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※地名は作者が適当につけたものです。
千佳の仕事はあっという間に軌道に乗った。前述の通り、行方不明者は日本にはごまんといるのだ。「必ず何かは見つけてくれる」探偵が居るという話は次第に広がり、時には一日の内に二件も片付けることがあった。なにしろ移動に時間がかからないし、隠された秘密を見つけるのも造作ないのだ。事実、ほとんどの仕事に苦労などなかった。島田は、オフィスの家賃と光熱費、それから仕事料から二割を取るだけで、千佳がもっと取っていいと言っても絶対にそうしなかった。
「あんたのおかげでウチは危ない仕事をしなくてもやっていける。若いものを食わせてやれている。これ以上は要らないんだ。」
「頑固ねー。」
「はぐれものにも通すべき筋というものがあるんだ、わかって欲しい。」
じゃあ、わかった、と千佳は言った。じゃあ…、と、島田は絶句した。
半年の間、そんな風に順調に仕事は続いた。いまや宣伝などする必要はなく、日本全国から千佳の手腕を求める声が殺到し、島田は他の仕事を部下に任せ、客と千佳のスケジュールを折り合わせるのに頭を悩ませていた。
その日も千佳は、十時にはオフィスのデスクに座り、客が来るのを待っていた。二分前に入って来た客を見て千佳の心は騒いだが、その動揺は表には全く現れなかった。ラインは千佳の心がそれほど騒いだのは初めてだったので、何事だろうと訝った。
入ってきたのは四十代半ばといったところの、痩せた女だった。こちら、探偵さんの…と、小さな声で言った。デスクに居たのが予想より若い女だったので、不安になったのだろう。そうです、探偵の由佳です、と千佳は答え、デスクの前の応接スペースの椅子をすすめた。客の女は一礼して腰を下ろした。
「コーヒーでいいですか?インスタントですけど。」
ではいただきます、と女は言った。早く本題に入りたい様子だった。千佳は手早くコーヒーをふたつ用意し、テーブルに置いた。
「では、伺いましょう。写真の方はお持ちですか?」
はい、と女はバッグから写真を一枚出して、テーブルに差し出した。その写真を見て、ラインは千佳の動揺の理由を知った。
「鈴原千佳です。私は母親で優枝といいます。佐原県の佐原市に住んでいるのですが、昨年の冬、二月の八日、バイトに…その、駅のそばのファミレスでウェイトレスのアルバイトをしていたのですが、その帰りに行方がわからなくなりました。バイト先に確認してみましたが、その日も時間通りに出勤して、四時間で上がったそうです。」
千佳は写真を見ながら、相槌を何度か打った。演劇コンクールで賞を貰ったときの写真だ。
「高校生ですね?」
「はい、二年生です。」
「この日は学校には…。」
「行っていました。」
「捜索願の方は出されましたか?」
「はい、でも…事件性が確認出来ない以上、捜索に手が回せるかどうかは保証出来ない、との答えでした。」
千佳は頷いた。
「これは報道されていないのですが、一昨年から去年にかけて、この街の周辺の都市部で、若い女性が行方不明になるという事件がいくつか起こっています。」
女の身体が強張る。
「その関連だろうと思われる件を二件、私も扱いました。いずれも当人を発見出来ず、私物をいくつか発見しただけに終わりました。入念に調査しましたが、そもそも事件かどうかの可能性すら見つからないのです。目撃者などもまるで居ません。ただ若い女性が一人、突然姿を消し、まるで見つからないというだけの話です。今回のご依頼の件がそれにあたるかどうかは断言は出来ませんが、可能性は高いと私は思います。もちろん、当人を見つけられることもあります。それは調査の中で足取りを辿ることが出来るからです。それは、つまり、本人が自分の意思で動いている場合には、ということです。」
千佳はバッグの上で握りしめられる女の手を見ていた。
「大金を払ってお辛い結果になるかもしれません。たいしたものを見つけることが出来ない場合も多々あります。それでも依頼されますか?」
よろしくお願い致します、と、女は深々と頭を下げた。千佳は頷いた。
「前金となります、ご用意のほうは?」
はい、と、女は封筒を差し出した。
「いま用意出来る額です。これでどれだけ探してもらえますか?」
千佳は静かに封筒から金を取り出し、数えた。三十万あった。前金で出せるだけの額を。それに見合った捜査をするというのが島田と相談して決めたルールだった。その三十万がどれだけ重いものか、千佳にはよくわかっていた。一週間、と、千佳は言った。
「一週間いただけますか?必ずなにかしらの手掛かりを見つけて来ます。ご足労ですが来週、もう一度この時間にここに来ていただけますか?」
「ありがとうございます、よろしくお願いします。」
「それから、私もこれから現地に赴いて調査をすることとなりますが、もし、そちらで私を見かけても声をかけたりするようなことは控えてください。薄々おわかりかと思いますが、真っ当な職業ではありません。私に関りを持つことで面倒なことになる可能性も十分にあります。どうかよろしくお願いします。」
はい、はい…、と、女には二度頷いてまた深く頭を下げ、オフィスを出て行った。千佳はふう、と長い長い息を吐き、どっかりとソファーに沈み込んだ。




