間ほど、伊豆に行ってこようかと。」
「昭和ね~。」
「海外ってガラでもないですしね。」
ん、ん、と島田は喉を鳴らした。
「それに、彼女と一緒なら家に居たって天国ですよ。一生二人でワークアウトしますよ。」
素敵、と由佳はこの前の桐谷の真似をした。島田はニヘラと笑った。
「じゃあ、その間は私も仕事休むかな。ランと温泉にでも行こう。」
一緒に行きますか?と島田は目を輝かせた。そんな新婚旅行がありますか、と、由佳はツッコミを入れた。
「って思ったんだけど。」
夕食のときにランにその話を振ってみると、案の定乗って来た。
「どこに行こう?」
ランはニヤッとする。
「いま凄く行きたい温泉、あるのよね。」




