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百虫少女  作者: ホロウ・シカエルボク
新しい形
23/56

3

結果として、全員が薬を飲み、全員が結果に満足して帰って行った。由佳は当初の予定通りバイト料を払おうとしたが、島田を始め全員が鉄壁のチームワークでそれを拒否した。こんないい思いをして金を貰うなんてあっちゃいけないことです。島田がそう言うならもうなにを言っても聞かないので由佳もわかったわ、と引っ込めた。皆が居なくなってから、どうだった?と由佳はラインに意見を求めた。

「いいんじゃない?予想通りの結果よ。可もなく不可もない。」

それは薬にとっては一番いい結果なのだそうだ。予想より良過ぎても悪過ぎても問題になる。なにしろ身体に入れるものだから、完璧に結果の見える調合にしなくてはいけない。

「完成したら、売るの?」

販売にこぎつけるのは難しいわね、とラインは考えながら言った。

「どこの誰々が作りました、っていう証明が出来ないのは痛いわ。死人と蜘蛛が作りました、なんて通じるわけないし。」

そうか、と、由佳。

「もぐりの医者とかやろうかな。薬が増えたら。」

どれだけ仕事兼ねるつもりよ、とライン。

「もぐりの医者で探偵とか、二時間サスペンスのキャラクターだからね、もう。」

「やっぱりミーハーなところ、あるわよねあなた。なにが面白いのああいうドラマ。」

設定から面白いじゃない、とラインは反駁する。

「スチュワーデスとか、温泉旅館の女将とか、おばさんとか、お構いなしに刑事呼ばわりすんのよ?あれもうファンタジーよ。」

だいたい温泉刑事ってなによ、とラインは続ける。

「何課で働いてんのよ。就労法規とかどうなってんの?」

「それ、世界観を肯定してんの?否定してんの?」

「えー、んっと、わかんない。でもさ、そういう違和感がもう醍醐味なのよね。免罪符というか、そういう世界観ですってタイトルにでかでかと書かれたら、少々の矛盾とかもう気にもならずに入れるじゃない?そういうところよ。」

「わかるような、わからないような…。」

「なんでわからないのよ、この面白さが。」

「だったらさ、世界観がきちんとしていて、ぶっ飛んでるものを見たほうが面白いじゃない、それじゃ駄目なの?」

あのね、とラインは待ってましたとばかりに食いついてくる。勝利を確信したときのラインだ。

「縁日のお化け屋敷がハリウッドばりの特殊メイクしてたらつまらないでしょ?そういうことなのよ。」

由佳はまた言い負かされて黙ってしまう。なんなんだろうこの、当たってるのか当たってないのかすらよくわからない比喩の説得力は。だけど、こんなこと考えながらあのお約束だらけの世界を楽しんでるのはラインくらいだろうな、と、それは強く感じた。んー、と、ラインが急に考え込むような声を出す。

「ん、どした?」

「こういうのってさ、やっぱり、テーブルを挟んで向かい合ってやったほうが面白いと思わない?」

そりゃあ、そうだけど、と由佳も同意する。

「だけど、これはこれでいいもんじゃない。まあでも…あなたは意識だけで、身体動かせないもんねえ。」

それなのよね、とライン。

「一人よりは二人でやった方が、実験だってもっと捗るじゃない。」

「そりゃまあそうよねえ、凄く時間かかる実験とかあるしね。二人だったらあっちもこっちも、って、出来るわよね。」

そうよ、そうか、うん…と、ラインは考え込んだ。あなたまさか、と由佳はピンと来た。

「私の身体から抜け出して、二人になる方法を探そうっていうの…?」


由佳とラインは、早速その可能性について探り始めた―風呂に入りながら。

「さすがに裏ルートでも、新鮮な死体となると難しいし、完全に犯罪行為よね…。島田さんに足を洗わせた以上、私たちが犯罪者になるわけにはいかないわ。」

「スーパーとか…問屋でもいいけど、お肉買ってきてそこから作れないかしら。」

無理ね、とライン。

「死んで時間が経ち過ぎてる…。」

「時間ね…。」

二人は湯船で熟考した。あ、と由佳がなにかを思いついた。

「猟友会の人、居たわよね、依頼人に…。」

ナイス、とラインは声を弾ませた。



数日後には由佳は猟友会に在籍している元依頼人を訪ね、捌きたての鹿肉を貰って帰って来た。鮮度のことを考えてスズメバチの羽で、全速力だ。

まずは全体的な構成のコピーを取りましょう、と、ライン。

「なんだかいままでより気合が入るわね。」

「二人で温泉旅行出来るように頑張ろう。」

ようし、と、二人は徹底的な研究に取り掛かった。鹿肉の状態は由佳がラインと融合したときのそれよりもずっと新鮮だった。構造を理解して培養すれば不可能じゃない、とラインは言った。

「みんな、いきなり人間の器を作ろうとするから失敗する。細かくパーツに分けて、プラモデルみたいに繋げていけばいいのよ。神経とか血管なんかは身体の中に入ってから作るから考えなくていい。あなたの構造をコピーして植え付ける感じだわ。普通に考えれば無理なことよ。でも私なら出来るわ。」

由佳は、自分の前にラインが人間の女として立つところを想像した。けれど、ラインほどの手応えを得ていない自分には、その絵は上手く想像が出来なかった。

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