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姉さんはいったん後ろで待機してください、と島田が言うので、由佳は従った。島田と吉田は二人で、特に合図もせず同時にドアを蹴り開けた。んじゃこりゃあ、と中からもの凄い怒号がする。
「吠えんな!上村出せやオラァ!!」
由佳はどちらかというと、小さな声の島田しか知らなかったので、そんな堂々とした島田は中々に新鮮だった。流石だわ、と心で拍手を送っていた。おう、お前ら退け、と、ドスの効いた声の男が下っ端を下がらせた。こういう流れって様式美みたいなもんなのかしら、と由佳は思った。
「汚い真似してくれんじゃねえか、上村よ。」
へっ、と上村は笑う。
「お前らあれだろ…?ガキの使いしてんだろいま?いい笑いものだぜ。」
ただのガキじゃないわよ、と、由佳が合図も待たずに前に出る、あ、と島田は言ったが、それ以上は抗議しなかった。子供じゃねえか、と上村が呆れた声を出す。こういう、太った金髪の芸人さんいたな、と由佳は思った。
「ただの子供じゃないのよ。」
由佳は右腕を突き出し、変化させた。腕はミミズ、その頭の部分だけがスズメバチの針になっていた。
「またエグイもん考えましたね…。」
由佳の後ろで島田が口を動かさずに言う。新兵器よ、と由佳。
「どっかで試したかったのよね…あなたたち、ガキの使いを殺った罪は重いわよ!」
撃て、お前ら撃てぇ、と、恐怖にかられた上村の少し裏返った叫びに子分が呼応するように銃を構えた。島田と吉田は流れ弾に当たらないように廊下へと飛んだ。騒ぎを聞きつけて上の階からも組員が降りてきた。七つほどの銃が一斉に発射された。
「はぁ…?」
一人が驚きの声を上げる。由佳は平然として、にやにや笑っていた。
「なにしてるの?ガキだからって手を抜いてるんじゃないでしょうね?」
そう言いながら右腕を振るう。一番手前にいた若い男の額を貫き、手元に戻す。男は痙攣しながら、全身を赤い浮腫に包まれて死んだ。さっすが蜂毒、と由佳。
「ムカデの倍は速いわね。」
悲鳴を上げて逃げようとした男を素早くミミズが襲う。巻き付き、針を刺す。また一人、また一人と、なす術なくそうして殺されていった。ひいふうみ…と、由佳は残った人間を数える。
「15人。それで全員?」
そ、そうだ、と上村が思わず答える。ひるむものかと声を荒げる。
「いくらお前が化物でもなぁ、これだけの人数相手じゃどうにもならねえぞコラァ!」
そう思ってた時期が俺にもありました。島田が廊下で呟く。由佳はそれを聞いてニコッと笑い、島田に呼びかけた。
「外で待ってて。十分くらいで済むと思うから。」
承知しました。島田はそう答えて、吉田と二人で外へ出た。そして、二階の事務所の窓を見上げながら煙草を吸って待った。
「あの中でいま、どんなことが起こってるんでしょうかね…。」
考えたくもねえな、と島田は煙を吹かしながら答えた。
「サイコーに怖い思いをしながら、死んで行ってんだよ、ひとりずつ。」
二人は同時にため息をついた。
「顔は可愛いのになぁ…。」
「―あ?」
「あ、いや…ゴホン。」
「まあ、可愛いっちゃ可愛いがな。」
そう言いながら二人は、窓の向こうで自慢の腕を振るう奇妙な生きものの影を見た。
「あれだもんな。」
「あれですもんね。」
二人は由佳の異常な聴力のことを知らなかった。あとで怖がらせてやる。地獄絵図を繰り広げながら由佳はそう思った。
島田が時計を見て、六分か、と呟いたころだった。事務所の窓が突然開き、上村が顔を出した。血と涙と鼻水で酷い顔になっていた。
「島田ぁ!反則だろうこんなの!!」
それが上村の最期の言葉だった。由佳の針が後頭部から額へと突き抜け、島田は窓から室内へと落ちた。それから由佳が窓から顔を出した。
「何分だった?」
「六分二十秒です。お見事です。」
ニコッと笑って由佳は窓を閉めた。顔は可愛いんだけどな、と島田はもう一度言った。
すぐに由佳は降りてきた。今回は死体はそのままにするわ、と開口一番告げた。
「その方が、宣伝になるでしょ。ウチに手を出したらただじゃ済まない、って。」
おみそれしました、と、島田。じゃあ、帰りましょうか、と吉田。車が高速に乗ってから由佳は切り出した。
「顔は可愛いんだけどなぁ、ってなに?」
えっ…と吉田が運転席で声を出した。な、なんの話ですかね、と島田がとぼけた。
「虫ってね、結構耳良いのよ。脚とかにも耳があってね…。」
いや、姉さん、と島田が焦った声を出す。
「下でなに話してたか、全部聞こえてたんだから。」
「すいません…。」
許しません、と由佳は答えて、高速のインターが見えてくるまでずっと、ミミズの腕で二人を撫で回し続けた。本当にやめてください、という二人の声をずっと無視して。




